愉快犯なカミサマことノアが、気紛れで幼児として具現化したサーガを預かって、しばらく経った頃。
ティガは不意にダイナに「何か欲しいものは無いか」と尋ねられた。
「別に、何も」
「んじゃ、食べたいものとかは?」
「特には」
「そしたら、して欲しいこと!」
「とりたてては無いけど」
質問の意図が読めず、しかし本当に特に欲しいものは無いティガが、首を傾げながら率直に答えると、ダイナは
「そっかー。うーん。どうしよっかな」
などと呟きつつ、何の説明もないままにその場を離れた。
それから数日後の、
「今度の、君らと僕らの休暇の日を入れ替えて欲しいんだけど、僕らがオフの日に、確か演習か何かの
予定入ってるんだよね。てことで、前倒しで明日休んで良いから!」
とガイアにゴリ押された休日。遅めの朝食兼ちょっと早い昼食後
「俺ちょっと出掛けてくんな」
と、ダイナがサーガ(2)を連れて出掛けたが、ティガは特に予定もやりたいことも無かったので、たまには良いかな。
と、二度寝を決め込んだ。
そして、目を覚ますと、帰って来ていたダイナに抱かれたサーガから
「あい、どーじょ」
とリボンの巻かれた画用紙を差し出された。
「何コレ。……似顔絵?」
「おう。サーガが、昨日保育室でレイやナインと一緒に描いた、ティガの顔」
拡げてみると、2歳児の画力なので判別は難しかったが、多分似顔絵のつもりで、色味的に僕、かな。とティガにも
予測出来る絵が描かれていた。
「あと、コレは俺からと、こっちはガイアから預かった分」
そう言ってダイナが掲げて見せたのは、ケーキの箱と、何やら大きめの包みだった。
「今日さ、ティガっていうかダイゴの誕生日だろ? だから、プレゼント」
ニカッと笑うダイナに、ティガ自身は綺麗さっぱり失念していたので、とても驚いたが、聞けば先日のZAPの
ヒュウガボスの誕生日の際に、レイが他のメンバーなどの誕生日にも興味を持ち、ナインが検索した結果
ヒットしたのだという。
「そっか。ありがと」
「まぁ、半分は、俺の自己満みたいなもんだけどな。あ、そうだ。ケーキ食うなら、飲みもんはコーヒーと
紅茶どっちにする? コーヒーはゾフィー隊長から分けてもらった特製ブレンドで、紅茶はウルトラの母と
ユリアンのオススメなんだけど」
ティガが素直に礼を言うと、ダイナは照れ臭そうに頬を掻きながらケーキを勧めて来たので、コーヒーをリクエストし、
ケーキの箱を開けてみると、中に入っていたのは、ベリーソースに苺とブルーベリーをあしらったレアチーズケーキだった。
「どんなケーキがいいかわかんなかったから、俺が勝手にイメージで選んだけど、大丈夫だよな?」
「ああ、うん。別に構わないけど、僕のイメージってこんななんだ」
白いケーキに、赤と紫のベリー類。というベタな色味に、苦笑しながら切り分けようとした所で、下地のクッキーが
オ○オ=ビターな黒いクッキーなことに気付いたり、食べてみると予想よりもソースの酸味が強く、確認してみた所
クランベリーも含む3種のベリーソースなのだと説明され、
(ダーク要素に、僕の名前の意味が「3」だってことは知らないだろうけど、狙ってるとしたら完璧過ぎ。でも、ダイナの
ことだから、絶対そこまで計算してないんだろうな)
と、ティガは内心密かに照れ臭く感じた。
「……美味い?」
「そうだね。まぁ、悪くは無いんじゃない?」
「そっかぁ。良かったー。コレ、エース兄ちゃんに手伝ってもらいながら、俺とサーガで作ったんだ。っつっても、
サーガは苺とか載せただけだけど」
「ああ。通りで、デコレーションは雑で、ダマになってたり、厚みやクッキーの砕き方が均一じゃなかった訳だ」
コーヒーを持ってきたダイナが、自分の分の皿には手を付けず、ケーキを食べる自分をソワソワとした様子で
見ていたかと思うと、感想を尋ねて来たので、ティガが率直な感想を述べると、予想通りの答えが返ってきた。
「う。やっぱ下手だったか」
「売り物や、エースさんと比べたらね。普段作らないにしては、上手く出来てる方だと思うよ」
それに、別に不味いとは言ってないし? と笑い掛けてやると、ダイナは「ティガの舌に適ったんなら良いけど」と
胸を撫で下ろしてから
「こないだ訊いた時は、欲しいもん無いって言ってたけど、そんな高価いもんじゃなければ好きなもん贈るから、
今度の休みに、改めてプレゼント買いに行こうな」
「ううん。いらない。このケーキだけで充分」
遠慮でも謙遜でも無く、本当に今の所特に欲しい物は無いし、祝ってくれたこととケーキだけで充分嬉しかったから。
と、ふわりと―心から―微笑んだティガに、
(ああ、クソ。マジ可愛い。ハグとかしてぇ。けど、そんなんしたら、流石に機嫌悪くなりそうだよなぁ)
なんてことをダイナが考えていたことに、ティガは実は気付いていたがあえてスルーして
「お返しに、春には君のリクエストのケーキを作ってあげるから、どんなのが良いか考えておいてね」
と、更にニコリと笑って可愛いことを言ってみた。
「あ、あー、うん。楽しみにしとく。……所で、ガイアからのプレゼントって何だ? でかい割に軽かったけど」
「ちょっと待って。今開けてみるから」
そう言って、ティガがプレゼントを開封すると、中から出てきたのは低反発素材の抱き枕と、ふわもこなパジャマだった。
「……。枕はともかく、このパジャマは僕の為と言うよりは、ガイアの趣味でしかないよね」
「そうだな。多分、色違いかちょっとデザイン違う同じのを自分用にも買ってて、『お揃いv』とか言いそうな感じだな」
不眠傾向のあるティガに、安眠グッズを。との発想は悪くないが、相変わらず本気で悪ふざけをするガイアの
プレゼントが、その後使用されたかどうかは定かでは無いが、トータルで
「まぁ、そこそこ悪くは無い誕生日だったかな」
との評をもらえただけで、ダイナ達的には大成功だったという。
中の人誕(10/9)にかこつけて、甘いの書きたくなったので
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