01ハート形のチョコレート
普段はだいぶ即断即決で、自分の信じる正義の為なら、地球人を断罪しようとすらした、
割と融通の利かない宇宙警察のジャスティスは、珍しく困惑し悩んでいた。というのも、
「今年は〜、ジャスティスの手作りのチョコが欲しいなぁ」
とコスモスにおねだりされたのだが、お菓子作りどころか料理もあまり得意ではないし、
毎年既製品を阿鼻叫喚の特設売り場に買いに行くだけでも苦行なのに……。と途方に
暮れていると、
「……マンから、レシピをもらった。こっちはティガから」
と、コスモス→ゼロやダイナ経由で話を聞いたマンやティガから、レイ経由で預かってきた
レシピやお手軽商品をレジェンドが差し出してきた。
溶かして固めるだけを手作りと呼ぶには、若干抵抗があったし、サーガトリオに話したということは、
ガイアやUFZやウルトラ兄弟どころか、最強最速の単細胞噂拡散機ことマックスにまで伝わり、
光の国中に噂を広められても不思議はない。ということか!?
と青褪めながらも、ここまでお膳立てされた以上は、腹を括るしかないのか。と諦め、改めて
レジェンドから受け取った品々を確認すると、マンのレシピは、チョコを溶かして上に少し
トッピングする。という初歩の初歩のものと、失敗の少ないクッキーの作り方。ティガからも、
意外と簡単なトリュフの作り方と、チョコを溶かして流し込むだけのクッキー地のタルトカップ
だったが、
「これならガイアでも失敗も余計なこともまず出来ないので」
とのメモが添えられていた、そのカップと、マンから貸し出されたクッキーの抜き型の中の
いくつかの形に、ジャスティスは固まった。
「ハート、形……」
「バレンタインデーだし?」
何かおかしなことがあるのか。と言いたげに首を傾げるレジェンドに、間違ってはいないがこれは
ちょっと……。とは、何故か言い辛く、しばらく懊悩してから、開き直って「ただ溶かして固める
よりは」と、ティガからのハート型のカップを選んだが、
「それにするなら、チョコはコレが良いとガイアが。あと、エプロンはコスモスが用意したコレ」
と、レジェンドに手渡されたのは、イチゴ=ピンク色のブロックチョコと、いわゆる「新妻エプロン」と
呼ばれる、フリフリふわふわの白いレースのエプロンだった。
その上、「コスモスに頼まれたから」と、作っている過程を録画し始めたレジェンドを止めたかったが、
コスモスが残念がる姿が一瞬よぎってしまったため、嫌々ながらそれも見逃した結果。
チョコの湯煎に四苦八苦したり、飾り付けはどうするべきか悩んだり、流し込む段階でチョコがだいぶ
溢れたり、ラッピングも試行錯誤する様まで込み込みで、最高のバレンタインデーだったんだよ。
と、後日コスモスが惚気まくったことが発覚し、もう二度とやるものか。とジャスティスは思ったが、
「多分、またコスモスにねだられたら、折れるんだろうな」
が、周囲の共通見解だったという。
02義理と本命の闘い
N:はい! どうも〜。ラジオ版ナイスの部屋、バレンタインデー特別編です!
今回は趣向を変えて、もらった数ではなくて、本命と義理や友チョコの比率のランキングをお送りします!
Z:アシスタントのゼアスです。
まずは、本命ナシの方をまとめて発表しますと……えーと、ジャックさんとエースさんと80先生と、
ティガやコスモスも、本命は絶対受け取らないらしいです。って、何でナイス宛に本命あるの!?
G:あー、それ郵送分でしょ。何か、科技局だか銀十字の新人の女の子で、顔だけで一目惚れした子が
いるみたい。って、医務室で噂になってたよ。
ちなみに、僕はゲストコメンテーターのガイアです
A:同じくゲストコメンテーターのエースだ。
ジャック兄や俺とか80は、顔も、嫁さんとか夕子やユリアン居んのもみんな知ってっけど、ナイスは
そんな有名じゃないもんなぁ
N:嬉しかったけど、私は妻一筋だからねぇ。返したいんだけど、差出人書いてなくて
G:じゃあ、僕が返しときますよ。科技局の子の妹ちゃんらしいんで
N:それじゃ任せたガイア!
Z:えっと、では、その件は解決したので、本題に戻りましょうか。
A:脱線させたのはお前だけどな、ゼアス
N:まぁいいじゃないか、それがゼアスくんなんだから
Z:えぇ〜、それどういう意味、ナイス
G:って、また脱線しようとしてるし。ほっといて先行くよ。
相手居るし、直接は受け取らないけど、郵送とかポストやデスクに勝手に置いてかれるんで、
義理より本命が圧倒的に多いのは、アグルやヒカリさんだね。
A:逆に、ほとんどが義理っつーか友チョコだの餌付けチョコなのが、メビウスやガイアとか、幼児組か
G:ですねー。ダイナやマックスやグレン辺りは義理とお歳暮のオンパレードで
N:ゼロもそっちじゃないのかいガイア?
G:それがですね、ゼロはアレでも若くて顔も割と良くてセブンさんの息子で将来有望と言えなくも
ないみたいで、案外本命あるんですよ(笑)
Z:詳しいねぇ、ガイア
G:だからコメンテーターに呼ばれたんだもん。
まぁ、知ってるのは主に若手のだけですけどね
A:で、昭和組の分で俺だろ。
本命多いのは、やっぱタロ坊だな。ブン兄は、ゼロのことが発覚してから、義理もすげー減って、
マン兄は義理とかお歳暮に見せかけた本命が結構多い。
で、レオの分は全部アストラのチェック入ってるらしくて、本命くさいのは全部キングの腹に
収まってるって噂が……
Z:……アストラさんなら、あり得ますね
G:海外組や、ネオスやゼノンさん辺りは、知名度が低い分少なくて、ネオスのは21が預かる振りして
処分してる。って噂もあるよ
N:それも、さもありなんだな!
ところで、ゾフィー隊長は本命と義理のどちらの方が多そうなのかな?
A:あーっと、ギリで本命。けど、年々比率が減ってるっぽい
Z:年ですもんねぇ、ゾフィー隊長
N:一言多いぞ、ゼアスくん。隊長! 今のはゼアスくん1人の失言なので、私は関係ないですからね☆
G:あー、そっか。ラジオだっけ。てことは、さっきの僕らの発言もマズかったかな
A:別に大丈夫だろ。予想の範疇だろうし
N:しかしまぁ、これ以上は余談になりそうだし、時間なのでお開きということで!
03やっぱ手作りでしょ! 8兄弟ハヤタ家過去
ハヤタさんちのレナさんが、ダイゴくんと付き合い始めて最初の、バレンタインデー直前の週末。
お母さんであるアキコさんに
「チョコ作りを手伝って欲しいの」
とお願いすると、
「やぁよ、面倒臭い」
という、バッサリとした返事が返ってきました。
「面倒って、たまには娘とお菓子作りをするのも、父さんに手作りチョコをあげるのも、いいじゃないのよ。
父さんも、きっと喜んでくれるわよ」
「そうかしら? あの人、多分その手のことに興味ないわよ」
「そんなことない、と思うけど……」
冷めたお母さんに反論しながらも、レナさんは不安になってきました。何しろ、結婚してだいぶ
長い筈なのに、基本的に「ハヤタさん」呼びのままで、時々お父さんからも「フジくん」なのに、
お互い全く気にしていませんし、近所の―モロボシさんちとか郷さんちとか北斗さんちとか―
ラブラブなご夫婦と比べたら「うちはうち、よそはよそ」と言われたこともありますし、一方で
なんだかんだ言っても付き合いは長くて、お互いのことをよく解っているっぽいので、もしかしたら
アキコさんの方が正しい可能性も高い気がしてきたのです。
でも、1人で作る自信はないから、どうしよう。小中学生の頃は、北斗さんの所で、小さかった七海ちゃんや
メグちゃんと一緒に作ったこともあるから、また誘ってみようかな。
等々悩み、夕子さんやアキさんに相談してみた所、
「だったら、私と一緒に作りましょう。うちには子供が居ないから、『娘と一緒に料理やお菓子作り』に
憧れていたの」
と、アンヌさんが誘ってくれました。
そんな訳で、擬似母娘でのチョコ作りは、レナさんがイメージしていた感じのとても楽しいものでしたが、
その様を眺めていたダンさんがー愛妻家で娘を溺愛しているー北斗さんにすら「若干引いたんですが」と
言われる程に、デレッデレだった。なんて目撃談もあったとか無かったとか。
ついでに、パン屋を営んでいる北斗家は、毎年家族3人でバレンタインフェア用の商品を考えるのが
慣例になっている。とか、実は和菓子好きの郷さんの為に、アキさんやメグちゃんが、チョコ大福や
ココアのおはぎなどを買ってきて、当りの年もあれば外れの年もある。なんて話を聞いたレナさんは、
「やっぱり、変わってるのはうちの母さんの方よね」
と思ったという。
04雑なラッピング
バレンタインデー前日のセブン宅。
去年は直前に思い切り怒らせた所為で、罰ゲームとしか思えないチョコだったが、今年は何もやらかして
無いから大丈夫!
と、自分からのチョコを楽しみにしているらしい義弟兼親友に、マンが
「あのさぁ、私は君の義兄だって解ってる?」
と聞いてみたところ、何を言っているんだ。とでも言いたげな顔で
「当たり前だろ。何か、年上扱いされていないのが不満なのか?」
と返ってきた。
「いや、別にそれはいい。というか、年上で目上として扱うべきなのは、君の場合、ゾフィー兄さんに対してだから」
頭良いのに時々馬鹿なんだよなぁ、昔から。と呆れつつ、これ以上は言っても無駄だと早々に諦め、今年は
レイも一緒に作る。って張り切っていたから、何を作りたいか相談しないとね。と、頭を切り替え、お菓子の
本を広げながらレイに尋ねると、
「抹茶。でも、ゴモラ色も」
という呟きが返ってきた。
「それじゃ、抹茶のと普通のチョコのと作れそうな奴にしようか。そうすると……」
最近抹茶がお気に入りだけど、それ以上にゴモラ大好きで、茶色をゴモラ色を表現するレイを愛でながら、
本をめくってマンが選んだのは、バリエーションが多く、大量に作りやすく、ついでにレイが「怪獣の
たまごみたい」と食いついた、トリュフだった。
「レイは、誰にあげるのかな?」
「ゼロと、ゴモラと、リトラと、エレキングと、セブンと、マンと、ケイトと、ナインと、レジェンドと、
母と、ナイスと……」
「えーと、いっぱいだから、セブンやゼロとか母上の分は、私と合同にしようか。あと、動物にチョコは
毒だって聞いたことあるから、怪獣もそうなのか、後でコスモスに聞いてみよう」
「うん」
なんて会話をしつつ、チョコ作りに精を出す2人を、それはもう幸せそうに録画しているセブンを目撃したゼロは、
「どっちを主に撮ってんだ?」
と、なんだかしょっぱい気分になったが、突っ込んでも仕方ないのでスルーすることにした。
そんなこんなで出来上がった大量のチョコを、数を数えながらラッピングし、リストアップした表を確認しながら
誰にどちらが渡すのか相談するところまで撮り終えたセブンは、あとは当日である明日もらえるのを楽しみに
待つつもりでいた。
しかし、洗い物も後片付けもすべて終え、夕食の支度に取り掛かっているマンに
「冷蔵庫に入れてある小皿に、ラップして載せてあるのが、君の分だから」
と、サラッと告げられ耳を疑った。
「え」
「ゼロの分は、レイがUFZの他の子達へと一緒に渡すらしいからラッピングしたけど、君の分は私からにしたから、
別にいいだろ」
「何で、俺の分だけ」
「だって、どうせ家で渡すんだから、包んだところですぐ開けるし、無駄だろう?」
「そうかも、しれないが……」
「兄から弟への家族チョコなんだから、情緒だの何だの寒いこと言わないでね」
「……」
手作りチョコを心待ちにしている時点で、かなりのドン引きレベルなんだからね。とまで言われてしまったら、そ
れ以上何も言い返せなかったセブンが、そのことを他の兄弟などにグチったところ、ユリアンにすら
「悪いけど、そこまで行くと私ですら引くわね」
と言われてしまったのだった。
05百均でいいや
地球時間で2月に入った頃から、時に遠回しに、時に直接、時にほのめかすように、とにかく毎日毎日、
1日数回21からバレンタインデーのチョコをねだられ続けうんざりしたネオスは、
「……解った。あげるから」
ついうっかりそう答えてしまった。
しかしまぁ、あげない方がうるさくて面倒だし、鬱陶しいけど嫌っている訳じゃないしね。と、自分に言い訳し、
「手作り?」
との期待の声には
「調子に乗るな」
と返し、特設コーナーに立ち入る勇気は無いけど、チロルチョコの5連パックとか、板チョコってのも流石になぁ……。
と、それなりに悩んだ結果。
お徳用の大袋のアソートパックをいくつか購入し、他のひと達に配った後、
「余りは全部あげる」
という雑な渡し方をしたが、それでも喜んでもらえた上、ガイアやユリアンなどに
「丸々一袋以上残ってるのって、余りっていうの?(ニヤニヤ)」
「ツンデレですものね、言い訳が必要なのよ(笑)」
等々いじられまくったのだった。
06逆チョコで告白
おじさんという生き物は、往々にして、若者の文化や流行りに共感しようとしても、何か古かったりズレて
いるもので、宇宙警備隊の隊長にしてウルトラ兄弟の長兄なゾフィー(地球人換算でアラフォー)も、御多分に
洩れず、
「最近、『逆チョコ』っていうのが流行っているんだって?」
と弟達に聞き、
「最近、ではないですが、まぁ定着はしてきていますね」
との返答を得たが、弟達もー1人だけ格段に若い末弟を除きー地球人換算で中高生な息子ゼロの居る三男セブンを
筆頭に、割と全員良い年の部類に入る。
しかしまぁ、そんなことは気にせず、
「今年は、カネゴンに頼んで取り寄せた、コーヒーに合う最高級のチョコを、私からサコミズに贈ることにしたんだv」
と浮かれる長兄に、
「カネゴンて、もしかしてア・キンド? それ、ちゃんと最高級品なんですかね」
「その点は大丈夫でしょう。お金や権力を持った太客を確保するためには、信用と実績が重要ですから」
「確かになぁ。信頼得て贔屓にしてもらった方が得だよな」
だの、
「サコミズに、意図が伝わると思うか?」
「無理だろうね。周りに若い女性の部下が居るとはいえ、おじさんを通り越したおじいさんで、しかもハヤタ並か
それ以上に、そういうことには疎そうだもの」
だのと、弟達はヒソヒソ囁きあっていたが、指摘したところで特に何も無いので、「渡しに行きたかったら、
キッチリ仕事を片付けて下さい」とだけ釘を刺して、放っておくことにした。
そして2/14当日。マンに
「普段からこのスピードと精度で書類片付けてくれればいいのに」
と嘆かれるクオリティで速やかに仕事を片付け、大手を振って地球に向かったゾフィーは、
「サコミズに全く意図が伝わらなくて、凹んで帰って来る。に、食券一週間分かな」
「甘いな、タロウ。俺は、空元気で帰って来て、一人になったら落ち込む。に、缶コーヒー」
「では私は、目的は果たせなかったけれど、サコミズが喜んでくれたので良しとする。に、1食奢りを賭けましょうか」
「なら俺は、大穴でうまく行く。に食券5枚賭けてみっかな」
「うーん。その他だと……よくわかっていないサコミズから、隊の女の子達に乗せられて買ったチョコをもらえて、
浮かれて帰って来る。に、明日の夕飯に好きな物を作る。なんてのはどうかな」
等々、弟達の賭けの対象にされていた。
そして、賭けの結果はと言うと、実にご機嫌な様子で帰って来たが、流石にエースの(9割方あり得ないと
思っている)予想通りに上手く行ったとは思えないので、伝わらなかったけど喜んでもらえただけで幸せ。
という、マンかジャックの読みが当たったかな。と、全員が思ったが、単刀直入に真相を尋ねてみると、
「ちゃんとバレンタインデーを知ってたし、サコミズからもチョコもらえたよ。しかも、『みなさんでどうぞ』とも
言われたけど、ちゃんと、サコミズが、私のために用意してくれたチョコもあったんだからね」
と、ドヤ顔で自慢された。
だがしかし、メビウス経由で真偽の程を確かめてみた所
「いっぱいもらったけど、一人じゃ食べきれないからお裾分けで、『日頃お世話になっている方や、親しい相手に、
チョコレートを贈る日だそうだね』って言ってました!」
という訳で、完全にお歳暮感覚だったようだった(笑)
07甘いものが苦手な彼
脳には糖分が必要だが、甘いものは好まず、イベントごとには興味の無いおっさん科学者も、目をキラキラ輝かせた、
年下すぎる恋人から、綺麗にラッピングされた箱を差し出されたらー顔にはほとんど出さないがー、嬉しく思う。
しかし、相手はドが付く天然で、周りには愉快犯や要らんこと言いな知人友人が結構な数居るので、本人には悪気は
欠片も無いが、誰かに入れ知恵された妙な代物の可能性も否めない。
実際、某大地の化身にそそのかされてハート型のカレールーを贈ってきた年もあったし、コーヒー狂の義兄などの
冗談を鵜呑みにしたことも多々ある。
ということで、ひとまず「これは何だ」と尋ねると、彼ーメビウスーは、ニコニコ笑って「ティガさん達に教わって
作ったチョコだよ」と答えた。その答えに、ひとまずヒカリは安心した。
食品を生物兵器に変える壊滅的な料理の腕とアレンジセンスを持つ部下兼友人を抑えるために、バレンタインデーや
ハロウィンなどにはお菓子作りの監修をしているティガと一緒に作ったのなら、食物テロをやらかす愉快犯―ガイア―
が余計なことをしようとしていても、見咎められ阻止されている筈だし、ティガは半身であるダイゴの影響で無駄に
舌肥えているので、味の保証もついていると言える。
ただ、基本的にガイアの監視のついでにお歳暮チョコを作っているので、一度にまとめて作れるもの率が高く、
メビウスは義兄達や友人達の分もちゃんと用意する子なので、その他大勢分も一緒に作った中で、一番上手く
できたもの。なんてものな可能性もあり得るが、それはそれで、まぁ仕方ないか。
などと考えながら、感想をワクワクしながら待っているメビウスのために、包みを解いてみると、直径10cm程と
小さめではあるが、結構ドッシリとした感じのシンプルなケーキが一個丸々入っていた。
「ヒカリ、甘いものあんまり好きじゃないでしょ? だから、同じように甘いもの好きじゃないアグルさん用に
ガイアさんが作るのと、おんなじケーキの作り方を教えてもらったんだ」
剣士で目付きが悪くて愛想無しな青い科学者達は、味覚も割と近いようで、たとえコレが失敗していてクソ
不味かったり、成功ではあるが甘過ぎたりしても、文句言わずに黙って食うところも同じなんだろうな。
などと考えながら、給湯室から取ってきたナイフで切り分けたケーキと、淹れっぱなしでだわいぶ
煮詰まっているコーヒーをメビウスにも手渡し、一口食べてみた所。本当にかなり甘さ控えめで、
濃厚ではあるがいっそスポンジケーキなどよりも食べやすかった。
「美味しい?」
「まぁ、別に悪くは無いな」
「そっか。良かったぁ。ガトーショコラっていうらしいんだけど、実はすっごく簡単だったんだよ」
悪友共が見ていたら「素直じゃないんだから」と言われそうな態度でも、メビウスは気に入ってもらえただけで
満足なようで、より一層楽しげに笑っていた。そんな様が、可愛くて仕方なかったが、一応勤務中で職場だし。
ということで、ポンポンと頭を撫でてやる程度にしておいたが、
「ホント、ラブラブですねぇ、所長と猫くん」
「そうね」
「多分、俺らの存在なんて完璧空気レベルですよね」
等々、実は一部始終を眺めていた科技局職員達から、生暖か〜い目を向けられており、後から話を聞いたゾフィーや
メロスに散々からかわれたが、それも結局はただの照れ隠しでしょ。扱いだったという。
08誰に贈るの?
※幼児化サーガシリーズ設定
地球では2/14に当たる日。ダイナが任務を終え自室に帰ると、机の上に、綺麗にラッピングされた小さな箱が、
無造作に置かれていた。
見た目と今日の日付からして、おそらく同室のティガがもらったチョコだと思うが、綺麗にラッピングされた
その箱は、既製品には見えず、かといってマンやガイアが作ったお歳暮チョコにしては、気合いが入っている
ように、ダイナの目には見えた。しかし、他者から恋愛感情を向けられることを嫌悪しているティガは、義理や
お歳暮チョコに擬態した本命ですら拒否るのだから、こんなあからさまな本命チョコは、絶対に受け取る筈が無い。
そして、今日は外回りだったダイナに直接渡せなかった本命チョコを、別行動で内勤だったティガが預かってきたと
いう可能性も考えにくい。
とすると、コレは誰から誰へのどういうチョコで、何でここにあるんだ?
と、ダイナが首を傾げていると、サーガを連れたティガが、部屋に戻ってきた。
「ああ、帰ってたんだ。お帰り」
「おう。ただいまティガ」
帰って来た方が「お帰り」って言うのは少し妙な気もするけど、先に戻って来てまたちょっと出てたのかな。
と気にしないことにして、「コレってさ……」と包みを指差すと、
「ああ、食べて良いよ」
との返事が返ってきた。
許可が出たのでとりあえず手に取り包みを開けてみると、中身は予想通りチョコレート菓子―ダイナには
名称までわからなかったが、プラリネの類―で、既製品と見まごうばかりの出来だが、わずかに歪で
包装紙にも箱にもラベルも何も無いということは、やはり手作りと思われた。
既製品ならば、一応光の国の王女であるユリアンや、ウルトラの母などからの―通常は本命クラスの値段の―
ブランドものな可能性はあるし、手作りでもマンやエースからのお歳暮チョコなら受け取っている。けれど、
マン達の作るものは、基本的には一度にまとめて大量に作れるもので、こんな手間がかかっていそうで上品な
ものな可能性は低いし、ラッピングも精々箱や袋の口をリボンやシールでとめている程度だが、今開けた包みは、
簡素とはいえ綺麗に包装紙で包まれていた。
「……誰から、もらったんだ?」
「成り行きで僕が作ったものだから、変なものは入っていないし、一応味も保証するから安心して良いよ」
恐る恐る尋ねたダイナに、クスリと微笑ったティガは、以前アグル宛の―何が仕込まれているか定かでない―
本命チョコをガイアから横流しされたり、料理の腕が壊滅的な上に要らんアレンジばかり加えるガイアが作る
ものも、見た目だけはマシなことがあるので、その辺りで躊躇したのかと解釈したようだった。
「成り行き?」
「今日の僕の任務はね、育児休暇中の女性隊員という態で、大使夫人を護衛しつつチョコレートの作り方を
教えることだったんだよ」
現在、とある星の大使夫妻が光の国を来訪しており、ダイナの今日の任務もその大使の護衛だったし、
夫人の方にも女性隊員が護衛についているとは聞いていた。が―実は女性形とれるとはいえ―、なんで
ふつーの女性隊員じゃなくて、一応男性隊員のティガに? とダイナが首を傾げると、
「警備隊の広報誌の、バレンタイン特集に夫人が興味を持たれてね。ご自分も作りたいと言い出されたから、
初めはマンさんかエースさん辺りが教える。って話になったんだけど、夫である大使の方が、『妻に男性が
近付くのが嫌だ』と言い出され、教えられるレベルで地球のお菓子を作れる女性隊員が、他に居なかったから、
僕が駆り出されたんだよ」
何しろ、ボディーチェックまで入れられたので、本物の女性じゃないと無理で、銀隊長殿には畏れ多くて
頼めないし、ユリアンも姫様だし、ベスやアミアも教えるのは自信がないそうで、ガイアは論外だから……
ということで、ティガにお鉢が回ってきたのだという。
「初めは、夫人に教えながらそれとは別の配る分を一緒に作ろうと思っていたんだけど、表向き既婚設定で
サーガも連れていたから、質問攻めにあいながら同じものを作らなきゃならない空気でね」
だから、ラッピングまでキチンとしてあるんだ。と説明されたダイナは、つまりはすごい手間はかかってるけど、
いつもの―端っこだの割れたのだのと同じ―余り物処理チョコな訳だと解釈し、何だか少し残念な気がしたが、
そーだよな。ティガがわざわざ、俺の為にチョコ用意してくれる理由が無いもんな。と、自分を納得させた。
しかし、夕食のためにサーガも連れた3人で食堂へ向かい、それぞれのメニューの列に並んでいると、いつの間にか
ガイアが背後に近寄ってきて、
「ティガからチョコもらった??」
と、ニヤニヤ笑いを浮かべながら訊いてきた。
「もらった、けど、成り行きで作ったやつの横流しだろ」
「んー、まあ、そういう解釈でもあながち間違いではないけど、中身とか甘さとかを、ちゃんとダイナの好みに
合わせてたよ」
だから、大使夫人が作ったのと、まるきり同じじゃないんだよ。と訳知り顏で話すガイアは、手伝い兼撮影係として、
一緒に護衛をしていたらしかった。
「てことで、写真と動画。いくらで買う?」
フリフリの新妻エプロンは却下されたけど、エプロン姿にポニテで奥さんでお母さんしてるレア映像だよ。
そう言いながらガイアがチラリと見せた数枚の写真はー普段通りの作り笑いではあるがー、にこやかに微笑みながら
お菓子作りをしている。という、普段ならまず絶対に見られない状況のもので、正直かなり心惹かれたが、ティガ
本人にバレたら後が怖いので、泣く泣く遠慮した。が、
「大丈夫だって。今回は大使の希望で撮ってたから、隠し撮りじゃなくてティガも知ってるよ」
まぁ、写真の一部は隠し撮りもあるけどね。との一言が余計だったが、でもやっぱりやめておく。とダイナが断る前に、
「僕からのバレンタインのチョコ代わり。ってことで、特別にお金とらないであげるね☆」
と押し付けられてしまった。
そんな訳で、図らずも手に入れてしまったチョコ作りの風景の写真と動画は、写真は普段ならしない格好や
シチュエーション。というだけだったが、ティガには隠れてコッソリ見た動画の方は、女性だけのお菓子
作りの風景も微笑ましいかったが、作っている最中に
「旦那様はどんな方なの?」
「知り合ったきっかけは?」
等々尋ねる大使夫人に、
「永遠のガキ大将。といった感じの、単純で陽気なバカですね」
「後輩で、部下なんです」
と、割とちゃんと答えていたり、作っている最中に手を伸ばしてきたサーガのお手手をペチンと軽く叩き
「サーガには後で別なのあげるから、コレは食べちゃダメ」
と注意したり、
ちょっとだけデコレーションをさせてやったりしている様が完全にお母さんだったり、撮影しながら
「旦那さんの方がベタ惚れで、拝み倒して折れてもらったんですよー。ね?」
などとガールズトークに混ざって来たガイアの言葉を特に否定しなかったり、味見という名のつまみ食いをして
「僕は、もうちょっと甘い方が好きだなぁ。でなきゃうんとビターなの」
とか勝手な感想を述べるガイアに
「苦いのは得意じゃないみたいだけど、甘過ぎるのもそんなに好きじゃないみたいだから、この位の甘さ控えめで
ちょうど良いんだよ」
とサラリと答えていたりと、なんかもう、この映像だけで満足かもしれない程だった。
その上、チョコは本当に好みの甘さだったし、翌日も大使の護衛で休憩時間中の雑談で、夫人目線では
「そっけないけれど、ちゃんと旦那様のことを想っている、お綺麗な方でしたのよ」
といった感じに見えたらしい。と聞いたダイナは、顔が緩みそうになったのを抑えようとして、逆にビミョーな
顔になり、一緒に護衛をしていたアグルに「気色が悪い」と言われた。との報告を受けたティガは、「任務中は
任務に集中しろ」とは注意したが、それ以外は特に何も言わず嫌な顔もしなかったのが、ダイナ的には一番
嬉しかったりしなくもないという。
09友チョコばんざい!
数日前から、どことなくそわそわとした様子で、主に女子に良い所をみせようとしていた、最強最速のおバカな
部下が、どうも目的を達成できたようなのに、何故か妙に浮かない顔をしているのが気になったゼノンが、
「大漁じゃないですか。何が不満なんです?」
と声を掛けると、捨てられた犬のような顔で、机の上に積まれた箱や包みを眺めていた最強最速のおバカこと
マックスは、
「だってゼノさん。コレ、100パー義理で、しかもほとんど野郎からだし」
コレがマンさんからで、こっちのがティガとガイアで、これがメビウーだったっけかな。で、これはゼロがレイから
預かってきたやつで、タイニーのがコレでシルビィからがコレ。
そんな風に指差し説明するマックスに、確かに8割方男性からで、そのほとんどが手作りではあるが、
「……タイニーバルタンと、チャイルドバルタンのシルビィは、女の子ですよね」
と突っ込んでみると、
「そうなんだけど、タイニーはダークにやる分の余りっぽいし、『バルタンお兄ちゃんと一緒に作ったんだよ』
っつってて、バルタンの方が早くて綺麗で、綺麗に出来たのラッピングしたらしいんで、多分バルタン製だし、
シルビィのも『パパの知り合いの、ダダお姉さんと作ったの』って……」
「そうすると、男性率が100%の可能性もあるわけですか。それは、確かに素直に喜び難いかもしれませんが、
ティガやガイアは一見綺麗なお嬢さんに見えなくもありませんし、実は女性でもあるとの噂もありましたが?」
「それでも、義理は義理っすよ」
何を言っても噛み付くように反論してくるマックスに、普段ならもっとあっけらかんとしているのに珍しいですね。
と違和感を感じたゼノンが―遠回しに訊いても多分伝わらないので―、単刀直入に
「例年なら、もらえるだけ御の字と言っているのに、今年に限って何がそんなに気に入らなくて不機嫌なんですか」
と再度問い掛けると、マックスは
「俺も、美人嫁とか可愛い妹欲しいし!」
と叫んだ。
「…………そうですか」
要するに、ご同類だと認識している馬鹿騒ぎ仲間の内、エースやナイスは端から彼女or妻子持ちだけど、ダイナや
ゼロは自分と同じように女子に縁遠いと思っていたのに、ゼロは義弟のレイとラブラブだし、ダイナも愉快犯な
カミサマのお戯れの結果、何段階かすっ飛ばして妻子持ちに等しい状態になったのに、自分だけ相変わらずの
独り身なのが寂しいんですね。
そう解釈したゼノンは
「終業後に、グレンファイヤー辺りと飲みにでも行けばどうですか」
と―半ば投げやりに―、同じくもてなそうな熱血系の名前を挙げて提案してから、いい加減仕事しろ。と後頭部を
軽く叩くと、マックスはまだちょっとぶーたれた顔のまま、手の平をゼノンに向けて差し出して来た。
「何ですか、この手は」
「ゼノさんはチョコくんないんすか?」
「……私は、男であなたの上司だと解っていますか?」
野郎からのチョコしかないとボヤいていたのに、何故自分からのを要求するんだ。と言いたげな白い目を向けた
ゼノンに、マックスはキョトンとした顔で
「知ってっけど、折角だし」
「……そうですか」
何がどう折角なのかは知らないが、これ以上訊いたところで、自分に理解出来る答えが返ってくるとは到底
思えなかったゼノンが、諦めてー四次元ポケット並に何でも出て来るー猫耳帽から取り出したのは、
「麦チョコすか」
「何か文句がありますか? 」
「いや、別に無いっすけど」
ゼノさんらしいっちゃゼノさんらしいか。とはどういう意味か気にはなったが、
「これで気は済みましたね。では、速やかに仕事にかかりなさい。どれだけ書類を溜め込んだと思っているんですか」
と、業務に戻る方を優先することにしたのだった。
10WDは倍返しでね
いつの頃からか定着してきた「ホワイトデーのお返しは3倍返し」の今年版アレンジなのか、
「ホワイトデーは倍返しで! 100倍返しでも良いけど(笑)」
とのセリフと共に、ガイアから手作りのー劇物率のものすごく高いーチョコを渡されたアグルは、今年は何を
倍にするか考えていた。
ティガから材料費を聞いて3倍の額のものを返したこともあれば、もらったチョコの3倍の質量のお菓子を用意
したこともあるし、まるきり同じものを3つ返した時は、流石に文句を言われたが、さて今年はどうするか。
というわけで、一ヶ月かけてじっくり考えた結果。
「……これ、何がどう、バレンタインデーのチョコの倍なの? 今年は原価訊かれて無いってティガは言ってたし、
重さも倍はない感じがするし、数も倍じゃないっぽいけど」
毎年恒例だし、最早億レベルの腐れ縁なので、今更ムードもへったくれも無く「お返しちょーだい」「ほらよ」の
ノリでガイアがアグルから受け取った箱の中身は、そこそこ数もあって値段も材料費の倍とそんなに乖離しては
いなそうな、キャラメル系のお菓子だった。
「カロリー」
「は?」
「おおよそのカロリーを計算して、限りなく倍に近いものを選んだ」
しれっと答えたアグルに、数が3倍だった年の比でないほどにブチ切れたガイアが
「さいってい! この乙女の敵!」
と叫ぶと、アグルは
「お前はあらゆる意味で『乙女』では
ないだろう」
などと返しガイアの怒りに火に油を注いだが、一向に反省する様子は無かった。
そんな不遜な態度に更にキレ、ティガ達の所に駆け込んでグチる。までが、お定まりの展開と化しているが、
今年はティガでは無くダイナに
「今日は帰れ」
と締め出されたのが珍しいっていうか、理由気になるよね。
などと、ゲスい笑顔を浮かべながら早々に戻って来たガイアに、アグルは
(後でティガから説教を食らうのは、俺の方なんだろうな)
と、今更ながら自分の所業をちょっと反省しなくも無かったが、学者としてはあらゆるパターンを実験して
みたいものだ。と謎の脳内言い訳をして開き直り、翌年以降も方向性を改めることは無かったのだった。
配布元
エソラゴト http://eee.jakou.com/
2014.2.16
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