5月の第二日曜日。
	2日程出張で留守にしていたセブンは、帰宅して一息つくと、まずは息子達を呼び寄せお土産を
	手渡すと、台所で夕食の支度中だった、義兄で親友で同居人でもあるマンを手招きした。

	「何? 私の分もあるの? 毎回兄弟全員分買ってこなくても良いのに」
	「あー、いや、ちょっと違う」

	エプロンで手を拭きながら近付いて来たマンに、セブンが手渡したのは、

	「鉢植え?」
	「……花束よりはマシだろ」
	「うん。まぁ、それはそうだけど、何で花?」

	怪訝そうな顔をしているのは、渡されたマン当人だけでなく、横でそれらのやり取りを見ている
	ゼロもで、正直かなりドン引いていた。

	「今日って、母の日だろ?」
	「そうだね。朝、レイやゼロからカーネーションを貰ったけど……って、ああ。これも
	 カーネーションか。オレンジのなんてあるんだね」
	「……帰りの駅ナカの花屋で、目についたんだ」


	なぁ、レイ。俺はこの場合、どういう顔をしたら良いんだと思うか?
	さぁ。……ゴモラは、
	「いたたまれないなら、黙って立ち去るか、いっそ目一杯冷やかせば良いんだヴォ」
	と言っている。

	なんて、解りやすいヒソヒソ話をする甥っ子達と、照れ隠しなのか不貞腐れたような表情で自分の
	反応を窺う親友兼義弟に、マンは思いっきり溜め息を吐くと、

	「再三言ってるけど、ゼロとレイの母親役までは許容してるとはいえ、君の奥さん扱いは御免被るからね」

	そうセブンに宣言したが、

	「……けど、まぁ、花に罪は無いし、切り花じゃなくて鉢植えだから、レイ達の情操教育に悪くはないから、
	 貰っておいてあげるけど」

	と付け加えたのは、

	「デレだね」
	「デレですね」
	「何だかんだ言って、マン兄さんはセブン兄に甘いですもんねぇ」
	「ところで、オレンジの花ってのが、科特隊イメージっぽくてあざとい気がすんの俺だけ?」

	などと、翌日経緯をゼロから聞いた兄弟達に思いっきりイジられた。
	尚、エースの「オレンジ=科特隊」との連想は、満場一致で「狙ってるだろ。そりゃ」と認められたが、
	セブン本人曰く、

	「定番の赤やピンクじゃ可愛すぎるし、黄色は花言葉が『軽蔑』だって聞いたことがあって、紫は何か
	 違うだろ。だから、他にあった緑とオレンジで、そのどっちかといえばオレンジかと思っただけだ!」

	とのことだったが、

	「どんだけ真剣に選んだんだよ親父……」

	と、より一層引かれただけだったとか(笑)




駅ナカの花屋の母の日推しを見てたら、 "出張帰りに「……母の日だろ」と花買って帰ってきた三男と、面食らう次男さん" というネタが降って来たもので…… 2013.5.6