玄関で出迎えたコスモスにただいまと言いながら居間に向かうと、リドリアスを隣に、レジェンドが
紙に向かって微動だにせずにいた。
物音でジャスティスに気づいて、おかえりと言ったものの、また無表情で固まっている。考え事を
しているようだが、そこまで何を考えこんでいるのだろう。そんな疑問を見すかすように、ほわほわと、

「あのねぇ、アンケートの答えを頑張って考えているんだよ〜」
「アンケート? …ああ、あれか」

二三日前に警備隊員に配られた。自分は宇宙警察に属するから手元にないが、この二人はもらっているはずだ。
もうすぐご飯にするねと台所に彼は消えたから、固まり続ける我が子のもとへ近寄る。薄水色の、髪であるはずの
猫耳が、気配を察したのかぴくりと動く。リドリアスの隣、アンケート用紙を覗きこむように膝を落とす。

「難しいのか?」
「……すごく」

この子は瞬きをほとんどしないし表情も少ないけど、同居していれば感情の機微は大体わかる。ここまで
悩ませるとは一体なんのアンケートなんだ?
目を紙に走らせ、そして、

「…なぁ、これ、答えなければ駄目な書類なのか」
「提出期限は明日。今日中に完成させる」

癖で、口調は断定型。〜したい、や、〜のつもり、が中々レジェンドは言えない。それにしても、これは、
答える必要が本当にあるものなのか。
夕飯を食べながらコスモスに経緯を聞いてみた。すると、詳しいことはわからないがと言いつつ、

「誰かさんの思いつき、って聞いたよ〜」

それだけわかれば充分だ。聞いた自分が愚かだった。もぐもぐといつもより早めに食事を終えて、レジェンドは
また居間に戻り、リドリアスを傍らに置いて固まっている。きちんと正座して、もしかして書き上げるまで
寝ないつもりだろうかと心配になる。確かに設問は多かった。
それに、彼の答えにくそうな内容でもあった。例えば、

『趣味はなんですか?』
「…散歩? リドリアスと?」

どうして疑問形で答えるんだ。そこは断定したっていいんだぞ。

『あなたの属性は?』
「…ウルトラマン」

ああ、うん。間違ってはないけど、質問の意図とあっているのかこれ。

『プライベートで地球に行ったらまずどこへ行きたい?』
「温泉」

今月のM78キャラカレンダーか。

少し見せてもらったけれど、脱力感が半端ない。原因はレジェンドの答えではなく、ブログの自己紹介みたいな
設問にあるのは明白だ。一所懸命考えて記入している彼には悪いが、そこまで悩まなくてもいいんだぞ、と後姿へ
声をかけた。

「でも、楽しいみたいだよぉ。リドリアスと相談しながら書いてるし〜」
「相談、してるのか?!」

言われてみれば、目と目で会話、している? 食後のお茶を受け取り、ふとコスモスにも聞いてみた。すると、
とうにアンケートは完成しているという。ほわほわと袖を振って、何故だか照れている。

「あの質問にぃ、レジェンドはなんて答えるんだろうね〜」
首を傾げたジャスティスへ、焦らすためか口元を隠して笑う。

「僕はね〜、『美人で長い黒髪がきれいで、凛としてる中に可愛らしいところがある、芯のしっかりしたひと』って
書いておいたから」

飲んでいた茶を吹き出した警察官は、ごしごしと口元をぬぐって真っ赤になった。それを見つめつつ、

「あと〜、『無愛想に見えるけど、照れた仕草や恥らう様子が可愛い』も、『いってらっしゃいとおかえりのキス』も
書いておいたよぉ」
「ちょ、ちょっと待てッ!!! なんだその答えはぁ!」

全力での叫びにレジェンドの猫耳髪が動いたが、彼は振り向かない。問われた張本人は、嬉しそうに答えた。

「アンケートの答えだよぉ。好きなタイプとか、好きなひとの好きなとこ、あとお願いしたいこと、ってあったから〜」
「い、今すぐ書きなおすんだコスモス!」
「どうして?」

袖を当てたまま、彼は問い返した。だってほんとだもの、とまっさらに言われたせいで、ジャスティスは耳まで
赤くなった。震える両手をテーブルにつき、身を乗り出す。なのにコスモスは笑ったままだ、というか、可愛いね
ジャスティス、とか言い出している。何を言ってるか自分でもわからないが、とにかく書きなおして、と伝えた
つもりなのに、

「嘘を書いちゃいけないんだよ、本当のことを書かなきゃ〜。ね?」

論破は無理でした。その柔らかい笑顔が可愛いと思いながら突っ伏したジャスティスの髪をさらりと触り、彼は囁いた。

「ジャスティスだったら、アンケートになんて答えてくれる?」

顔をあげたら、キスされそうな距離で微笑むコスモスに、心拍数が尋常じゃない速さへ跳ね上がる。とん、とおでこと
おでこがぶつかる。
恥ずかしさで落とした視線と、包み込むような眼差しは、しばらく後に交差し、震えていた手に長い袖が重なった。
静かになった台所。レジェンドの猫耳髪は完全無視なのか、もう動かなかった。





柳佳姉さんの「誕生日プレゼントに何か書(描)こうか」とのお言葉に、 「平成組もしくは、ラブラブなコスジャスwithレジェ辺りをいただけたら狂喜乱舞します!」 と答えたらこんな素敵なモノがvv 姉さん、ありがとうございました!!