僕―三波かずみ(♀)―と、最愛の義姉藤ちゃん―藤菜ちゃん―と、ついでに(認めたくないけど)藤ちゃんの
彼氏の伊賀崎孫兵も、前世からの親友。
だけど、僕は前世の事をよくは覚えていないし、藤ちゃんは鮮明に覚えてるらしいけど、「前世は前世。
今は今」と開き直ってるし、孫兵も結構覚えてるけどマイペースだから、僕らにはそんなに関係ない。
重要なのは、僕は親の再婚で出来た同い年の姉である藤ちゃんのことが大好きで、藤ちゃんの誕生日は
クリスマス(12/25)だってこと。
藤ちゃんは小学校の先生で、その彼氏の孫兵は動物園の職員。だから社会人になって以降は、2人共
イブは大抵忙しい。
特に孫兵は、本来の担当は爬虫類館だけど、勤めている動物園がクリスマスと年末年始はただでさえ
お客さんが多い上に、イベントをやっていたり閉園時間を延長して夜までやっているから、他の所の
手伝いに駆り出されたりしているらしいので、12/24中に帰っては来るけど、「ゆっくり食事」なんて
ことは難しい。
対する藤ちゃんの方は、大体の年は12/25が終業式だから、通信簿をつけたりなんだりとやることは
いっぱいあって大変そうだけど、食事や買い物に行く余裕は一応ある。
そんな訳で、
「25日は譲ってあげるけど、24日は僕と!」
みたいに交渉してみたら、あっさり承諾されたので、12/24にクリスマス兼誕生日で一緒に食事に行って、
プレゼントをあげるのが毎年恒例になっている。
今年は、イタリア料理のお店に予約を入れて、プレゼントはネットで注文したカシミアのショール。
……なんだけど、まずプレゼントの方が、「配達事故があったので届くのは12/25以降になる」って
連絡があったのが、23日の夜のこと。
仕方ないので、そっちは誕生日プレゼントってことにして、24日の仕事が終わってからクリスマス用に
別な物を買いに行くことにした。ここ数年、誕生日とクリスマスのプレゼントをまとめて1個で済ませ
ちゃってたし、こないだ買い物に行った時に、ちょうど良さそうな可愛いアクセサリーを見つけたから、
アレをお揃いで買うのはアリかもしれない。そう思えたので、そっちの件は、まぁいい。
次に起きた問題は、仕事中―薬局の薬剤師―に、情報通でおしゃべりな常連のお客さんに
「三波さん、今日3丁目の『メディチ』に予約入れてるって言ってたわよね」
「ええ、はい」
「今さっき、近くに住んでる人に聞いたんだけどね、アノお店から火が出たとかで、今消防車が
何台も来てるそうよ」
と聞いた少し後。お店の方からも、「小火だけど今日の営業は出来ない」って連絡があって、もちろん
その分の補償として、お食事券をもらった上に、別の日に割引で予約を入れ直す案は提示されたけど、
今日でないと意味が無いし、流石にクリスマスイブの夕方過ぎだったから、他のそれなりに良いお店に
当日予約を入れるのも無理だった。
それだけでも最悪だったのに、極め付けは終業後2駅先のデパートまでプレゼントの買い直しに行った後。
前に見付けたのよりも良い感じの、誕生石をあしらったチョーカーがあったので、僕のアクアマリンと
藤ちゃんのラピスラズリは、どっちも青系だからお揃いっぽいしそれを買った所までは良かったんだけど、
帰ろうとした時には、ゲリラ豪雨ならぬゲリラ豪雪で、電車が止まっていた。
確かに朝から雪は降っていて、天気予報でも「夜にかけて強くなる」とは言っていた。けど、ここまで
酷く降らなくても……。そう思いながら、どうにか電車以外で帰ることにしたけど、同じような状況の
人は大勢居るけど、雪で道路も交通規制されていたり事故が多発していたから、バスもタクシーも中々
乗れそうに無い状況だった。
なので、寒くて冷たくて疲れるけど、2駅分なら歩けない距離では無い気がするし、一応今年はやりの
ファー付のブーツだから、雪道でも多分大丈夫。ということで、途中でタクシーを捕まえられることを
祈りながら、ひとまず歩いて帰宅することにした。
けど、実際歩き始めたら、駅と駅の間が結構長い区間で、しかも線路沿いに道が無いから、かなりの
遠回りをしなきゃいけなかった。その上、白いコートにスカートも白のフェイクファーのを着ていた
所為で、雪景色に溶けてしまっていたみたいで、横を通った車が、気付かずに雪解け水をはね掛けて
いったのは、1度や2度じゃない。
オマケに、気付いたら携帯の電池が切れていた―後で確認したら、デパートでの買い物中には既に切れて
いたっぽい―から、途中で連絡をしたり迎えを頼むことも、逆に藤ちゃんから連絡が来ているかどうかも
判らなかったし、結局タクシーも捕まえられなかった。それでもどうにかこうにかアパートに着いたら、
とりあえず隣の部屋の電気は付いていたから、藤ちゃんは帰って来ていて、部屋に居るんだと解釈して、
シャワーで身体をあっためて着替えてから顔を出した。
そうしたら、まず玄関で、孫兵が普段履いている筈の靴が目に入った。だけど、朝から雪は降っていたし、
予報もあったから、別の靴を履いて出掛けた可能性も、無くは無い。そう思いながら部屋に入ったら、
「何で帰って来てるの、孫兵!?」
例年通りなら、絶対に仕事中の筈の孫兵と藤ちゃんが、テレビの前のソファーで、肩を寄せ合って眠っていた。
とはいえ、ホントに寝てるだけで、テレビはつけっぱなしでテレビとソファーの間のテーブルに料理とケーキと
シャンパンが残ってたから、多分テレビでやってた映画か、もしかしたら借りてきたDVDでも見ながら飲んで
いたら、2人もお酒に弱いから寝ちゃった。とか、そんな状況だろうけど、すごいムカついた。
しかも、声を掛けても起きなかったから、勝手知ったる藤ちゃんの寝室から毛布を持って来て掛けてあげて、
残っていた料理やケーキをやけ食いのように食べたんだけど、翌朝聞いた話によると、それは普段は料理を
しない藤ちゃんが、家庭科の先生な同僚の二郭いすずさん―前世の後輩の二郭伊助とも言うけど―に教わって
作ったものだったらしい。
「予約していた店が小火を出したことと、別の店の予約が取れなかったことまではメールくれたけど、
その後音信不通だっただろ? だから少し心配だったけど、特に事故の連絡や何かは無かったから、
携帯の電池が切れたか壊れたのかと思ったんだ。だけど、念の為家には居た方が良いかと思ったし、
今年は終業式も今日だったんでヒマだったから、二ノさんに俺でも作れそうな簡単な料理を訊いて
作ってたら、『大雪で閉園になった』って孫からメールが来たんで、帰りにケーキを3人分買って
来るよう頼んで、しばらくはカズの事も待ってんだけど、孫が帰りについでに借りてきたっていう
映画のDVDを見ながらつまんでたら、いつの間にか寝てた」
……前世からの付き合いだし、今世でも姉妹になってから20年近く経っているから、藤ちゃんは僕の
不運体質を、とてもよく知っている。それから、大雪で動物園が閉園になるのも、中学の家庭科実習
レベルなら料理が出来なくもない藤ちゃんが、折角の機会に料理に挑戦してみようと思った気持ちも、
解らなくは無い。
だから藤ちゃんの弁明は1個も間違っていないし、携帯の件は不運というより不注意だから、全面的に
僕が悪いのかもしれない。だけどせめてレアな藤ちゃんの手料理は味わって食べたかったから、メモ位
残しておいて欲しかったなぁ。というか、
「何で弱いの解ってて、お酒飲んだの?」
「職場の同僚が、『クリスマス用に買ったは良いが、直前になってフラれたから、やる』とくれて、
折角なので1杯位なら平気かと思ったんだ」
藤ちゃんは、僕の知る限りではおちょこ1杯でもつぶれる位弱いし、孫兵も似たようなものだった気がする。
……弱いのが藤ちゃんだけなら、そこを責められるのに、孫兵まで弱いから、文句を言い難いんだよね。
「……とりあえず、今後は2人だけの時は飲むの止めなよ。あと、よくそんな験の悪い物飲む気になったね」
「まぁ、酒自体に罪は無いからな」
言いたいことは色々あるけど、僕に言えるのは、釘を刺すのとちょっとした嫌味位。だけど、「別れたから
不要になった」って言われてもらったお酒を、カップルで飲む気には、普通ならないと思うのは、嫌味でも
あるけど本音でもある。……まぁ、そんなこと気にしないタイプなのも知ってるけど。
「ところでカズ、今日は早出だって言ってなかったか?」
「あ、うん。そう。……って、もうこんな時間!?」
どうせ25日は孫兵と過ごすの解ってるんで、店長に「早めに出てくれ」って言われたの飲んじゃったから、
今朝はそんなに時間なくて、気付いたらそろそろ支度をしないとマズイ時間になっていた。
「藤ちゃん! 誕生日おめでとう&メリークリスマス。プレゼントは、帰って来てから渡すね」
「ああ。ありがとう、行ってらっしゃい、カズ」
昨日の夜は、藤ちゃん達が起きそうに無かったから、自分の部屋に戻って寝て、その時にプレゼントを
一旦持って帰って、朝持参し忘れたのが災いしたと痛感したのは、帰宅後。通販の方も届いていたから
まとめて持って行って渡そうとしたら……
「藤ちゃん、そんなセーター持って無かったよね?」
「ああ。昨日孫にもらった」
藤ちゃんが着ていたセーターは、僕の買ったショールと、とてもよく似た色で、多分素材はショールと
同じか、もっと高価いものな気がした。
「そっかぁ。……コレ、僕からはショールと、間に合わなそうだったから、改めて買いに行ったチョーカー」
それでも、同じもので被らなくて良かった。そう思いながらプレゼント2つを渡したんだけど、小さい方の
箱を開けるなり藤ちゃんは、部屋に何かを取りに行った。
「すごいな、お前ら。……コレ、去年孫にもらったやつなんだけど」
そう言って、藤ちゃんが僕のあげたものと並べて見せたのは、リボンの色もデザインもちょっと違うけど、
明らかに同じシリーズのチョーカーだった。
「え。うそ? 藤ちゃんこんなの持ってたの!?」
「着ける機会が無いから、仕舞いっぱなしになってたけどな」
基本的に飾りっ気が無い上に、軽い金属アレルギーのある藤ちゃんは、滅多にアクセサリーをつけない。
けど、肌に触れる部分が布のチョーカーなら大丈夫だと思ったら、孫兵も同じことを考えて、1年前に
贈ってたなんて……
「そんな顔するなよ。どっちも嬉しいし、ちょっと違う所が、それぞれ気に入ったから」
愕然としている僕に、藤ちゃんはそう笑ってくれた。けど、ホントもう、前世から引き継いだ「不運体質」
なんて要らない。
1つ1つは些細な不運の積み重ねだけど、ここまで重なると、今年のクリスマスは完敗じゃないか。
2010年クリスマス企画第5弾 さやはる様リクエスト
「転生モノで藤内とクリスマスを過ごそうと色々と画策する数馬だが、おなじみの不運で結局はラブラブな
孫浦に落ち着く」
とのご希望でしたが、数馬の不運っぷりはともかく、ラブラブかどうかは微妙でスイマセン。
2010.12.21
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