ある日の昼下がり。コンビニ袋を下げたバルタンは、自宅アパート前で「パパ!」という声と共に、背後から
	何者かに腰の辺りにタックルをかまされました。

	「ふぉ!?」

	面食らったバルタンが振りかえると、そこに居たのは小学校低学年位の、ワンピース姿のとても可愛らしい少女
	でしたが、バルタンには何の面識も心当たりもありませんでした。

	「あら、バルタン。アンタ子供居たの? しかも、結構な美少女じゃないのよ。……こんにちは、お嬢ちゃん。
	 お名前は何ていうのかしら?」
	「シルビィだよ。お姉さん達は?」
	「あら、『お姉さん』って、アタシのこと? 良い子ねぇ、シルビィちゃんvvv」
	「いやいや。この人は、お姉さんではなく、むしろおじさ……ゴフっ」
	「黙んなさいメフィラス。……アタシはダダで、このじいさんはここの管理人の、メフィラスっていうのよ」

	バルタンと、彼に抱きついた少女―シルビィ―を目撃していたのは、同じアパートに住むダダと、管理人の
	メフィラスで、「おじさん」と言いかけたメフィラスに、思い切り肘鉄を食らわせたダダはオカマさんです。

	「ダダさんと、メフィラスさん。……パパは今、ここに住んでるの?」
	「そうよぉ」
	「しかし、バルタンにこんな大きなお嬢さんが居たとはな。離れて暮らしているのは、どういった事情からだね」
	「ふぉ! ふぉ〜!!」

	早くも、シルビィがバルタンの娘であることを前提とした会話を進める2人に、バルタンは抗議の声を上げました。

	「え。何? 『結婚していないし、子供も居ない』? けど、セブンだって結婚していないけど、息子が居るのが
	 最近判明したじゃないの」
	「ふぉ、ふぉ、ふぉ!」
	「『だとしても、自分は違う。こんな子は知らない』か」

	何故か母国語らしき「ふぉ」しかしゃべれないバルタンの言葉を、ダダもメフィラスも一応理解出来ているので
	会話は成立しますが、そんな彼らのやりとりを見ていた少女は、バルタンの言葉が直接解ったのか、メフィラスの
	解読からか、バルタンの袖の端を握りしめ、彼を見上げながら

	「パパ、シルヴィのこと分からないの? シルヴィ、パパに逢いたかったのに」

	と、大きな瞳に涙を浮かべ始めました。

	「あーあ、可哀そう。泣いちゃったじゃないの」
	「こんないたいけな少女を困らせるとは、感心しないぞ、バルタン」
	「ふぉ、ふぉ!」
	「往生際が悪い! 潔く認めないか」
	「ふぉぉーー」

	完全にシルビィの味方についた2人が、バルタンを責め始めると、

	「あの〜、すいませーん。この辺でぇ、水色のワンピースにおそろいのおっきなリボンをしたー、7歳の女の子
	 見ませんでしたかぁ?」
	
	ひょっこりと現れて3人に声を掛けたのは、近所に住む獣医のコスモスでした。

	「あら、コスモス。それって、もしかしてこの子?」
	「はい。そうですぅ。よかったぁ、無事で。……シルヴィちゃん、いきなり走り出して、どこかいっちゃったら
	 ダメだよぉ。あぶないでしょ〜」
	「ごめんなさい、コスモスくん。でも、パパが……」

	どうやらシルビィは、先程までコスモスと近くの公園で遊んでいたのですが、バルタンの姿を見つけるなり
	駈け出していってしまったので、探していたのだそうです。

	「そっかぁ。でもねぇ、シルビィちゃん。残念だけど〜、この人はシルビィちゃんのパパじゃ無いんだよぉ」
	「違うの? パパじゃないの?」
	「うん。よく似てるけどねぇ」

	シルビィを説得するコスモスの言葉で、周囲はようやく納得しました。

	「つまり、他人の空似な訳ね」
	「そんなにこの子のお父上は、このバルタンと似ているのかね?」
	「はい〜。多分ー、出身は同じだと思いますよ〜」

	コスモス曰く、シルビィの父親は若干過激なジャーナリストで、あちこち飛び回ったり、時には投獄すらされて
	いて、母親が物心つく前に亡くなって以降、シルビィはずっと施設などに預けられっぱなしで、現在は寮のある
	学校に入れられている為、顔をキチンと覚えていない可能性が高いとのことでした。そして、バルタンと出身が
	同じということは……

	「もしかして、シルビィちゃんのお父さんも、『ふぉ』しかしゃべれなかったりするわけ?」
	「いえ〜、僕が知ってる限りではぁ、結構流暢に話してましたよ〜」

	まさかと思ったダダが訊いてみると、コスモスはそう否定しましたが、

	「パパ、お家ではこのおじさんみたいに、『ふぉ』しか言わないよ。お外では、『ほんやくき』っていうの
	 使ってるんだって」
	「……。こないだの、妹ちゃんの彼氏もそうだったけど、アンタの所の男共って、みんな日本語喋れないものなの?」
	「ふぉ……」

	ダダもメフィラスも思い切り呆れた顔をしましたが、男バルタンは喋れないということにしてあります。


	「えっと、パパがお迎えに来てくれるまで、コスモスくんのおうちにいるから、また遊びに来ても良いですか?」
	「もちろんだとも」
	「次は、何かおやつでも用意しておいてあげるわね」
	「ふぉふぉふぉ」
	「うん。またね、バルタンおじちゃん」

	夏休みに入り、寮も閉まっている間シルビィは、家に帰っても一人なので、父親が帰るまでコスモス達の元に
	預けられているのだそうです。そんな訳で、帰り際にまた訪ねてくる約束をしていき、父親が迎えに来て家に
	帰る時も、父子揃って挨拶に来ましたが、

	「ホントにバルタンそっくりねぇ。でも、バルタンよりちょっと格好良いかしら」
	「そうだな。少々、こちらの方が精悍か」

	シルビィの父親は、バルタンより若干細身で目付きも鋭めでしたが、実際に2人並んでみても双児並にそっくりで、
	間違えても仕方ないように思えました。更に

	「本当に、シルビィちゃんのお父さんも、『ふぉ』しかしゃべらなかったわね」
	「そうだな。我らには解るからか、翻訳機も使っていなかったな」

	そんな感じで、バルタン同士の「ふぉ」のみで交わされる会話は、傍で見ていて実にシュールだったとのことです。




先日の特番でコスモス(だった人)が「シルビィちゃん」と言ったのが何か気に入り、書いてみたくなって考えた代物です。 シルビィは、珍しく姉さんの所の子とは見た目のイメージが違い、姉さんちでは金髪ツインテールの魔女っ子風ですが、 うちでは濃いグレーのポニテに、水色の大きなリボン&ワンピース姿で目が大きい美少女だったり 2010.7.31