ある日の帰宅中。立ち寄った近所のスーパーで、ガイアはとても面白い光景を目にしました。 「さて、献立どうしよう。……何か、食べたいものはあるかな?」 「俺、豚の生姜焼き食いたい!」 「ダイナには訊いてない。……何が良いかな、レイくん?」 「……ぷりん」 「うーん。それはご飯じゃないから、デザート用に買って行こうか」 カートに幼児を乗せ、食材を見つつその幼児―レイ―に優しく語りかけ、隣に居た連れ―ダイナ―の要望を バッサリ切り捨てていたのは、ガイアの隣人のティガでした。しかしガイアは、この場では声をかけず、 自分の買い物もしつつ、見つからないように、そっと後ろの方から様子を窺っていました。 そして数分後。ティガが商品の会計を済ませて袋に詰めると、ダイナはそれを当然のように持ち、反対の手で レイと手を繋ぐと、ティガもレイと手を繋ぐよう促しました。するとティガは、少し躊躇ったものの、レイが じっと見上げながら手を伸ばしてきたので、その手を取り、3人並んでスーパーを出ました。 「ダイナ。卵入ってるんだから、袋振らない! あと、レイくんの歩幅に合わせて、もうちょっとゆっくり歩いて」 楽しそうに袋もレイの手もブンブンと振りながら歩いているダイナに、そんな小言を言うティガは、どう見ても 若い母親で、おまけに買い物袋がレジ袋ではなくマイバッグな辺りも手伝い、彼ら3人は家族のようでした。 そんな光景に笑いをこらえつつ、自宅アパートの手前辺りで 「こんばんはー。君らも今帰り? というか、ダイナってば、いつの間にティガに子供産ませたの(笑)」 とガイアが3人に声を掛けると、すかさずティガから 「産めるか!」 という答えが返ってきました。 「この子は、セブンさんの所のレイくん。今日から明日の夕方までセブンさんとマンさんが遠方での仕事で、 他のご兄弟も都合がつかなくて、ゼロくんも用があるっていうから、預かったんだよ!」 半ギレのティガに詳しい説明をされなくても、ガイアはどうせそんな感じの事情だろうと解っていました。 何しろ 「ただでさえ、間違われることが多くて嫌になっているんだから、本当のことを知っているガイアまで、 僕のことを女性扱いするの、止めてもらえないかな」 細身で中背で若干女顔寄りの美形とはいえ、ティガは歴とした成人男性なのにもかかわらず、ダイナと同居を 始めて以降、近隣住民に女性と間違われることが格段に増えた為、更に母親疑惑まで立てられてたまるか。 といった感じなのですが、実は軽く手遅れだったりするとかしないとか。 更に、部屋に帰り夕飯―結局献立は、オムライスにしてみた―を作っている最中に来客があり、ダイナはレイと 遊んでいたのでティガが玄関に向かい、ドアスコープを覗いて相手を確かめ戸を開けると 「久しぶり。ウチに来るのは初めてな気がするけど、どうしたの」 「ああ。……ってお前、その子供、産んだのか!?」 自分から訪ねて来たくせに、不機嫌そうにそっぽを向いていた相手は、ティガとその足下に来ていたレイの 姿を見るなり、有り得ないことを叫びました。 「馬鹿かお前は!」 「何だと!」 遠慮なく頭をはたいてツッコミを入れると、相手は思い切り心外そうな顔をしましたが、むしろそんな表情を したいのはティガの方です。 「だって、僕はお前の双児―しかも一卵性―の片割れだよ? 『相手はどこの誰だ』とか、『ダイナに子供が 居たのか』なら解るけど、僕に産める訳無いのは、お前が一番良く解っているだろイーヴィル」 確かにこの時のティガは、「使えるなら別に何でもいい」と、ガイアが以前冗談でくれた、ジャンパースカートの ようなエプロンをしており、オマケに髪も結んでいた為、普段より女性のように見えました。が、一卵性双生児の 実弟イーヴィルにだけは、間違われたくない―というより、間違われるわけがない―に決まっています。 「で、この子はレイくんっていって、僕らの知り合いお家のお子さんで、今夜一晩預かることになっただけ」 改めて「どちらの子か」と訊かれる前に、そう説明しながらティガはレイを抱き上げ、イーヴィルを部屋の中に 上げると、レイをダイナに託し直し 「それでイーヴィルは、今日は何の用なの? 夕飯はこれから作る所だけど、食べて行く?」 などと訊きました。そんなティガが、やっぱりお嫁に行った姉か妹のように見えて仕方なかったイーヴィルは、 それを言うと烈火のごとく怒ることも、誰よりも良く知っているので、 「母さんから届け物に来ただけだから、すぐ帰る」 と、ふてくされた様子で帰ろうとしましたが、ダイナに 「えー。良いじゃん。飯食って、たまにはゆっくりしてけよ」 と引き留められ、それはそれでムカついたものの、ティガにも 「この後予定が無いなら、近況とか聞かせて?」 と言われたら不承不承を装いながら留まるような、隠れブラコンだったりするのです。 しかし、食事中も甲斐甲斐しくレイの世話を焼く姿や、 「ティガ―、アレ取って」 「じゃあ、代わりにダイナはアレ持って来て」 で通じることがかなり気に食わないのに加え、 「てぃが、ハルナみたい」 というレイの謎の呟きも気になり、オマケに後日 「アレ、お母さん代わりだったお姉さんがハルナさんっていうらしく、『お姉ちゃんみたい』とか、 『お母さんみたい』って意味なんだって」 と、ティガから電話で聞き、より一層ムカついたので、その後もイーヴィルは、用事が無い限り自分からは 顔を出すことはしませんでした。オマケ 買い物帰りの3人を目撃した コスモスが、ポツリと 「いいなぁ。子供って、可愛いよねぇ」 と呟いたのに対し、ジャスティスは 何やら気まずそうかつ申し訳なさそうな 微妙な顔をしていましたが、彼らには 子供が出来ないのかまだ居ないだけ なのかは、とりあえず今の所不明です。
自覚なし疑似一家万歳(笑) そしてイーヴィルくんも、使うのが楽しかった。 けど、別にティガとダイナはCPのつもりでは書いてない……と思います 2010.6.15