きっかけは、実家が貿易商で、南蛮人ともかかわりの深い1年は組の福富しんべヱが、

		「南蛮には、ナタレ(クリスマス)っていう、お祭りがあるんだってぇ」
	
		と、聞きかじりの情報を同じ組の友人や委員会の先輩達などに話したことで、日本初のクリスマスミサは、
		本当に室町後期(1552年)に行われたという記録が残っていて、その当時の呼称は「ナタレ」だったらしい。
		とはいえ、しんべヱ情報なので色々穴があったというか穴だらけだった為、興味を持った後輩や友人達に
		訊かれた図書委員長の中在家長次などが、図書室や私物の本などで調べてみた所。

		「つまりは、耶蘇教版の灌仏会だな!」

		というざっくりした解釈をしたのは、長次の友人の七松小平太で、この当時の日本のクリスマスはミサと
		食事位しかしていなかった筈で、世界的にもサンタクロースの原型な聖ニコラウスの祝日(12/6)は、まだ
		別物扱いだったのに、情報を見つけて来て

		「聖ニコラウスとかいう聖人が居て、その聖人にちなんで贈り物を交換する習慣もあるみたいですよ」

		と、勝手に時代を先取って結びつけた発言をしたのは、図書委員な友人不破雷蔵に付き合って本を色々
		眺めていたお祭り男鉢屋三郎で、彼の所属先の学級委員長委員会の顧問は、学園の長にして、傍迷惑な
		思い付きと行事が大好きな大川平次渦正学園長な訳で、案の定


		「終業式後に、ワシらもその『なたれ』とやらを開催じゃ!」

		ということになり、「ナタレ」の名を借りた「単なる贈り物交換アリの宴会」という、現代のクリスマス
		パーティーに限りなく近いものが開催されることになった。


		そんな訳で、学園総出のナタレもどきの贈り物交換会は、人数的にどう交換するかを学級委員長達で
		話し合った結果、「前日までに、学園の敷地内に隠して探す」ということになったので、どちらかと
		いうと宝探し大会っぽくなったり、上級生の隠した物を下級生が見つけるのは至難の業なので、交換
		相手に偏りが出そうになったり、見つけた代物の交換交渉をこっそりと行っている生徒なども居たが、
		まぁそれなりに成功し、贈り物交換後の宴会も盛りあがったので、皆楽しい時間を過ごすことが出来た。



		そして、そんな馬鹿騒ぎがお開きになった後。
		折角だから、仲間内でもささやかな宴会と贈り物交換をしたいね。と、ナタレ大会が決まった時に伊作が
		口にした案に同期の他の面々も賛同し、ついでに5年生達も加わっての二次会が6年長屋で開かれていた。



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		「え? 贈り物って、みんなの分じゃなくて、1個で良かったの? 僕、全員分用意しちゃった」
		「マジですか!? 俺、1つしか用意してないんスけど……」
		「……全員分、用意した」
		「俺と勘ちゃんは、どっちか解んなかったから、一応安上がりなの全員分と、高価いの1個用意しました」
		「えっと、僕も兵助達と同じように、全員分と1人用と用意してあって、三郎もそうだよね?」
		「いや。私は『雷蔵用』と『それ以外』だが」

		酒やつまみは持ちよりで、それらを少し飲み食いしてから、贈り物交換になった際。思い付きなので誰も
		細かいことを決めていなかった所為で、贈り物はてっきり1人1つ用意して、それを誰かと交換するのだと
		思っていた者と、全員分用意した者とに別れてしまったが、若干全員分用意した者の方が多めだった。
		しかも

		「俺は金掛けずに自作したから、手元にあるのは1個だけど、この場で作ることは出来るぞ」
		「私は、みんなで分けられるような食いもんにしてみたけど?」
		「俺も小平太と同じく食いもんだから、配分は少なくなるが分けられる」

		との声が残りの6年勢から上がった為、八左ヱ門がひとっ走り何か調達して来て、全員分用意することに
		なった。そして、どうにか揃った所で交換と相成ったのだが、


		「仙蔵も、久々知達みたいに、1個と全員分用意してたの?」

		仙蔵からもらった贈り物が、彼から他の者に渡ったものよりも、明らかに高価だと思った伊作が、そう
		訊ねると、仙蔵は当然のように答えた。

		「いいや。鉢屋と同じく、お前用とその他だ。……昼間の交換の時にも、場所を教えておいてやったのに、
		 後輩の手伝いをしている間に他の奴に見つけられていたから、予備を用意しておいて正解だった」
		「……そうなんだ。えっと、ありがとう。僕からは、いつもの軟膏でごめんね」
		「いや。一向に構わんさ。お前が私の為に作ってくれただけで充分だし、火傷用は私の分だけだろう?
		 それに、容れ物の細工も気に入った」
		「火傷向けは久々知のもだけど、その容れ物は、この間買い出しに行った時に、仙蔵に似合いそうだな。
		 って思って買ったんだ」		

		伊作から他の者への贈り物は、火傷用、切り傷用、打撲用などの、各自が一番よく使いそうな軟膏で、
		どれも掌に載る位の小さな容器に入れられており、一応見分けがつくようにはなっていたが、仙蔵の
		もらった物には、他のどれよりも綺麗な細工が施されていた。

		そんなやり取りは、他の6年生も5年生達も、まぁ何となく流していたが、その後も仙蔵は

		「お前は昼間の宴会中も、後輩を構ってやったり、食堂のおばちゃんの手伝いや、小松田さんの後始末
		 などをしていて、ろくに飲み食いしていないだろう。酌など5年共にでもやらせておいて、こっちで
		 一緒に飲め。お前の好きなつまみもあるぞ」

		などと、徹底的に伊作を構うというより甘やかしていた為、そんな仙蔵を見慣れていない5年生が、

		「あの。今立花先輩って、酔ってます?」
		「まるで雷蔵甘やかす三郎っぽくて、面白いといえば面白いんですけど……」

		と他の6年生達に訊いてみると、苦笑いが返ってきた。

		「あー、まぁ、確かに立花はああ見えて案外酒に弱いんで、それもあるが、アレが半分素だ」
		「仙ちゃんって、実はいさっくん大好きで、ベタ甘だもんねぇ」
		「……今は、タガが外れているが、普段も別に隠してはいないだろう」
		「ああ。そう言われてみると、そうかもしれませんねぇ」

		甘やかす仙蔵と、甘やかされながらも構ってやっているといった感じの伊作を、少し遠巻きに眺めながら
		他の者たちが、そんなじゃれている―というかいちゃついている―ように見える2人の事や、それ以外の
		とりとめの無いことを話しながら、和気あいあいと飲んでいる中。1人手酌で黙々と飲みながらつまみを
		つまんでいた文次郎に、ニヤニヤ笑いながら三郎が
		「……潮江先輩。今のご気分はいかがです?」
		と声を掛けると、あからさまに不機嫌そうな反応が返ってきた。

		「あ゛? どういう意味だ鉢屋」
		「いえ別に。事実も自覚も無いんでしたら、お気になさらず」
		「言いたいことがあるなら、ハッキリ言え!」

		訳知り顔で笑いをこらえる三郎に、本気でムカついた文次郎が声を荒げると、他の6年生達が口々に、

		「……どうした、文次郎」
		「いさっくん仙ちゃんに取られて拗ねてんの、指摘されてキレた?」
		「うっせぇ!」
		「図星か(笑)」

		などとからかい、更に文句を言われても気にせずに、

		「……で、実際そこの所はどうなんです?」
		「んー。なんていうか、妹を溺愛してる姉ちゃんが、妹に懸想してる男を敵視してる。って感じ?」
		「七松にしちゃウマイ表現だな」
		「てことは、立花先輩は別にそういう意味で善法寺先輩を好きな訳では……」
		「いや。そうとも言い切れないんじゃないかと、俺は思ってる」
		「……自覚があるのかは、解らないがな」
		「はぁ、そうなんすか」
		「ちなみに文次といさっくんは、付き合ってんだか付き合ってないんだか、よく解んない感じ」
		「そうなんですか……」

		などのやり取りを―聞こえる音量でひそひそと―していたが、その頃には仙蔵は完全に酔っていたようで、
		半分寝かけていて、それらは耳に入っていないようだった。


		その後。2人共あまり酒に強くない伊作と仙蔵は、気付くと肩を寄せ合って眠っていたので、せめて
		引っぺがしてそれぞれ横にさせようと、文次郎が手を掛けると、仙蔵が思い切り伊作の腕を取って
		いた為、諦めて2人一緒にその場に横たえさせて、掛布を掛けてやったのだった。



2010年クリスマス企画第3弾 秋都様リクエスト 「伊作にひたすら甘い仙蔵さん」希望で、特にカテゴリー指定が無かった為、無謀にも室町のまま 挑戦してみた所、何だか良く解らない感じに…… えっと、こんなんでよろしいでしょうか秋都さん? 参考 日本クリスマス博物館 2010.12.10