「……コスモス」
	「なぁにー、ティガ?」

	ある日。ジャスティスが居ない隙を見計らうようにして、ティガがコスモスの元を訊ねて来た。
	その表情が、妙に硬いというか不安げなのが気になったが、気付かなかったふりをしてコスモスが
	小首を傾げて笑うと、ティガは申し訳なさそうに、
	「ちょっと、話を聞いてもらっても良いかな?」
	と頼んできた。

	「うん。良いよぉ」
	「こんな話、他の人達には出来ないんだけど、……コスモスは、ベリアルをどう思う?」
	「え、と。どーいう意味?」

	コスモスが快諾したことに、安堵の息を洩らしたものの、やはり少し躊躇いながらティガが口にした問いの
	意図が、コスモスには掴めなかった。


	「ベリアルは、確かに光の国に仇なす存在で、現実として光の国を襲い、滅ぼそうとした。だけど、僕は彼を、
	 完全な、絶対悪だとは思えないんだ」

	困惑するコスモスに、ティガは目を伏せ、言いにくそうにしながらも、悩みを吐きだすような口調で語り出した。

	「彼は、かつて力を欲し、プラズマスパークに手を出した。でもそれは、未遂に終わり、更生の機会も与えられた
	 とはいえ、ゼロだって同じだろう?」
	「あ、うん。そうだねぇ」

	ティガの、懇願するような目につられ、コスモスは反射的に頷いたが、確かにそれは事実と言えなくもない。

	「それから、レイブラッド星人に魅入られ、正義の心を失った。けれど、同じようにレイオニクスだった
	 レイは、その血に打ち克つことが出来たんだから、ベリアルにだってそれは可能だったかもしれない」
	「……」

	しかも、おそらく全てのレイオニクスの中で、最も弱い肉体だと思われる地球人の身で、一度は暴走しかけた
	状態から戻ってきたんだよ。そんなティガの言葉は、間違ってはいない。けれど、どれだけ可能性を論じた
	所で、ベリアルの正義の心はレイブラッドに飲み込まれた。それが事実である。その為、コスモスはティガに
	何と返せば良いか解らなかった。

	「そしてね、コレが一番大きいんだけど、……僕は、かつて闇の眷族で、光に目覚めた後にも、かつての仲間に
	 よって、闇に引き戻されかけたことがある。だけど、半身であるダイゴや、仲間達のおかげで、光に戻る……
	 というか、留まることが出来た。だったら、ベリアルだって大隊長や銀隊長達が力を尽くせば、少なくとも
	 最初の事件の時点でだったら、此方側に戻って来られたんじゃないかと思うんだ」

	ティガの過去は、ゼロを除く殆どの警備隊関係者は、本人ないしはマンなどの口から聞いて知っている。
	そして、闇の側に恋人が居たことも、そのかつての恋人―カミーラ―と戦わざるを得なくなり、彼女を討った
	こともコスモスは知っていた。それでもティガは、そんな過去を経て、闇を身の内に宿したまま光でいる事を
	選んだ。だから、ベリアルに対しても、初めに反旗を翻した時に、命懸けで「帰って来てくれ」と懇願するか、
	それが出来なかったのならば、心を鬼にして一思いに討つべきだった。ティガはそう考えているのだという。
	

	「ねぇ、コスモス。僕の考えは間違っている?」
	「ごめんねぇ、ティガ。僕は、その答えを持っていないやぁ。……でも、この宇宙には、『純粋な悪』なんて
	 一切居ないって、信じたいなぁ」

	ティガが求めているのが、同意や肯定の言葉だと解っていても、それはウルトラの父や母にだけ与えられる
	もので、自分にはコレが精一杯だと、コスモスは申し訳なさそうな笑みを浮かべ、自身の希望を口にした。

	「……うん。それで充分だよ、コスモス。ごめんね、こんな困らせることしか出来ないような話をしてしまって」
	「ううん。いいよぉ、気にしないで。確かに、僕以外にはしにくそうな話だもんねぇ」

	ほんの僅かながら、憑き物が落ちたような顔をしたティガに、コスモスはなるべくいつも通りの、ふにゃっと
	した笑顔で、何てことのない口調で答えた。自分は、話を聞いてやるくらいしか出来ないが、それでティガの
	気が済むのなら、話くらいは聞いても構わない。だけど、本音や真意を打ち明けて相談すべき相手は、僕じゃ
	ないと思うんだけどなぁ。そんなことを考えたコスモスの内心に、気付いているのかいないのか、ティガは
	もう一度「ごめんね」と幽かに微笑んで去っていった。

	そんな彼が、仲間達に本心を語ることが出来る日が来るのか。それはまだ解らない。




別に、公式にケンカ売ってるわけじゃないんですけどね 銀河伝説とティガの映画と大怪獣バトルその他諸々を見てたら、ふとこんなことを思っちゃったんです。 以下、無駄に長い考察もどきの語り(9割方ティガについて) 地球や宇宙全体の為に人類を滅ぼしたり犠牲にしようとした輩は、他にも数人居ますけど、完全に悪(闇)の側に 居たことがあるのってティガだけで、しかも闇側にも仲間が居たり愛憎劇絡んでたりするんで、ベリ様を 頭から否定することは出来ないんじゃないかという気がするんですよ。 あとは、マサキの所為で悪に転じたイーヴィルの例も見ている訳なので、より一層複雑なんじゃないかな、とも で、その結果、調子に乗っている小僧っ子を冷やかな目で見ているけど、どうせ言っても通じないから言わない。 みたいな冷めた所があるけど、他の連中にも言わないのは、そんな考え方をしていることを否定されたり軽蔑される のを恐れているから。 だけど、一応マンもダイナもガイアもアグルも、ある程度は気付いていて、その上で本人が話す気になるまで何も 訊かないでいる。そして実はティガ本人もその事に気付いてはいなくもないけど、やっぱり言えないので、とりあえず 博愛主義者で地球をリセットしかけた相方がいるコスモスに…… ってな所ですかねぇ。 しかしながら、「抑鬱傾向があり、時々自家中毒を起こしかける気高きお嬢」って、何でそんなイメージになったんだ。 本編より前に映画見て、ダーク様時代とカミーラに萌えたからか!? ちなみに、そんな訳(?)で、カノウ的イメージと姉さんち設定は、大分ズレてきています。 そして、今後もどんどん他の連中も変わって行くんじゃないかなぁ、と 2010.9.26