街中は、クリスマスムード一色な12/24の夜。とある小さなバーで、1人の男が酒を飲んでいた。
店主はまだ若そうだが、どこか冷めた目をした女で、
「アタシが言うのもなんだけど、こんな日に、こんな所で飲んでいて良いのかしら?」
「今年は、小せぇのも居るから何かやりてぇとか言っていたが、俺様は興味が無い」
「そう。アタシも、浮ついた馬鹿騒ぎや甘ったるい空気は嫌い」
自分から男―ベリアル―に話し掛けておきながら、どうでも良さそうに相槌を打った。
そんな店主の態度に、少し酔いが回っていたことも手伝い、ベリアルが
「……昔、一度だけこの俺様が誘ってやったのに、『では、今年のクリスマスは3人ね。楽しみだわ』と返して
きた、とぼけた女が居てな」
と零すと、聞き流されると思いきや
「ふぅん。もう1人がどれほどの男か知らないけど、アナタと両天秤に掛けるだなんて、随分と罪な女も
居たものね」
そんな、お世辞のようで本音にも聞こえる答えが返ってきた。
「いや。アイツの場合、悪気は欠片もなく、ただ純粋に俺様の事もヤツのことも、『大切な友人』としか思って
いなかったのだ。……アノ当時はな」
「あら、そう。そういう天然女って、アタシみたいなのからすると、かなりムカつくのよね」
ベリアルが、未だに少女のような可憐さを持ったマリーのことを思い浮かべながら、懐かしさと未だ愛おしく
想っている中に少し悔しさを交えて呟くと、店主は吐き捨てるようにそう返してから、
「アタシの昔の男も、かなり若かったけどクールな良い男だったのに、結局アタシを捨てて行って、
それだけならまだしも、今はかなりの腑抜けになっているのが気に食わないのよね」
と呟いた。
「本当に、醒めた目の似合う、良い男だったのよ。……まさか、アノ当時まだ高校生だとは、思いもよらない位
にね。それが、この間たまたま見掛けた時には、見る影もなく丸くなって、小さな子供を連れていたわ」
「……俺様が惚れていた女も、ようやく出所してみたら、とっくの昔に、俺様の仇敵のヤツと結婚していて、
30近いガキどころか、中坊の孫……いや。あのガキの親は養子のだから、実際は違うか。けど、ともかく、
養子含めて5〜6人だかの息子と、孫も数人出来ていやがった」
お互い好き勝手にグチを零しつつも、内容的に話が合いそうだと思ったのか、店主は2人居る店員達に
「どーせ他の客なんか来ないだろうけど、閉店の札出して来て。……今日は、貸し切りでおごりよ。それから、
アタシも飲むから、何か適当にツマミになるもの作って」
と命じた。
「あいよ。閉めたら俺らはあがって良いのか?」
「帰りたければ帰ればいいけど、折角アンタらにもおごってやろうと思ったのにねぇ」
「……ワタシは、どうせ飲むものもツマミも作るのはワタシですから残りますので、ありがたくご相伴させて
いただきますがね」
「俺だって、タダ酒飲めんなら帰んねぇよ」
「その代わり、いつも通り片付けはアンタがするのよ」
「へぇへぇ。解りましたよ」
漫才染みたやり取りを交わす、粗暴な雰囲気で体格の良いボーイと、蛇のようなバーテンは、2人共店主の
女よりも少し年上のように見えたが、飲んでいる間に聞いた話によると、店主は元々裏社会の顔役の一人娘で、
男達はその舎弟のようなものだったのだという。
その後。貸し切り状態で飲んでいる間も、
「あんな腑抜けにはもう用なんか無いけど、アタシと付き合っていた頃は、殆ど笑ったことなんか無くて、
笑っても皮肉な笑い方ばかりで、それはそれで良かったけど、何度か見かけた時は、馬鹿みたいだけど
本当に楽しそうに笑っていたのが、心底ムカついたけど、羨ましかったわ」
「俺様も、アノ笑顔を自分の物にしたかったのは、事実だろうな」
だの
「クリスマスも他のイベントも嫌いだし、彼も興味が無いような態度をとっていたけど、1度くらいは
そういうことをしてみたかったわ。……だから、今ではその手の事も周りに付き合わされてちゃんと
やっているらしいのが、ムカつくのよ」
「俺様達は、どうやってアイツを自分の方に向けるか競っていたな。……2人きりのつもりで誘っても、
大抵もう片方に声を掛けて、3人になっていたからな」
「やっぱり、悪いけどアタシはその女嫌いだわ」
だのと、噛み合っているようでそうでも無い会話を延々と続け、この店はベリアル的に
「1人で飲みたい時に行く店」
として、こっそり秘密の行きつけになったとかならないとか。
趣味全開なオマケでした☆
名前は出してませんし、口調がコレで良いのか怪しいですが、
バーの3人はもちろんアノ愛憎絡んでいる方々です(笑)
あー楽しかった
2010.12.21
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