夏真っ盛りのある日。
「息子達に夏の思い出を作ってやりたい!」
と叫ぶ三男に、五男六男が
「俺ら(僕達)も遊びに行きたい!!」
と呼応し、家庭持ちの四男の
「私もたまには家族サービスしてやりたいですね」
の一言がだめ押しになり、隊長な長男とそのお目付け化している次男でどうにか調整して、
兄弟総出で出掛けられる日を丸1日確保し、海まで遊びに行くことになった。

そんなわけで、兄弟7人+三男セブンの息子達─ゼロとレイ─と四男ジャックの妻子に
ゼロの友人達とついでにヒカリまで加えた大所帯で海に着き、まずは各々、砂浜で
遊んだり波に揺られたり遠泳に行ったりと、好きなように過ごし、しばらく経ってから、
五男エースと六男タロウの仕切りで、スイカ割りをすることになった。
そして、海は初めてではない─以前もう片方の家族とリゾートに行ったことがある─が、
「スイカ割りは、何をするんだ?」
なセブンの養いっ子のレイ(5)に、ざっくり説明をしてやり、目隠しをし─幼児なので
その場で何度か回るのは免除して─、スイカのある方に誘導して割らせようとしたが……

「レイ、もうちょっと右だよ」
「そうそう。そっち側で、まっすぐ行って」
「わかった。……ゴモラ、超振動波だ!」

大人達の指示する方向を向くと、いつも連れているゴモラ(体長2m位)の必殺技で、スイカを粉微塵に砕いた。

「スイカ、割れたか?」
「あー、うん。割れはしたけどな」
「うん。割れたけど、そういう遊びじゃないんだよねぇ……」

目隠しを外し訊ねるレイと、「褒めて褒めて」と言いたげなゴモラに、説明が足りなかったかぁ。と反省した
エースとタロウは、誰に見本をやらせたら良いか少し考え、

「あ。そうだ。ヒカリさん、剣士だからスパッといけちゃいません?」

ということで、それも何かちょっと違う気がしなくも無いが、次はヒカリに挑戦してもらうことにした。
その結果……

「おぉー、すげぇ。きれーに真っ二つ」
「しかも、縦ではなく横にですか」
「流石だな」

棒きれや木刀で縦に割るというか叩き潰すのではなく、日本刀で水平にすっぱり切ったヒカリに、
拍手喝采が起きたが、

「うん。すごいねヒカリちゃん。すごいよ。すごいけどでもね、私の顔スレスレっていうか、
 ちょっぴりかすりかけたよね。あと、何で私砂に埋められてるの? しかも縦に」

荷物番をしつつ、ついうとうとしていたら、目が覚めたら砂に埋められており、ゴモラに吹っ飛ばされた
スイカの直撃を受け、ヒカリの切っ先も危機一髪だった。と抗議したのは長兄ゾフィーだった。

しかし、「荷物番なのに居眠りするのがいけないんですよー」の一言で流し、海の家に昼食を食べに行くことにした。


いくつかあった海の家の中で、一番繁盛していて良さげな所を選び入ると、そこで働いていたのは……

「アレ? ダイナにガイア?」
「おや、皆さん。こんにちはー。ティガも居ますよ。あとマックスも」
「てか、元々マックスのバイトの手伝いっていうか助っ人なんすよ、俺ら」

とのことで、知り合いの若手達だった。

「お昼食べに来たんですよね。だったら、僕のオススメはカレーです。というか、
 面倒なんでみなさんカレーで良いですよね?」
「え。ああ。うん」
「あ、ちなみにガイアはウェイターだけで、厨房はティガなんで、まともに食える味っていうか、
 ふつーに旨いっすよ」
「じゃあ、カレーを人数分で」

そんな訳で、カレーを食べながら聞いた話によると、去年もマックスに頼まれて、このメンツで
バイトを手伝い、それが好評だったので出来れば今年も……。という経緯があったのだという。


「去年は、俺以外のバイトがダウンしちゃったで助っ人頼んだんスけど、今年は『去年のメンツに
 バイト頼めるなら』って条件で、この2号店の店長任されたんスよ、俺」
「それでですね。今日は何かイベントやってるみたいでヒマなんですけど、普段は僕らだけじゃ
 回らない繁盛しちゃってるんで、あと何人かバイト増やしていいかオーナーさんに訊いてみたら
 OK出たそうなんで、予定空いてたらグレンとかに頼めないかな。って話してたとこなんですよ」

というわけで、「良い社会勉強になる!」と親父の許可が降りてしまったゼロを含む若手メンツ―ゼロ、
グレン、ナイト、ジャン、メビウス―は、急遽海の家でアルバイトをすることが決まってしまった。


「えっと、じゃあ、ダイナが外で焼きそば。グレンも外でフランクフルトと焼きトウモロコシ頼んで良いか?
 で、中で注文取ったり運ぶのが、ガイアとメビウスで、ナイトとゼロはかき氷と浮き輪とかのレンタルな。
 厨房はティガとジャンで、俺は出前行ってくるから」

一応臨時の雇われ店長なので、そんな風に仕切るマックスに、
「今までこれだけの内容を、4人で回してたのかよ。ってか、アグルはどこ行った」
とゼロ達がツッコミを入れると、

「そうだよ。外担当ダイナ。僕が給仕とレンタル。厨房がティガ。マックスは出前とか買い出しとかで、忙しいと
 かき氷やレンタルはゼノンさんとかネクサスに頼んでたけど。で、アグルは監視員やってるよ。アノ無愛想じゃ
 接客無理だもん」

そんな、納得出来るような微妙なような答えがガイアから返って来た。

「てか、ネクサスも居んのかよ」
「うん。表に出てるのがジュネブルとかで、調子が良い時だけだけどね」
「今日も居るぞ。今はアグルんとこに昼飯出前してもらったついでに休憩で海入りに行ってる筈だけど」

虚弱体質で多重人格らしきネクサスは、それでも普段表に出ている人格であるアンファンス以外の時は、
比較的活動的で、ジュネッスブルーは「青いから」で海の日イベントに参加したこともあるのだという。



「てことで、人数増えたんで交代で休憩取って良いし、休憩時間は海とかで遊んできても良いからな」

とは言われたが、普段から涼しげで礼儀正しいイケメンのミラーナイトや、一見可愛い女の子なメビウスや
ガイアが給仕していたり、外の体育会系な兄貴組も、額に巻いたタオルと程良くがっちりした体型が夏の
海にはよく似合っていたことなどにより、口コミで評判になったらしくお客が絶えなかった為、しばらくは
フル稼働で休憩を取っている暇などなかった。


その一方で、大人組+レイ(とジャックの妻子)は、「今日しか休み無いし」と目一杯海を満喫していた。

「……セブン」
「どうした、レイ。珍しい魚でも居たか?」
「アレは、何だ?」
「アレ? ……見るなレイ。目を合わせるな。何も居ないから。目を合わせたり話しかけたら、間違いなく
 寄ってくる」

浅瀬で、浮き輪に乗ったレイを遊ばせていたセブンは、レイの指差した方を振り返り掛けると、すぐさま
向き直り、レイを浮き輪のまま抱き上げて別の場所に移動しようとした。何故なら、そこに居たのは……

「えぇー。無視とか酷くない? 私だって、海で遊ぶことあるよ」

着衣―しかも顔にベール被ったまま―で、海で遊ぶ奴が居るか! な、自称「カミサマ」だった。

「あ、ちなみに、濡れても重くならないし、すぐ乾いて海水のベタベタも無いよ。神だから☆」

もしもこの場にゼロが居たら「マジうぜぇ」と顔をしかめそうな発言をかますノアを、セブンも周りで見ていた
兄弟達もスルーしたが、レイはその更に後ろを指差して、「アレは?」と更に問い掛けた。

「だから、指差すな目を合わせるな話しかけるな。絡まれると面倒なんだ」
「ちょっと待って、セブン。後ろに、もう一人いる」
「あ。ホントだ」
「何だ、アノわかめだか昆布の塊みたいな奴」


とりあえずノアを無視して、今度はレイを砂浜で遊ばせようと沖に戻って来たセブンに、レイと同じ「何か」に
気付いたマンが控えめな声で指摘すると、エースとタロウもその存在に気が付いた。

「あれってさ、まさか……」
「うん? 何? 私の後ろがどうかしたの。イージスならいつも居るよ」

ノアの後ろの存在の正体の見当がついたゾフィーが、「面倒事に巻き込まれる前に退避!」とばかりに荷物を
まとめ始め、弟達も当のノアが気付く前に、すぐさまそれに倣ってその場を離れるべく動きだした。


「……ノア」
「え。……いやあぁあー! 何で居るのザギ!?」

ポン。というかソッと肩に手を置かれたノアが振り向くと、そこにはずぶ濡れで頭に海藻が乗っている、黒ずくめな
赤眼の男が立っていた。

「ノアの居る場所なら、我は何処にでも。……ずっと居たのに、気付かれず淋しかった」
「現れなくて良いから! 帰って! 淋しいなら、他の子達と居れば良いでしょ」

これだけうろたえて嫌がるノアなんて、ザギ絡みでないと見れないよなぁ。別に見たくないけど。などと、
ちょっと離れた所から遠目で兄弟達が様子を窺っていると、ザギは一枚の写真を取り出した。
その写真には、ボードらしきものを持ったダークメフィスト達が写っており、そのボードには『夏季休暇中』と
書かれていた。

「そっかぁ。夏休み中なら仕方ないね。……って、何それ。その断り文句流行ってるの!? あと、あの子達
 君のこと置いて、どこかバカンスにでも行っちゃってるの?」
「いや。家でくつろいでいる。『邪魔なんで、どっか出掛けたらどっすか。ノアのとことか』とお墨付きをもらった」
「それお墨付きじゃないし、むしろ邪魔者扱いされてるというか、ハッキリ『邪魔だから』って言われてるよね」

この件に関して、後日ビースト達に「仮にも王なのに、扱い酷くない?」と聞いてみた所。
「お前らんとこの長男と同じようなものだ。有事は頼りになるが、普段はウザいだろう」
と返され、「ああ、うん。そうだね」と納得し、ゾフィーに「え。それ私にも失礼じゃない?」と抗議されたが、
毎度の如く華麗にスルーされただけだった。

閑話休題。

まとわり付かれ、海に引き摺りこまれそうなノアとザギを見ているのは、教育上よろしくないので、ゼロ達が
働いてる所を見ながらおやつにしようか。と、マンとセブンはレイを連れて移動し、

「それでは私は、少し泳いで来ますね」
「あ、じゃあ俺も。勝負しようぜ、ジャック兄。あそこに見える小島に、先に付いた方が勝ちな」
「元気ですねぇ、2人共。僕は、兄さん達とかき氷食べに行こうかなぁ」
「私も、ジャック達程は行く気にならないけど、折角だから泳ごうかな。……勝負する? ヒカリちゃん」
「1人で行け」

ということで、ジャックとエース、ゾフィーは遠泳に。タロウとヒカリはマン達と一緒に荷物を持って海の家に
行くことにしたが、前述の通り大盛況で、しばらく順番待ちをしなければならず、ようやく席に着けてかき氷やら
おでんを注文した所で
「……遅くなりました。休憩時間を大幅にオーバーしてすいません」
と言いながら、グッタリ疲れ切ったネクサス(ジュネッスブルー)が戻って来た。

「おー、お疲れさん。ホント遅かったな。何かあったのか?」
「ええ、まぁ……」

曰く、「もうヤダ」とノアがジュネッスブルーに意識を渡した瞬間。ザギは音も無く離れていったが、それまで
ずーーっと貼りつかれていたので、心身ともに疲れ果てて何の休憩にもならなかったらしいが、マックスは
ネクサス=ノアに全く気付いていないので、出前中にノア達を見掛けたが、欠片も結びつけなかったという。

更にマックスの単純馬鹿で鈍い所は、ゼロやグレン達ですら引っ掛かったとある点にも気付かないことにも
現れていた。

それは、夏の海効果で妙に恰好よく見えるのか、焼きそばなどを売っているダイナ達が女性客に
「おにーさん恰好良いですねぇ。彼女とか居るんですかぁ」
などとナンパされた時に、意外と大人の余裕で
「姉ちゃん達も美人だから、俺らなんかに声掛けなくても、モテルだろ」
「だよなぁ。あ、ちなみに俺の彼女は中で働いてるぜ」
と答えており、ゼロやナイトの証言によると、給仕係のガイアやメビウスだけでなく、出来上がった料理を渡す時や
裏に材料の補充を取りに行く時位しか姿を現さないティガまで、相も変わらず女子に間違われてナンパされる度、

「残念ですけど、彼氏居ますんでぇ。すぐそこでライフセーバーしてて、愛想ないけど、すっごい泳ぎがうまくて
 カッコいいんですよー」

と惚気るガイアや、

「えっとぉ、僕、男なんですけど……」

と言っても信じてもらえず、ガイアから

「ダメですよー。この子、すっごく過保護なお兄ちゃんと、年上で怖い恋人居るんで(笑)」

との助け船を出されたり、タロウ達が海の家に来て以降は、当人達がナンパ男を睨みつけたり絡んだりしていた
メビウスはともかく、普段は女性に間違われるだけでキレるティガですら、一見綺麗ながら見る人によっては解る
絶対零度の笑みを浮かべ、

「生憎と、一緒にアルバイトをしている相手が、外に居ますので」

と、やんわりとした口調ながらきっぱりと断っていたという。



「ガイアが言ってんのはアグルで、メビウスのはヒカリだろ。んで、ティガのは体良く断ってるだけかと
 思ったけど、ダイナも『中で働いてる彼女が居る』とか言ってたんだよな、グレン」
「おう。しかも、『えー、どの人ですかぁ』とか突っ込んで訊いて来た子なんかに、『すっげぇ美人だけど、
 あんまお客の前には出てない筈』っつってた」
『となると、やはりその双方が合致する。と考えるのが自然というわけか』
「そう、ですよねぇ。中には他にアルバイトの女性など居ませんでしたし」

てことは、アイツら付き合ってんのか? という結論に達したゼロ達が、もう一つ気になったのは、

「ところで、アノ3人て、マジに男なのか?」
「どうでしょう。ナンパを断る際にそのように言っていたのはメビウスくん位でしたが……」
『ゼロ。お前はティガとダイナと休憩時間が同じだったな。その時に、水着姿などは見たか?』
「それが、ティガの奴ずっとパーカーと短パン姿で、遠泳に行こうとするダイナに『戻って来れるなら勝手に行けば』
 とか言ってるとこもいつも通りだった。あと、メビウスもタロウ達に『日焼けしても赤くなるだけなんだから』とか
 言われて、Tシャツのまま海入ってたな」
「そうか。俺はガイアと休憩同じだったけど、アイツも『泳げないし』とか言って、服のまんまパラソルの下で
 本読んでたんだよな」

そんな訳で、疑惑は一層深まるだけだったので、試しにマックスに同じ疑問をぶつけてみた所

「え!? アイツら女子で、ティガとダイナ付き合ってるっていうか、同棲してんのか!」

という、何も知らないし気付いていないらしき反応だった。その上、帰宅後ゼノンに
「なぁなぁ、ゼノさんは知ってたか?」
と、まるで確定した事実を報告するような調子で話したが、ゼノンは
(真相は知りませんし、説明するのも面倒ですね)
とスルーしたため、未だ疑惑は晴れていないどころか、マックスの中ではそれが真実になってしまっているとか
いないとか……






お姉ちゃんにしゃべった海ネタを、家族モノ設定でむりくり1つの話にしたら何か長く…… 家族モノ設定においても、ノア様は「カミサマだから☆」で押し通すことに決定しました(笑) 後半については、調子に乗ったことは認めますが、出来ればノーコメントで頼んます 2012.8.27