ある日の夕方のことです。ティガの携帯に、珍しくセブン21からの着信があり、嫌な予感がしたので無視しても、
	繰り返し掛かってきたので、渋々出ると
	
	「突然ですが、バイトのピンチヒッター頼めませんか?」

	と頼まれました。しかも、一応話だけ聞いてやると、翌日の話で、結婚式場の花嫁のモデルとのことでした。

	「何で、そんな急な話の上に、僕なの?」
	「本来のモデルが事故に遭って、大したことは無いんですが、顔と手足を怪我しまして。それで、見た目も
	 立ち振舞いも綺麗で、簡単な説明だけでうまく動いてくれそうな知り合いが、他に浮かばなかったもので」

	21自身はメイクのバイトで、他のスタッフも代わりを探しているものの、模擬挙式をやる筈のモデルだった為、
	中々条件が合う相手が見つからないのだと聞かされ、ティガは仕方なく「どうしても他が見つからなかったら」
	との条件で引き受けましたが、出来るならやりたくないと思いました。しかし、結局ティガ以上の人材が手配
	出来なかったらしく、引き受ける羽目になったのはまだしも、
	「ダイナにも確認取ったら、明日休みらしいんで、相手役頼みましたんで」
	は聞き捨てなりませんでした。おまけに


	「出来婚で、その当時は余裕が無くて式を挙げられなかったけれど、子供も少し大きくなって、金銭的な余裕も
	 出て来たので改めて。……というコンセプトでして。ティガさん達とレイなら、ちょうど高校卒業直後に出来た
	 子位でしょう?」
	「そうだけどさぁ、急な話だって言っていたのに、何でレイくんまで駆り出し済みなの?」

	メールで送られてきたバイト先の式場にティガ達が出向くと、そこには顔見知りの幼児―レイ―が居り、
	「お願いしたいのは子連れの式で、この子が子供役です」
	と紹介され、上記のように説明されました。

	「それは、ティガさん達の了承取った後、頼みこんで借りて来たからです」
	「そこまでする理由は? 子役モデルは居るんでしょう?」
	「居ますけど、5歳の子なので、ティガさん達にはちょっと大きいかと思いまして」
	「……。うん。それなら、確かにレイくんの方がマシかな」
	「あとは、顔見知りで懐いていた方が自然な絵が撮れますし」

	そんな21の言葉が、どこまで真実なのかは定かではありませんが、「ここまで来た以上は腹をくくるしかない」と
	開き直り、せめてなるべく普段とかけ離れた姿になるよう、ティガは頼みましたが、

	「ウェディングドレスの方は、顔が隠れるベールのにしてもらいましたけど、お色直しのドレスは、折角だから
	 着こなせる人の少ない紫のを着て欲しいそうなんで、それに合わせるとあまりケバいのは似合わないし、勿体
	 無いんで素材を生かしたメイクしたいんですが」

	などと、21を筆頭にした衣装担当に力説され、おまけにダイナにまで

	「あんまケバいのや、流行りの化粧や髪形は似合わないから、いつもの感じに近い方が良いと思う」

	と呟かれたので、ひとまずダイナだけはどついて、ギリギリの妥協点を探しながらメイクをしてもらい、カツラも
	地毛とは雰囲気の違うものを選びました。


	「ところで、胸作った方が良いと思うんですけど、サイズどうします?」
	「んー。俺は、そんなにでか過ぎない方が良いと思うけど」
	「……Bの75のブラに、パット3枚」
	「ああ、はい。それ位が妥当な感じがしますが、何ですぐさま指定できるんですか」
	「不本意ながら、慣れているからだよ」

	遠い目をしながら着替えていたティガは、いざ模擬挙式が始まると、21も感心する程の見事な演技を披露し、他の
	スタッフからも

	「あの人達って、本物のご夫婦とお子さんなんですか?」

	と訊かれる程自然な感じに見えたようでした。(ちなみに21は、その質問に対し「夫婦ではないよ」しか答え
	ませんでした。)



	そして、そのバイトから数カ月程経ったある日。まずティガの実家の母親から

	「知り合いのお嬢さんがね、今度結婚することになって、式場を選ぶために色々パンフレットを見ていたら、
	 ティガちゃんとよく似たモデルさんを見つけたらしいの」

	という電話が掛かって来て、次いで大学で

	「ティガくんたら、いつの間に結婚して子供産んでたの(笑)」
	「イルマ教授。いきなり、何の話ですか?」
	「レナちゃんにね、式場のパンフレットを見せてもらったの。ダイゴくん、何だかショックを受けてたそうよ」

	などとからかわれ、更には

	「アレはどういうことだ!?」

	と、友人にパンフレットを見せられたという双児の弟イーヴィルが怒鳴り込んで来ました。しかしティガが引き
	受けたのは模擬挙式のバイトで、写真を撮られた覚えはありますが、パンフレット用だとは聞いていませんでした。
	そこで21に確認および抗議の電話を掛けると、

	「口頭で説明はしませんでしたが、契約書にはちゃんと書いてありましたよ」

	当然のようにそう返されてしまい、おまけに

	「まぁ、見た感じが相当美人なのもありますけど、すごく自然で良い表情の写真だったので、使った側の気持ちは
	 解ります。ああ、でも、大丈夫ですよ。レイに笑い掛けてるダイナを見て微笑んでる程度のですから」

	と付け加えられたので、とりあえず結婚の予定のある大学の友人達に当のパンフレットを見せてもらった所、確かに
	悪くない写真でした。そして、その友人達には「他人の空似」と説明しようとしましたが

	「でも、この新郎役はダイナくんだし、ダイナくんといる時のティガくんて、こういう笑い方してるじゃない」

	と言われてしまい、結局少し逡巡してから、臨時のバイトだった事を白状したそうです。





ホントは6月に書くつもりだった悪ふざけ話。 発想の元は、かつてダイナだった人ですよ 大学のGUTSメンツは暫定ですが、ちょっと楽しかった(笑) 2010.8.23