とある宇宙人に飛ばされた並行世界での、地球人生活にも一時凌ぎの筈のバイトにも慣れてきてしまったある日のこと。
珍しく、幼児なナイン以外の4人全員の休みが被ったので、手掛かり探しも兼ねて近所をぶらつき、たまには外で昼飯
食うか。ということで、喫茶GUYSを訪れると、何やらいつもより盛況で、まず真っ先に目に入ってしまったのは、
「……そこの、大学教授、だよな? が、何で店員の真似事してんだよ」
「ボランティアだよ、ボランティア。毎年この日だけは、私はこの店を手伝っているんだ」
普段は、1日最低3回来店するという、近所の大学教授の筈の大谷某が、嬉々として他の客への給仕をしていたので
尋ねると、めっちゃドヤ顔で当たり前のように返された。
「今日は、『コーヒーの日』らしくてね。毎年フェアや割引なんかをしているから、いつもの2人じゃ
回らないんだそうだよ」
外の、今日のランチや日替わりコーヒーを書いてあるボードにも書いてあっただろう?
そう指摘しながら教えてくれたのは、ハヤタだった。
「ふぅん。フェアって、どんなことしてんだ?」
「色んな銘柄の飲み比べとか、普段は作らないようなメニューを出してみたり、あとは北斗さんやダンさんのお店と
コラボしてたりするんです!」
「それから、世界の変わった飲み方や新しいブレンドを、皆さんに試してもらったりもしていますよ」
ゼロことタイガ ノゾムの呟きに答えたのは、バイト青年のミライと、店主のサコミズで、北斗のパン屋やダンの
洋食店とのコラボメニューは、好評だとそのまま定着することもあるのだという。
「去年は、カフェメニューを充実させていて、今年は世界のコーヒーフェアなのよね」
「はい。去年は大谷さんからラテアートを教わりましたし、今年は東さんからお土産に世界各国のコーヒーを
いただきましたので」
ニコリと微笑み補足したのは、常連の矢的涼子夫人で、それを受け
「サコミズの為に習得してみたんだ☆」
とドヤ顔をした大谷に
(見た目も完璧に良い年したおっさんだけに、3割増しでうぜぇ)
などと、大谷=ゾフィーな事実にタイガ達がげんなりしていると
「ちわーっす! 今年も挑戦に来ました!」
という、喫茶店には似つかわしくない声と共に入って来たのは
「カイト?」
「おや、君達知り合いだったんだ。カイトはね、サコミズのコーヒーに、スティックシュガー3本に
コーヒーフレッシュ6個入れないと飲めない。って言って、この店のお出入り禁止を食らった
唯一のお客でね。毎年コーヒーの日に、サコミズが出したブラックコーヒーを全部飲めたら解禁にする。
って約束になっているらしいんだけど、未だ達成されたことが無いそうなんだ」
アノ温厚なサコミズを怒らせた。ということで、近隣でも有名になっているらしく、カイトの挑戦を冷やかしに
来店する客も居ると、ハヤタは教えてくれた。
「いらっしゃい、カイトくん。今年は、苦味も酸味も極力抑えたブレンドを用意したから、今年こそ
飲み干してくれたら嬉しいな」
「いらっしゃいませ、カイトさん! コレ、サービスのクッキーです。頑張ってくださいね!」
出禁も年1チャレンジも、勢いというかその場に居合わせたり後から話を聞いたカイトの友人達の発案らしく、
サコミズとしては
「出来れば美味しく飲んで欲しいけど、無理矢理飲んで飲めないことは無いだろうし」
と思い、その罰ゲーム的案を採用したそうなのだが、まさかの完飲不可で、予想外の10年越しの恒例行事と化してしまい、
正直いい加減ケリをつけたいらしい。
しかも、発端が
「元気はカッコイイよなー、コーヒーもブラックで飲めるし」
「は? 何それ。コーヒーをブラックで飲めるかどうかは関係なく無い?」
「うん。元気は確かにカッコイイけど、コーヒーだけなら、僕もブラックで飲むよ」
なんて会話を、幼馴染の神楽元気や朝日勝人と交わした後、試しに頼んだブラックコーヒーを一口で
ギブアップした挙句にゲロ甘にしないと飲めないと言い放ち、サコミズにも呆れられたが、幼馴染達が
「お前それは失礼過ぎるだろ」と罰ゲームを提案した。とのことで、毎年見届け人として、元気か勝人
もしくは、千樹憐や孤門一輝辺りの非番や休憩時間を合わせられたメンツが冷やかしに来ているのだという。
「あんがとな、ミライ。にしても、すげー色っすね、このクッキー」
「確かに。青なんて、食欲減退させる気がしますけど、これも北斗さんの所の試作品か何かですか?」
「あ、いえ、違います。うちのお父さんが、今度園でやるののお試しで作り過ぎちゃったのを、折角だから
お出しさせてもらってて、食べられる粘土だからカラフルなんです」
「粘土!?」
赤青黄色のクッキーをつまみながら尋ねたカイトと元気に答えたのはミライで、ミライのフルネームは「夢星未来」と
いい、近所の保育園の園長をしている夢星銀河=ナイスの息子だったりする。そして、その説明を聞くなり、潔癖症の
勝人=ゼアスが、悲鳴を挙げて倒れた。
「えっと、粘土って言っても、小麦粉粘土なので、色以外はほとんどクッキーの材料とおんなじらしいんですけど……」
「それに、園児達じゃなくて銀河先生が作ったんなら、バッチい筈無いと思うけど」
「だよなぁ。ホントこいつ、これでよくガソリンスタンドで働けてるよなぁ」
潔癖症のGS店員は公式なのに、なんでこんなに無理っぽいんだかな。と思いつつ、勝人の分のクッキーも
貪り食いながら、ついにカイトがブラックコーヒーを飲み干したが、クッキーで誤魔化してたからノーカン
じゃないか? との声も上がった。しかし、
「それでも、全部飲んだことには変わりは無いし、私も何年か前に知ったんだけど、甘いコーヒーが常識な国もあるからね」
物言いをつける元気達に、そう言ってサコミズが差し出したのは、ベトナムコーヒーとホワイトコーヒーで、どちらも
練乳等を使い甘いことで有名なコーヒーだった。
その他。昼食を食べに来たレイの頼んだメニューの小倉トーストが、ホントに小倉のみな上に何かすごい量だったり、
それを見た郷が
「俺も小倉トーストと、コーヒーはあんこに合いそうなので任す」
なんて注文をしていたり、ヒカルが
「コイツ、隣町で知り合った、俺の新しいダチ!」
と引きずって来た、愛想が悪くて不機嫌そうな青年が、チョコパフェとカフェモカ与えたら大人しくなったどころか
嬉々としてしかしモソモソとパフェを食べ始めたりと、コーヒーに関係あることも無いことも色々あった。
そんな10/1の話。
カイトの「ブラックコーヒー飲める=格好良い」発言と、ゲロ甘コーヒーの元ネタは、昔のバイト先の後輩(石原良純似の大学生♂)で、
カイトなのは、立ち位置と同じ名前の某練乳入り缶コーヒーからです
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