警備隊兄弟主催のクリスマスパーティーを断った、ユリアンと80のクリスマスイブの過ごし方は、デートと
	いうか、実質はユリアンのお買いものに80が付き合わされているような形でした。
	しかし、洋服を試着したりアクセサリーを選んでは、80に意見を求め

	「それよりは、2つ前の方が似合っていたと思うよ」
	「そう? わたしは、こっちの方が好きだわ」

	「ねぇ、80はどの色が良いと思う?」
	「うーん。赤かな」
	「えー。ピンクの方が可愛くない?」

	などと、時にはその意見に文句を言いつつも、結局買ったのは80が選んだ物。というやりとりは、傍から
	見ていたら
	「勝手にやってろバカップル」
	な感じだったので、やっぱり歴としたデートかもしれず、更に某オタクに詳しい元末弟―本人もオタク疑惑
	アリ―曰く

	「アノ、根っからの腐女子のユリアンに、一般的なイベントの方選ばせるって、実は結構すごいよね」

	とのことですが、実はそっちは、きっちりべスやアミアに委託済みとの噂も……
	そして、買い物の後はイルミネーションを見に行き、夕食は予約を入れていたレストランで。という、ベタな
	デートコースだったのですが、食事中に店内で見知った顔を見つけるなり、ユリアンの目が妖しく輝きました。


							★

	

	「こないだ出掛けた時、お店で目が合って、気にしてたでしょ〜?」
	「……。気付いていたのか」

	ユリアンが見つけたのは、警備隊のクリスマスパーティーの後、2人で食事をしに来ていたコスモスと
	ジャスティスで、ちょうどコスモスがジャスティスにプレゼントを渡した所で、そこそこ大きな包みを
	開けると出てきたのは、実物大より1回りくらい小さな、犬のぬいぐるみでした。

	「うん。でねぇ、この子店頭に飾られてた子だから、ちょっと汚れちゃってるけどぉ、ぬいぐるみって、おんなじ
	 ようでも1個1個違うから、目が合ったこの子が良いかなぁ。って思って、換えてもらわなかったんだぁ」
	「そ、そうか」

	普段通りニコニコ笑いながら話すコスモスに、ジャスティスの頬は結構赤くなっていたのですが、幸いにも
	店内の照明があまり明るくなく、ついでに席も離れていた為、そこまではユリアンに見えていませんでした。
	しかし、ほんの一瞬だけジャスティスが、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてみたのは見えたので、思い切り
	はしゃぎそうになり、流石にその辺りで80に

	「……コースは全部食べ終わったし、帰ろうか」

	とたしなめられてしまったため、残念ながらそれ以上は見ることができませんでしたが、それでもユリアン的に
	かなりの収穫だったようで、ご機嫌でした。そして80は伊達に元々幼馴染で付き合いが長いだけあって、
	「まぁ、楽しそうなのは悪いことではないし、確かにアレは私の目から見ても、微笑ましかったかな」
	と思う位には達観していなくも無いので、嬉々として先程の光景について語るユリアンの話を、笑顔で聞いて
	あげながら帰途についていました。そんな2人のその後は、まぁご想像にお任せするとして、性別不詳夫婦の
	方をもうちょっと見てみることにします。


	平静を装いながらも、ユリアンに目撃されたように、ぬいぐるみをこっそり抱きしめてみたり、触り心地を
	確かめるように撫でてみたりしているジャスティスに、コスモスは満足そうに

	「気に入ってくれてよかったぁ。ジャスティス、実はわんこ好きだもんねぇ。……昼間、タロウさんに当たった
	 本も、ジャスティスが選んだんでしょ〜?」

	お見通しだよ。とでも言いたげに笑って指摘しても、ジャスティスは答えませんでしたが、その態度こそ肯定の
	証だと捉えたようでした。

	「僕ねぇ、ジャスティスのそういう所、ギャップも含めて、可愛くて好きだよぉ」
	「別に、私は可愛くなんか……」
	「そんなことないよぉ。でも、他の人は知らなくても良いし、コレ以上可愛い所を見せるのはもったいないから、
	 そろそろ帰ろうかぁ」

	照れと謙遜と、本気で「自分には可愛げなど無い」と思っていることから、ジャスティスはコスモスの言葉を
	否定しましたが、コスモスの方が一枚上手で、ニコッと笑ってもう一度「ジャスティスは可愛いよ」と念を
	押すと、ぬいぐるみを一旦包み直してジャスティスに渡し、それを抱える反対の手を取って帰途に就きました。
	


							★


	一方その頃。別の店では、

	「門限は7時です」
	「いや、ちょっと待て。流石にそれじゃ早すぎるだろ」
	「そうですかぁ。食事行くだけなら、充分だと思いますけど」
	「まぁまぁ、タロウ。もうちょっと認めてあげようよ」
	「じゃあ、8時」
	「それでも早くないか? 6時に予約入れているんだろ」
	「そうだね。往復の時間も考えると、ゆっくり食事をして、ちょっとイルミネーションを見たり買い物出来る
	 位の猶予を含めて、9時〜9時半位が妥当じゃないかな」
	「……解りました。それじゃ、9時を1分でも越えたら通報しますので、時間厳守で」

	との、ブラコンな六兄(+α)との攻防を経て、どうにかメビウスを連れ出すことの叶ったヒカリが、
	そんなやりとりがあったことをまったく知らないメビウスと、食事をしていました。

	ちなみにヒカリは、一応かなり優秀なアラフォーの科学者なので、それなりの稼ぎと蓄えと過去の経験やら
	情報やら何やらあるため、かなり高くて良いお店ですが、メビウスはそんなことに気付くようなスキルは
	一切持ち合わせていないので、純粋に
	「コレ、何てお料理だろう」
	とか
	「盛り方も綺麗でおいしいなぁ」
	程度の事しか考えておらず、マナーも全然なっていませんが、それを見事にスルーして、しかし訊かれれば
	懇切丁寧に教えてくれるような、レベルの高い店員の居る、本当にすごく良いお店です(笑)

	そんなお店での食事の後、未成年なので飲みに連れて行くわけにもいかず、門限もあるし、何かしてそれが
	兄達にバレても後々面倒なので、調べておいた近場では一番豪華なイルミネーションを見に行き、そこで
	ひとまずプレゼントを渡してみました。

	「ありがとう、ヒカリ。開けてみても良い?」
	「ああ」

	メビウスが袋を開いて取り出したのは、カレー風の入浴剤やらカレーの臭いの練り消しやらカレースプーンやら、
	とにかくカレー関連のものばかりでしたが、メビウスは目を輝かせて大喜びしました。その為ヒカリは、本当は
	そっちはフェイクで、色々悩みに悩んで買った本命のプレゼントがあったのに、渡すタイミングを見事に失って
	しまいました。

	ヒカリが用意していたのは、一見そんなに高価そうに見えないけれども、歴としたブランド物のシンプルな
	時計で、ファッションリング程度でも、指環は本人の反応はともかく周りが煩そうなので、「まだ早い」と
	判断し、女子では無いのでネックレスやイヤリングは違うけれども、女顔なのでいかにも男物なのもあまり
	似合わない上に自分が絶対に柄じゃないので、やっぱりアクセサリーは無い。……等々、考えに考えた結果。
	男子高校生が付けていても違和感の無さそうな、男女兼用のデザインのシンプルな時計を贈り、自分用に同じ
	デザインの男物の時計も買って「よーく見るとペア」位にしておくのが無難だと判断した。とのことでした。

	そんな、渡せなかった顛末やプレゼントの詳細を、メビウスを門限までに送り届けたついでに呼び出されて飲みに
	連れて行かれ聞いた―というより聞かされた―ゾフィーの感想は、色んな意味をひっくるめ
	「……。私の親友は、いつからそんなヘタレになったのかな?」
	でした。

	「お前に『ヘタレ』と言われるとは、終わったな、俺も」
	「酷っ。折角、グチを聞いて相談にも乗ってあげてる、親友兼未来のお兄様に向かって、その言い草はなくない?」

	ウンザリするほど長い付き合いなので気心知れていて、ついでにお互いにお酒が入っているため、言いたい
	放題なオッサン共ですが、表現はともかく、この件に関しては、多分ゾフィーの言い分の方が正しいです。
	しかしヒカリ的には認めたくなかったようなので、

	「いつからお前は俺の親友になった」
	「えー。ずっとそうでしょ」
	「お前なんか、『腐れ縁の悪友』で充分だ。ついでに、メビウスの義理の兄なのは認めるが、実質は限りなく
	 叔父レベルだろうが」
	「それを言うなら、ヒカリちゃんだって親子並に年違うから、タロウに反対されてるくせに」

	等々、今更言ってもしょうも無い言い合いをした後。巡り巡って

	「……その時計、今からメビウスの所にサンタしに行って、置いて来たら?」
	「そうだな。後から俺からだと言えば良いか」

	そんな結論に達した時には、完全に2人共酔っ払いだったようです。


夜中の部へ続く


すいません。思いの外長めになったんで、恋人達以外は分けました。 (やっぱり照れが勝ったのと、イメージ等の関係で、何かあんまりラブくなんなくてごめんなさい、お姉ちゃん) といっても、残りはオマケみたいなもんですが 2010.12.18