6年(中1時)
「今度の週末、伊作と買い物に行くことになった」
「そうか、良かったな仙蔵」
「……チョコを作るので、その材料を買うのに付き合ってくれと言われたんだがな」
「俺と長次は、『作るの手伝ってね』って言われたぞ」
「そういえば、お前らは家庭科部だったか」
「ああ。……買い出しはお前と、作るのは俺らと一緒なら、特別なものを作るかどうかわかるから、
別に気にしなくても良いと思うけどな」
「確かに、それもそうだな」
5年
「勘右衛門の裏切り者!」
「は? いきなりどったの、はっちゃん」
「女子部の子から、チョコ貰ってだろ。しかも何人かから」
「あー、うん。でも、全部ギリとかお礼だよ」
「お礼?」
「こないだ、靴を側溝に落として困ってた子が居たから、サンダル貸したんだ」
「ああ。あの裸足で帰ってきた日か」
「んじゃ、義理の方は。女子部に、そこまで仲の良い子居ないだろ!?」
「んー。たまたま入院してた病院の看護師さんの妹って子が、うちの女子部に居て、『お姉ちゃん達から』
ってくれたんだ」
「そういやお前、無駄に看護師のおねぇさま方にモテてたよなぁ」
4年
「滝。コレ一緒に行こう」
「何だ喜八郎。ケーキバイキングのチラシ?『バレンタインデー特別 カップル限定お1人様1000円』か」
「そう。タカ丸さんと三木も誘って、2組で」
「しかし、三木ヱ門は甘い物は嫌いではなかったか?」
「じゃあ、七松先輩でも誘う? あの人甘い物もイケるらしいし」
「……いや。1人だけ声を掛けなくても煩そうだから、まずはタカ丸さんと三木ヱ門にしておけ。
それで断られたら、私とお前か、お前とタカ丸さんで行けば良いだろう」
3年
「なぁ藤内、腹減ってないか?」
「別に、そんなには」
「そうか……」
「減ってたら何なんだ?」
「さっき、急にチョコ食いたくなったんだけど、今の時期はコンビニのお菓子コーナーもバレンタイン
一色だろ?」
「そうだな」
「だから、何か気が引けて、結局コレを買ったけど、全部は多いから……」
「あー『薄皮チョコパン』か。確かにコレなら、結構ちゃんとチョコクリーム入ってるけど、
どっしりし過ぎてて、5個全部はキツいよな」
「だろ?」
「それじゃ、数馬と食べるから2個くれ」
2年
「……しろ。そのチョコどうした」
「えっと、ユキちゃん達に貰ったんだけど」
「アイツらに!? 大丈夫か? 何か変なもの入ってたり、凄い味しないか??」
「でなきゃ、とんでもないお返しを要求されたりは……」
「普通に美味しいし、お返しも別に何も言われてないよ」
「僕、たまたまその場に居合わせたけど、『餌付けのし甲斐がある』とか『食べてるの見てると
和むのよねぇ』とか言われてた」
「……弟扱いってことか」
「というか、小動物扱いじゃないか?」
「少なくとも、同期の男子だとは思われてない感じだったのは間違いないな」
1年は組
「いよっしゃ、勝ったー!!」
「約束は守れよ、きり丸」
「わかったよ。やりゃ良いんだろ、やりゃ」
「……何アレ」
「もうじきバレンタインデーじゃん。で、どうせろくに貰えっこなさそうな団蔵と虎若が、『トランプで
勝ったら女装してチョコをくれ』って、きり丸に勝負を挑んだんだってさ」
「そうなんだ。でもそれ、逆に虚しくならない?」
1年ろ組
「みんなー。駅前のケーキ屋さんの、バレンタインデー限定ケーキと、他にも何個かあるけど、食べる?」
「え。それって、誰かに貰ったの? それとも自分で買ったの?」
「クリスマスケーキ買いに行った時に、ポスター見て気になったから、予約しといたんだ」
「……流石伏ちゃん」
「あそこのお店、女の子にすごく人気だから、混んでたでしょ?」
「うん。すっごいスリルとサスペンスな感じで、楽しかったよ〜」
1年い組
「……甘い物は苦手だから、別にチョコが欲しかった訳じゃないけど、何でみんなは貰えてるのか、
訊いても良い?」
「僕や伝七は、部活が女子部と合同だから、友チョコのおこぼれや山本先生からも貰えたし、先輩や
学園長のお使いで顔見知りの商店街のおばさん達からも貰っただけ」
「僕、普段はあんまり顔出さないけど、家庭科部員だもん。部室行ったら、先輩達が作ったののお裾分け
もらえたんだ」
「……近所に住んでるとかいう見知らぬ人から、女子に間違われて逆チョコとして押し付けられた」
元拍手お礼
概ね女子に縁の無い、可哀そうな男子校(正確には別学)の生徒くん達の風景でした(笑)
2011.2.15
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