夏休みとて、警備隊はお休みではありません。というか、むしろ各種イベントやらそれ絡みの要人警護やらで、
	逆に仕事は増え、「遠方で数日間」なんて依頼も珍しくありません。そんな訳で、セブンとマンと他数人とが
	1週間程の任務に赴くことになった時。レイとゼロを、どこに預けるかが問題になりました。
	候補としては、父母の所が妥当なようですが、そう提案すると

	「レイは祖父さん達に預けんでも良いだろうけど、俺は1人で留守番出来る」

	と、嫌そうな顔をされてしまいました。
	確かに父は、もうそれなりにデカいツンデレヤンキーでも、孫は可愛くて構いたいようですし、そのウザさは
	息子達相手にも発揮されていたので、セブンも嫌という程よく知っているので、ゼロの気持ちは解らなくも
	ありません。しかしながら、強がってはいてもまだ中学生の息子を1人にするのは不安だったので、

	「だったら、メビウスと一緒にヒカリの」

	家に世話になるのは。まで言う間もなく、

	「ぜってぇ嫌だ。だったら、ジジイ共んとこの方が、何倍もマシだ」

	そんな、ある意味当然の反応が、心底嫌そうに返ってきました。

	
	その後も、キングの元も獅子座兄弟の元も嫌がり、結局1人で置いていくしかないのか。とセブンが諦めかけた、
	出張の前日。

	「俺んち泊りにくれば?」

	と提案し、あっさり

	「まぁ、別に、お前らんとこなら」

	との返答をゲットしたのは、レイをたまに預かってくれたり遊んでくれている関係で顔見知りで、ついでにガキ大将
	タイプなのでゼロもよく構ってくれていて、ちょっと懐いていなくもないダイナでした。
	更に言うなら、「預けられる」ではなく「泊りに行く」が、子供扱いされたくない年頃的に悪くない。というのも、
	要素として大きめだったのかもしれないと気付いたセブンは、

	「ティガとダイナに、迷惑かけるんじゃないぞ」

	と言い聞かせ、ゼロをダイナ達に託して出掛けて行きました。


							◇

	「たっだいまー」
	「はい、お帰りダイナ。いらっしゃい、ゼロくん」
	「おう」
	「……」
	「って、何でそこに突っ立ってんだよ。通せよティガ」

	ゼロが、泊まり込み用の荷物を持ってダイナに連れられ彼らの家につくと、出迎えてくれたティガは、何故か
	玄関に仁王立ちし、2人を部屋の中に上げてくれようとしませんでした。

	「僕、挨拶も碌に出来ないような、行儀の悪い子は嫌い」
	「はぁ?」
	「俺はちゃんと『ただいま』って言ったから、通っても良いよな?」
	「ダメ。連帯責任」

	顔はニッコリと笑っているけれど、何となくオーラが黒いティガ様は、実はこっそりマンから「出来れば軽く躾けて
	くれたら助かるかも」と言われており、それでなくても元々礼儀作法には結構うるさいタイプだったりします。

	「余所様の御宅を訪ねる時には何て言うか、教わっていないの? それじゃ、親御さんの教育がなっていないと
	 言われても、仕方ないよね」
	「親父を悪く言うな!」
	「だったら、どう振舞うべきか、解るね?」
	「……お邪魔します」
	「そう。そこに更に、『しばらくお世話になります』とかがつくと、尚良いけど」

	ゼロが一応頭を下げると、どうにか部屋に上げてくれたティガは、その後も「まずは手洗いうがい」だの「夕飯の
	材料の買い忘れを思い出したから行って来て」だのと、まるで世間一般の母親のような言動ばかりで、母親が居た
	記憶の無いゼロには、ちょっぴり新鮮でした。

	しかも、夕飯時には
	「マンさんから、食べ物に関してのアレルギーは無いって聞いたんで、好き嫌いは一切認めないからね」
	と宣言され、食後も
	「子供は夜更かししないで、さっさと寝る! 明日の朝は、ダイナと一緒にラジオ体操にも行くように」
	といって、ダイナと対戦していた格闘ゲームを問答無用で消され、翌朝渋々連れて行かれたラジオ体操から帰って
	来ると、今度は
	「午前中は宿題! お昼を食べたら、遊びに行っても良いけど、危ないことをしたり、遠くまで行かないように」
	等々、ゼロは「お前は俺のお袋か!」と何度か叫びそうになりました。
	しかしその一方で、嫌いな食べ物を工夫して隠した料理を、気付かず残さず食べると、種明かしをしながら褒めて
	くれたり、朝はラジオ体操に行く2人よりも早く起きて朝食の用意をしてくれていたり、宿題の解らない所は懇切
	丁寧に教えてくれたりと、悪くない母親要素も満載でした。

	そしてダイナの方も、時にティガの味方になって笑っていたり、一緒になって遊んでくれたり、こっそりティガ
	対策やその他―勉強以外の―下らないことを教えてくれたり、時には一緒になってティガにお説教されたりと、
	「兄ちゃんって、こんな感じなのかもな」
	と感じる位、目一杯構ってくれました。


	そんなこんなで、帰宅後もちょくちょく家を訪ねて行ったり、一緒に遊んだりもし、時には
	「たまには息子とコミュニケーションを」
	と思ったセブンが遊びに誘ったら

	「悪ぃ、ダイナ。親父と出掛けることになったんで、今日の勝負は、また今度な」

	などという断りの電話を掛ける程になり、まだ父親である自分を優先してはくれているが、その内
	「ダイナと遊ぶ用があるから」
	と断られる日が来るかもしれない。と、セブンは息子の世界が広がるのは良いことだけれども、ちょっと淋しく
	思ったりもしたようです。
	



ダイナちゃんは、ゼロの良い兄ちゃんになれそうだよなぁ。と思って書き始めたのに、ティガ母さんまみれに…… 私ゃ、絶対にティガさんへの夢の見方を間違えてるだろ、コレは 2010.8.8