「・・・・・・あと1冊」
	「お疲れさん。俺が溜めた書類だから偉そうなこと言えた立場じゃないけど、終わりの目途もついたし、
	 コレ飲んだらしばらく仮眠とって来ても良いんじゃね?」

	処理し終わった書類のファイルをパタリと閉じて脇に置いたティガに、ダイナがマグカップを手渡しながら
	提案すると、ティガは珍しくあっさりと頷いた。

	「……うん。そうしようかな。所で、コレ何」
	「チョコパウダーとインスタントコーヒーを温めた牛乳に溶いたカフェモカ。チョコパウダー置いてた店の
	 POPに書いてあって、旨そうだったしチョコって元々栄養剤だったっつうし?」
	「ふぅん」

	自分で訊いておきながら興味なさそうに相槌を打ちカップに口をつけたティガの
	「へぇ。思ったよりも甘くないんだ。でも、これ位の方が好みかも」
	との呟きに、ダイナは満足げな表情を浮かべた。

	「あ、あと、全部片づいたら飯おごるから、何食いたいか考えとけな」
	「別に、不味くなければ何でも良い」
	「じゃあ、こないだエースさんから聞いた新しくできたイタ飯屋と、コスモスが最近気に入ってるっつってた
	 精進料理屋だったらどっちが良い?」
	「その2つなら、精進料理」

	人間態のダイゴの影響で舌は肥えているが、食への興味が薄いティガの返答は想定内だったようで、ダイナは
	すぐに具体案を挙げた。

	「ラジャー! その店、コースもあるらしいけど?」
	「残すのは嫌」
	「じゃあコースはやめとくけど、個室で予約は入れとくな。煩いのもヤだろ」

	拒食症気味な割に、味にはうるさいし出された以上は全部食べるんだよねぇ、ティガって。あと、そうやって
	2人でご飯食べに行くこと多いし、全部の品を半分こにしてたりするから、周りに冷やかされるんだと思うん
	だけどなぁ。
	そんな―向かいの机でやりとりを眺めていた―ガイアの茶々に、普段ならすぐさま眉をしかめたティガの
	文句が返って来る筈が、何も言われなかった為、

	「うーん。ツッコミ無しでふつーに飲んでるし、こうやって僕らがヒソヒソ話してても怒んないってことは、
	 ホント疲れてるんだ」

	と、流石のガイアも空気を読んで写メもムービーも撮らずイジらないことにしたようだった。

	「あ、そうだ。ガイア達も飲むか?」
	「ありがと。僕らの存在も思い出してくれて」

	チョコパウダー缶で買ったから、たくさんあるんだよな。ということで、ガイア達にも作って来ようかと
	提案したダイナに、ニコリと笑って答えたガイアの嫌味というか揶揄はもちろん通じていなかった。


	「・・・・・・なぁ、何なんだアレ」
	「んー。繁忙期名物、思考停止気味の分隊長様とここぞとばかりに甘やかす犬」

	ダイナが併設の簡易給湯室に姿を消した後。カフェモカの残りを飲みながら書類のファイルに目を通している
	ティガには聞こえないように、ガイアに密かに訊ねたのは、実は父セブンのお使いの書類待ち中で最初っから
	この場に居たゼロだった。

	「でも、修羅場明けのお休みに丸1日寝倒すと戻っちゃうから、半日から長くても1日程度なんだよねぇ。
	 アノ状態」

	曰く、思考能力の大半は任務や書類の処理に傾けており、限界ギリギリでも殆ど支障が無いのは見事だが、
	30分や1時間の仮眠では疲れが残るため、全て終わらせてリセットするかのように休養を取らない限り
	職務以外はかなりグダグダなのだという。


	「ティガは、あの状態の時のことも、全て覚えているそうだがな」
	「何が?」
	「ううん。何でも」

	要は半分寝ぼけてるようなもんか。と理解しかけたゼロに、アグルがポツリと付け加えた所で、ダイナが
	自分の分も含める4つのマグカップを手に戻って来た。

	「ん? コレ、結構甘くねぇか?」
	「確かに、ほろ苦いけど、割と甘めだね」
	「ああ。ティガの分より牛乳多めにしてっし、コーヒーも違うので、ゼロのは砂糖も足してっから」


	礼を言ってマグを受け取り一口飲んだゼロとガイアが、先程のティガの感想との相違に首を傾げると、
	ダイナはこともなげに細やかな工夫を答えた。

	「え。ミルクの量はともかく、インスタントとはいえコーヒーの種類まで?」
	「いや、単に、1杯分の色んなスティックの詰め合わせなだけ」
	「道理でイマイチおいしくなかったんだ。次作る時は、僕の棚の使っていいから」
	「あー、アノちょっと高価いやつな。らじゃー」

	甘すぎないのは悪くなかったけど、コーヒー自体の味と香りがあまり良くなかった。という、お前は
	ゾフィーかとゼロが突っ込みたくなるような感想を付け加えたティガは、飲み終わったマグを流しに
	出すと、「30分で起こして」と良い残し執務室の奥の仮眠室に消えていった。


	「なぁ。前から聞きたかったんだけどよ。親父達の執務室には仮眠室とかねぇのに、何でここにはあるんだ?」
	「あー、それな。ロッカールームにベッド置いてるだけ」
	「何でんなこと……」
	「だって、ティガを床で寝させる訳にいかないし、僕も床で寝るのヤだもん」
	「と言って、コイツがベッドとそこのソファを持ち込んだんだ」

	残業やら研究やら任務明けなどに、寮や自宅に戻らず執務室に泊り込むことは、ウルトラ兄弟もたまにあるが、
	そういった時は床に寝袋や毛布等にくるまってか、椅子数個の上に横になるか、机に突っ伏すかのどれかが
	ほとんどだが、それでは不満なガイアが、とりあえずパイプベッドと4人掛けのソファを設置したのだという。
	だがしかし、各1台ってことは、残りの2人はどうすんだよ。と突っ込んだゼロに、

	「まぁ、4人共泊り込み。ってことはあんま無いし、俺やアグルは床でも平気だから」
	「コイツらも、本当は何処でも寝られるけどな」
	「それでも、可能な限りは良い環境で寝たいもん」

	だったらせめて、個人的な研究が深夜まで掛かった時は、面倒臭がらず寮の部屋帰って寝ろよ。とは、言っても
	無駄なことはセブンを見てよーっく知っているゼロは、コレ以上は何も言わないことにしておいた。


	そんな2/14の1ヶ月後。またもやセブンのお使いついでに、平成組の執務室でダベっていたゼロが、

	「休憩時間に、俺らが貰ったチョコへのお返しの余りで茶にすっか。ってことになって、ジャンの奴が茶ぁ
	 淹れてくれたんだけど、『貰い物の紅茶があるので、それで良いか』っつうから、俺もグレンも『何でも
	 良い』って答えたら、『またか。お前らには淹れん!』とかキレられてよぉ」

	と愚痴ると、「君ら、その手の問いにいつもその答えなの?」とガイアに訊かれた。

	「ん。ああ。そうだけど……」
	「それじゃあキレられても仕方ないね」
	「はぁ? 何でだよ」

	訳知り顔で肩をすくめるガイアに、ゼロが食ってかかると、

	「ダイナー。君さっきティガに『紅茶で良いよね?』って訊かれた時、何て答えた?」
	「俺? 『ティガが淹れたのなら何でも旨いから任せる』って答えたけど?」

	いきなり水を向けられたダイナが、キョトンとした顔で答えたが、ゼロにはその答えと自分達の答えの
	違いが解らなかった。しかし、ガイアは「これがほぼ模範解答」と得意げに告げた。

	「……どこがどう違うってんだよ」
	「解んないのは、お子ちゃまな証拠だね。世のお母さん達が、家族に夕飯は何が良いか訊いた時の一番
	 ムカつく返事は『何でも良い』ってのと、おんなじことだよ」

	いや、だから、それじゃ解んねぇっつの。とゼロは反論しかけたが、そういやマンもそんな感じのこと
	言ってたことあるし、親父やタロウ教官やウルトラの父からも、そういう時は具体的な希望を挙げるか、
	でなきゃ褒めて持ち挙げて誤魔化すんだって言ってたような……。と思い出した。

	「そっか。けど、俺らがジャンとかナイトにんなこと言っても変な空気になりそうだし、グレンが自分の
	 主張通そうとしたら、それはそれでジャンと揉めそうじゃねぇか?」
	「まぁねぇ。でも、詳しいとか巧いとかそっち系で褒めれば良いんじゃないの?」

	ゼロとガイアがそんなやり取りをしている最中。

	「ホント、ティガは紅茶もコーヒーも淹れんの上手いよな」
	「そう? 僕程度なら、それなりに良い茶葉や粉を、ちゃんと保存しておいて、分量も淹れ方も時間も守って
	 淹れれば、そこまで差は出ないと思うけどね」
	「あー。俺それほとんど出来ねぇから、自分で淹れっとあんま旨くないんだな。ところで、コレ何か花っぽい
	 匂いするけど、何茶?」
	「桜と桃の紅茶だよ。お砂糖は入れてないから、甘いのは香りだけだろうけど」
	「いや。味もほんのり甘い気がしなくもない」

	なんて会話をティガとダイナがしていたのを聞いていたのは、アグルだけで、後でガイアに教えてやった所。
	「えぇー。それ録音しときたかった。何でその場で教えてくれなかったの!?」
	と、猛抗議されたが、アグル的には「知るか」といった感じだったという。


	 

2013年VD&WDネタおまけ。 だがしかし、オマケの方が長くて気合入ってるってどういうこっちゃ俺(笑) (多分、無意識イチャラブを書きたかったんだな、うん) 2013.2.16