新しい子も出てきたことだし、しばらく休暇やるから、戦いずくめだった身体を少し休めろ。
と命じられたゼロが、ちょうど夏休みの時期だし、折角だからレイとかUFZの連中と、
どっか遊びにでも行くか。と計画を立てていると、ニコリと微笑んだ80から、数冊の冊子を
手渡された。
「……は? 何すか、コレ」
「夏休みの宿題ですよ」
よく見れば、確かに表紙には『夏休みの強敵(とも)』と書かれているが、「強敵」と書いて
「とも」と読ますセンスは何か古いし、何でそんなんやらなきゃなんねぇんだよ。そんな
ゼロの言い分を、口にする前に読み取った80は、
「君は本来ならまだ学生でもおかしくない歳だし、ある程度の素養が無いと、後々困るのは、
ゼロ、君自身だからね。毎日コツコツやれば、ちゃんと終わる量だから、頑張って」
と説明し、父セブンや師匠であるレオ兄弟他、複数のウルトラ戦士達から「確かにやっといた
方が良いかもな」的な意見をもらっていることも付け加えた。
レベルとしては現代の地球の中学校程度の内容の、渡されたテキストの内、光の国(+近隣宇宙)と
地球の歴史や文化等々についてまとめられている、「社会」に相当する分は、確かにある程度は
知らないとマズイ気がするするし、読み物としても案外興味深かった。そして、基本を押さえた
理科分野も、実戦に応用が聞きそうな内容が多い上、中学校の理科教師(しかも熱血寄り)な
矢的先生こと80の、本領発揮な気合いの入りまくった問題に、真面目に取り組まなければ
いけないような気がした。なので、その2教科に関しては、まぁ良い。
数学も、以前ガイアがジャン兄弟に手伝いを頼みに来たが不在で、聞けば実験の補佐ではなく
記録の集計だというので、自分でも出来るのではないか。と珍しく自ら申し出てみたら
「最低でも、一次関数は解って無いと無理なんだけど。経過や条件別のグラフまで頼みたいから」
と返され、自信が無いので辞退したことがあり、その後セブンを手伝おうとしたら同じような理由で
断られたこともあるし、作戦を立てる為にも数学が必要な場合がある。と聞いたことがあるので、
やっておいた方が良い気がした。
問題は残りの、どうせ地球に行く時には翻訳機使うんだから、わざわざ英語やる必要あんのか?
と、国語が任務にどう役に立つってんだよ。の、文系2教科だった。
そんなわけで、とりあえず理系の宿題から手を付け始めたが、割と早々に解らない所が出てきたので、
親父は忙しそうだから、他に、理系でからかったり嫌味言わずに教えてくれそうな奴は……と少し考え、
試しに80の元へ質問に行ってみたが不在だった。その代わり、通りすがりのガイアから
「僕で良ければ見てあげよっか? 物理に化学に地学に生物、それから地球の地歴公民はほぼ
パーフェクトで、ついでに数学と英語もイケるよ☆」
との申し出があったので─イジられる予感もしまくったが─、試しに有り難くお願いしてみた所、
知識はともかく、コイツ教えんのに向かねぇっ。「は? え。何で解んないの?」とか言われても、
俺は天才じゃねぇから、知らねぇもんは知らねぇし、解んねぇもんは解んなくて、公式すっとばして
答えが出るわけねぇだろ。という、ある程度予想の範疇な展開だったが、代わりに─かなり面倒臭げ
なのを隠しもせずに─歴史と数学をみてくれたティガの教え方は、結構巧くて解りやすかった。
(曰く、「うちには、馬鹿の後輩兼部下が居るから」とのことらしい)
「所で、理科と社会に強ぇのは、地球の大地の化身だし、人間態が理系の天才だから。ってんで解っけど、
何で英語まで得意なんだよガイア」
「だって、アルケミースターズは世界各国の天才児の集団だもん。日本語出来るメンバーもそれなりに居たし、
それこそ翻訳機使うこともあったけど、専門用語は横文字なことが多いのもあって、英語で議論するのが、
一番正確に伝わったから」
「そういえば、以前マンさん達から聞いたんだけど、光の国の翻訳機は、基本的には日本語のみの対応で、
一応ヒアリングは多少出来なくもないけど、読み書きや話したりするのは、本人や人間態の資質次第だそうだよ」
故に、人間態が国際組織のエリートや、世界中を回っていた冒険野郎や、実はハーフだったり天才だったりする
以外の─特に、お馬鹿さんな新人隊員だった─面々は、「ギリで入隊試験は受かったし」レベルから、「まぁ、
日常生活にはあまり困らない位なら」レベルがほとんどで、擬態メンバーも「聞いて話すのは出来なくはないが、
読み書きはちょっと怪しい」という者が多いという。
「え。じゃあ、パワード先輩達とか、USAの連中は」
「彼らは、『日本語が話せる外国人』だよ。パワードは日系らしいけど」
「だから、たまにカタコトっぽかったり変な誤用とかしてることもあるし、英単語の発音は無駄に良いじゃない」
確かに、言われてみれば、USAの連中だけで会話してる時なんかはオール英語で、普段もちょいちょい
英語が混じってたりするし、何かの時にベスを怒らせたら、「shut up!」って怒鳴られたのが、発音良すぎで
怖かったっけな。てことは、英語もちゃんとやんなきゃなんねぇのか……。
と、渋々ゼロは英語の宿題にも手を付けることにしたが、とりあえず今日のノルマは果たした筈なので、
マックス辺りを誘ってどっか遊び行くか。アイツ確か今日は休みとか言ってたよな。と、思い部屋を
訪ねてみたが不在だったので、職場の方を覗きに行ってみると、
「悪ぃ。今日は無理……」
机いっぱいに書類らしき紙束を広げたマックスが、文庫本片手にくつろいでいるゼノンに見張られるように、
その書類に取り組んでいた。
「……ゾフィー隊長程じゃねぇけど、すげぇ量だな。こんな溜め込んでたのかよ、お前」
「いや。これ全部、報告書とか始末書の、書き直し」
「字は汚くて読めず、漢字も言い回しも間違いだらけで、要点どころか意味も解らない書類を、受理したら
後で指摘や指導を受けるのは私ですから。直させて当然でしょう」
うんざりした顔で答えるマックスに、読んでいる文庫本から視線を上げもせずに付け加えたゼノンの顔には、
よく見るとうっすら隅が出来ており、くつろいでいるように見えて、実際はマックスの書類待ちでかなり
イラついていたのだと、後から聞いた。
「こんな大人になりたく無かったら、最低限の国語力は身に付けた方が良いですよ」
コレを貸してあげますから。そう言って差し出された、くそ分厚くて重い数冊の辞書が、どこから
取り出されたのかは、にこやかなようで目は笑っていないゼノンの様子が、プッツンする手前の
マンなどとダブったので、深く考えたり聞いたりしない方が良いな。とゼロは判断した。
そんなこんなで、結局全ての教科をちゃんとやらないといけないのか。とげんなりしたゼロだったが、
「おれもナイスからしゅくだいを出された」と、隣で一緒にノートを広げて絵日記やゴモラ達の
観察日記を書いたり工作をしているレイが可愛かったので、割と真面目に取り組み、夏休み明けには
「大変良くできました」のハンコを、80からもらえたのだった。
そして、勿論そんな頑張る息子達の様子を、セブンはバッチリ録画しており、マンを始めとする兄弟達に、
もれなく呆れられたという。
今年のウルフェスのステージの第一部を、ふまえているようないないような……
キレかけのゼノさんのセリフは、私が日々ヘルパーのおばちゃんらに言いたいことだったり
2013.8.14
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