ある日のこと。ウルトラマンギンガこと礼堂ヒカルは、気が付いたらまたいつの間にか光の国に招待されていた。
が、
「また何か夢でも見てるのかな? にしても、どこだろうここ」
と、深く考えずに首を傾げていると、向こうの方から誰かやって来たので、とりあえず現在地を訊くことにしてみた。
しかし、近付いて来た相手を良く見ると、銀髪ボブカットに紫の瞳の美女と、染めているにしては鮮やかな緑の髪を
した男性だったので、
「英語なら一応ネイティブ並だけど、基本クイーンズだからなぁ。たまに通じ難いこともあるけど、どこの
国の人だろう」
などと考え、声を掛けるかしばし逡巡していると、こちらに気付いた相手は立ち止まり、軽くヒカルを一瞥すると
「…ギンガ?」と首を傾げてから、
「今日は、顔を合わせただけで不用意に怯えたりしないんだ」
と、日本語(に聞こえた)で呟いた。
(良かった、日本語通じるんだ。ああ、良く見るとこの人、顔立ちは結構日本人ぽいから、日系なのかもな。でも、
こんな美人の外国人の知り合いは居ないよなぁ…)
銀髪美女の顔をマジマジと見ながら、ヒカルがそんなことを考えていると、怪訝そうな顔をした美女に、連れの男が
「もしかして、気付いてないんじゃね?」
と囁くのとほぼ同時に
「あっ! ティガさんとダイナさんと、もしかしてギンガくん?」
と、別の方向からやって来た赤毛のツインテールで、何か目に星の入っている少女(?)が声を掛けて来た。
「よぉ、メビウス」
「えっ。ティガ!? ティガって、パンドンやラゴンみたいに、女だったのか??」
赤毛のメビウスの呼んだ名に、ヒカルが驚いた声を上げると、ティガは苦虫を噛み潰した顔で「やはり気付いて
いなかったか」と呟きつつ、
「確かに、僕は君の知るウルトラマンティガで、地球に居た頃の半身とは違う人間態を取っているが、生憎と
女性ではない」
一言一言、言い聞かせるように説明すると、通信機らしきもので誰かにヒカルが立ち往生していることを伝えると、
「それじゃ僕らは用事があるから」と、さっさとその場を立ち去った。
「…えーと、メビウス?」
「はい! 君は、ギンガくんだよね。タロウ兄さんの、新しい教え子の」
「ああ。タロウと知り合いなのか。『兄さん』てことは、タロウの妹? あと、『新しい教え子』っていうのは…」
ティガ達に取り残されたヒカルが、とりあえずメビウスに話し掛けてみると、本人が答えるよりも先に
「メビウスは、妹じゃなくて弟。で、僕は訓練校の筆頭教官をしているから、その教え子でもあるんだ」
との説明を―ティガが呼んだっぽい―、ギンガを迎えに来たらしき青年がしてくれた。
「…もしかして、タロウ?」
「そうだけど?」
「しゃべり方も声も違わね? あと、何か思ってたより若いし」
「こっちが素だよ。あと、ウルトラ族は基本的に青年期がすごく長いから、若作りとかじゃないからね」
いや別に、イメージとちょっと違ってただけで、そこまで言ってないし。何でそんなムキになって言い訳してんだ?
とヒカルは思ったが、地球人年齢でアラサー位っていうのは、その辺りをすっごく気にするんだよ! とのタロウの
主張は、精神年齢及び実年齢高校生共には解らないだろうが、ホント大事な事ですから。
「…まぁ良いや。今回は、僕が連れて来たんでも、誰かがピンチな訳でもないから、呼ばれた目的が判るまで、
ひとまず光の国を案内して、みんなを紹介してあげるから」
そういってタロウが、ギンガ―と、ついでにメビウスも―をまず連れて行ったのは、多分本来はスタイリッシュで
機能的な作りなのだろうが、書類―紙ではなく、タブレット的なものや未知の材質だった―に埋もれて乱雑な
イメージを受ける執務室で、扉を開けるなり、
「ああ、タロウ。サボリ魔でコーヒー狂のメガネ見なかった?」
と、若干背が低く地味な顔立ちの青年が訊いてきた。
「……。また居ないのゾフィー兄さん」
「そう。3日カンヅメさせてたら、ちょっと追加の書類取りに行っている間に逃げられた」
よく見れば、地味な青年の目の下はクマで真っ黒だったので、この人もその脱走癖のある上司見張って三徹目
なのかな。ってか誰この人。
そんなヒカルの疑問に、青年と話しているタロウの代わりに答えてくれたのはメビウスで、曰くあの地味で
ぷっつんしかけている青年は、地球に初めて降り立ったウルトラマンで、ウルトラ兄弟の次男のマンこと
ウルトラマン。絶賛バックれ中のコーヒー狂のメガネは、ウルトラ兄弟の長男で宇宙警備隊の隊長でもある
ゾフィーのことらしい。
「マンとゾフィーって、会ったことある気がするけど、何かこう、もっと威厳とか迫力とかあったような…」
「外面は良いからね。特にゾフィー兄さん」
見掛けたら連行するし、他のみんなにも話しておくから、見つかったって連絡くるか戻って来るまで、仮眠でも
取ってれば?
ということで次兄と話をつけてきた元末っ子な六男は、時々結構辛辣というか、長男に対する弟達+αの態度は、
割とそんなもんらしい。なんて事実にも、ヒカルは軽いカルチャーショックを受けたが、その辺りは一人っ子
だからという方が正しいかもしれない。
「さて。じゃあ次は…セブン兄さんは非番で、ジャック兄さんとエース兄さんは任務で留守にしてるからなぁ」
ということで、とりあえず連れて行かれた医務室で、女子3人組に何か品定めされた気がしたり、ツインテの
たおやかな美人に素直に感想を口にしたら、
「若くて美人でしょ、僕の母さん」
と、めっちゃドヤ顔でタロウに自慢されたり、廊下に怪獣が居たことに驚いていたら
「レイさんの所のゴモラやリトラとか、コスモスさんの所のリドリアスは、たまにお散歩してるんだよ」
と、メビウスがニコニコ教えてくれたり、通りすがりの、何かちょっと目元がダークザギと似ている気がしなくもない
躁鬱っぽい青年に関して
「ネクサスは、躁鬱じゃなくて多重人格だよ。まあ、アンファンスは鬱傾向が強めだけど」
なんて教えられたり、託児室に顔を出したらお昼寝の時間だったが、寝ている園児達の中に混じっていた添い寝
している保育士ではなさげだけど、大人だよな。な3人組に首を傾げていたら、実は1人だけ起きていて
『僕は、機械なので睡眠は必要無い』
「え。まさかジャンナイン?」
『ああ』
「なんだよ。人型取れるなら、その格好でじいちゃんの肩叩きに来て欲しかったぜ…まぁ、その格好も、ちょっと
コスプレっぽいけど」
『コスプレとは何だ? 友也の祖父の所には、この姿で行ったし、着替えさせられた』
ナインは、ロボットなので学習能力は優れていますが、基本は幼児並の知識しか持っておらず、応用も苦手な
ようですから、逐一指示を与えない限りは、こちらが常識だと捉えていることも知りません。と後から友也が
説明してくれたが、先に言っといてくれよ。との文句は
「何故僕が、訊かれてもいないことをわざわざ説明しないといけないんですか」
と、にべもなかったという。
気を取り直して訪れた科学技術局では、青いポニテに白衣のヒカリに、「何しに来た」と睨まれたが、メビウスだけは
あんまり邪険にされていないことに関し、しばしタロウが噛みついていたり、オレンジの髪を2つ結びにした女子と、
蒼いひっつめ髪の男の2人が、以前少しだけ共闘したことのあるガイアと、その相方のアグルだと紹介されたので、
「ガイアもこんな若い女の子だったんだ」
と素直な感想を口にすると、
「こう見えてもコイツは、実際は56億のジジイだぞ」
「それを言うなら、君も同い年っていうか、地球は元々水の星で、大地より先に海が誕生してるんだから、実は
僕より歳上だよねアグル」
「は。え? どういう意味だ??」
「ガイアさんとアグルさんは、こことは違う次元の、地球の大地と海の化身なんだよ」
「へぇ〜、ホント色んなウルトラマンが居るんだな」
他の誰かならば、「痴話喧嘩が始まったか」と思う―実際タロウは思った―ような2人のやり取りも、そっち系の
空気の一切読めないヒカルとメビウスに掛かれば、額面通りの疑問とその答えにしかならなかったので、タロウは
化身組2人は放っておいて、案内を続けることにした。
「ここは勇士司令部。簡単に言えば、エリート部隊だね。で、この2人はネオスと、21ことセブン21。21は
変装名人なんだよ」
そう紹介しながらタロウは、「21はネオスのストーカーで、幼女に変装するのが好きみたい」とは、ウルトラ戦士の
名誉のために黙っていることにし、セブンと21が似ているのは同じセブン系だからだというのも、セブンとはまだ
会っていないから混乱するだけなので話さなくて良いと判断した。
続いて向かった宇宙保安庁の宇宙生物保護局で、リドリアスなどの怪獣達をモフっている間。同じく怪獣をモフりに
きたのか、職員のコスモスに会いに来たのか、その両方なのかは解らないが、訊いていないのに「定期巡回の一環だ」
と言い訳して来た黒髪長髪の宇宙警察のジャスティスや、小柄で見た目もしゃべり方もほわほわしたコスモスが男か
女かはちょっと気になったが、タロウが密かに「リア充爆発しろ」と呟くような空気には、高校生ずはやっぱり全く
気付いていなかった。
その次の文明監視局では、「机を片付けなさい」だの「書類が読めないから書き直して下さい」だの「そもそも、
貴方の報告書は、要領を得ないを通り越して意味不明です」だのと上司であるゼノンから説教を受けている最強
最速のお馬鹿さんマックスに、「ああ、ついに恥晒しちゃった」とタロウは頭痛を覚えたが、初っ端から隊長が
サボり魔のコーヒー狂だとバレており、そっちの方がどう考えてもマズイことは、あまりに日常化し過ぎていて、
綺麗さっぱり失念していたようだった。
「なぁ、ところでさ。アノ、ゼノン? て人とメビウスがかなり似てんだけど、兄弟とかなのか?」
「えっと、僕も正確には知らないんですけど、多分違うみたいです」
「マン兄さんとゾフィー兄さんとジャック兄さんもそっくりだけど、一応全員血縁は無いことになってるしね」
「ふぅん。ちなみに、ジャックって誰?」
「ウルトラ兄弟の四男で、通称『帰ってきたウルトラマン』。ヒカルと関係がある所だと、ブラックキングは
ジャック兄さんが倒した怪獣だよ」
あとで記録映像を見せてもらった所、人間態はともかく、本来の姿では見分けつかないかも。が、ヒカルの率直な
感想だった。
その後。海外組や地球でも光の国でも教師をしている80にも紹介されたり、医務室の女子3人組の中心に居た
ユリアンが光の国の王女だと教えられ、またまた「ホント色んなウルトラマンが居るんだなぁ」と感心したり、
トレーニングルームで久々に師匠であるレオと手合わせをしていたゼロが、思っていたよりも若いっていうか、
中坊だったのかぁ。ああ、でも、ボーイは小学生だし、ナインとかレイとかいう子の中身が実は幼児って方が
ビックリか。などと納得し、レオの弟でセコンドをしていたアストラや観戦していたUFZの連中もゼロから
紹介された内、グレンことグレンファイヤーに対して、なーんかどっかで会ったことあるような気が……と
微妙な顔をしたら、
「初対面でその態度は、如何なもんかと思うぜー、ギンちゃん」
と返され、「やっぱりどこかで…」とヒカルが思う前に、UFZの他の3人+タロウからから「色々アウトだ
そのコメントは」と、総ツッコミが入った。
その辺りで、「今日は、この辺が限界かな」という声が聞こえたような気がした次の瞬間。ヒカルが目を開けると、
降星小のいつもの空き教室で、寝袋を枕に昼寝をしていたようだった。
「……なぁ、タロウ」
「何だヒカル」
「俺、また夢見てたのかな」
「さて、どうだろうな。私も同じ記憶がある以上、夢とはいい難いと思うが」
「そっか。にしても、やっぱ口調違うなタロウ」
「良いだろう別に。私にも、色々と事情や立場があるんだ」
傍らのタロウ(SD)は、そんな風に言葉を濁していたが、夢だったのかも呼んだのが誰なのかも、今はまだ解らない。
ギンガくんをみんなに会わせてみたかっただけの話。
ジジイと大隊長以外は、名前だけの人も居るけど、ほぼ出せた……よね?
2013.10.6
2013.10.12 ちょっと加筆
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