七松組の6代目の小平太の友人である立花仙蔵の弁護士事務所の、その内過労で倒れそうな経理兼事務の
	浦風藤内(28)には、1日だけ毎年変わらぬ固定休がある。それはクリスマス兼彼の誕生日である12/25で、
	本人が申請したわけでも、仙蔵の計らいでもない。

	「絶っ対にこの日は休ませて下さい!」

	と、就職した年に要求したのは、藤内の友人で、仙蔵の友人である善法寺伊作の義弟の三反田数馬で、
	彼らは幼馴染なのだという。


	そんな訳で、数馬主催でのクリスマス会兼藤内の誕生会は、最早ただの飲み会になって久しい気が
	しなくもないが、10年程前から変わらぬメンツで毎年開催されている。



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	「メリークリスマス&ハッピーバースデー藤内」
	「はいはい、メリークリスマス数馬」

	そんなお決まりのやり取りで始まった会の、今年の開催場所は商店街にある「大盛食堂」で、その時点で
	既に飲み会としか思えないが、店主のおばちゃんは、頼めばちゃんとクリスマスで誕生日なごちそうも、
	ケーキも作ってくれるような人なので問題は無い。ということらしい。

	「……にしても、今年も全員揃ったか。1人位、クリスマスを一緒に過ごす恋人なり家族が居ても
	 おかしくない年なのにな」

	飲み始めてすぐに、そんな風に呆れたように他のメンツを見回したのは、忙しすぎて出会いの無い藤内だった。

	「俺は今んとこ彼女居るけど、今日は仕事」
	「あー。今度の相手はキャバ嬢だっけ? それじゃイベント時期は無理だね。……僕と孫兵がそういうのに
	 興味ないのは知ってるでしょ?」

	食べ物を口に入れたまま答えた次屋三之助は、土建屋の跡取りで、七松組の下請け会社なことから、七松組
	系列の風俗店の女性などと知り合い、厄介事に関わった結果惚れられて……。的なことが多いらしい。
	そして、義兄伊作と藤内にしか興味の無い数馬と、人<虫な伊賀崎孫兵(爬虫類中心のペットショップ店主)は
	端から人間の恋人を作る気は無いので、生涯独り身でもおかしくない。

	「僕も、みんなと騒いでる方が楽しい」
	「お子様だもんねぇ、左門は」

	率直に答えて呆れられた、駅前交番の巡査である神崎左門は、珍獣or弟扱いで何気に人気は無くも無いが、
	本人にも愛でてている方にも、そういったつもりは無い為、当分その手の話には縁がなさそうである。

	「……で、作は?」
	「訊くな」
	「まぁ、今ここにいる以上は、特に居ないんだろう」

	この話題になってから、不機嫌そうにずっと無言で飲んでいた富松作兵衛(町役場勤務)は、恋人を作る気も
	結婚願望もあるが、藤内に次ぐ位忙しい所為で、出会いも無ければ、運良く出会えて付き合い始めても中々
	長続きしないらしい。

	「えっとな、先月振られたらしいぞ」
	「何で知ってる左門!?」
	「団蔵に聞いた」
	「あー俺も、金吾から聞いたかもしんねぇ」
	「って、何でその2人が知ってたんだよ」

	恋人と長続きしない原因の一端を担う、お荷物な幼馴染共に、能天気に近々の情報をバラされたことに、
	作兵衛がキレると同時に情報源はどこかと首を傾げると、藤内がポツリと

	「……平太情報だろ」

	と呟いた。

	「あんの野郎!」
	「どうせ、作が自分からグチって、平太の話を引きだしたのは、庄左ヱ門か伏木蔵辺りだろうけどね」

	左門の後輩の加藤団蔵や、三之助と顔見知りの七松組の若手皆本金吾と、作兵衛の後輩の下坂部平太は
	中学時代の友人で、平太のあだ名は「グチ聞き窓口」だが、自分から洩らすようなことは滅多にせず、
	余計なことを訊き出して言いふらすのは、その更に友人の鶴町伏木蔵か黒木庄左ヱ門なことが殆どである。
	
	しかしながら実は、今回の情報源は、伏木蔵と共に数馬が勤める伊作の薬局でバイトをしている猪名寺
	乱太郎で、彼は運悪く作兵衛と彼女が別れ話をしているすぐ近くを通りすがってしまい、それをうっかり
	伏木蔵に話してしまったのが発端だったりする。


	「こんな話題を振った俺が悪かったから、気を取り直して飲め、作兵衛。……空気を変える為にも、
	 余興用意してる奴居たら、何かやれ」

	気を使っているように見えて、結構勝手な言い草で仕切ったのは藤内で、どことなく職場のメンツに
	似た勝手さがあるようにも思えるが、一応今日の主役のはずなのにこんな役回りなので、やっぱり
	気を使っていて大変なのかもしれない。


	「えっと、じゃあ、王様ゲームやろうか」

	そう言って、用意していた割り箸を取り出した数馬は、王様にもなれず、かといって妙な罰ゲームを
	命じられた訳でもなかったが、

	「あ。俺王様だ。……んじゃ、1番と4番がキス?」

	という三之助(酔っ払い)の定番の指示で、―口では無く頬にだったが―キスされる藤内を目にしたり、
	その後も何故か指示され他の連中にキスやらハグやらされるのが藤内。という、やられている藤内と
	どっちが不運なのか良く解らない目に遭った。

	「もうヤダ。見たくない。だから、王様ゲームはおしまい! 次は……」
	「ああ、そうだ。僕は明日の朝、用が入っているのでそろそろ帰っても良いか? ということで、忘れる
	 前に渡しておく」

	泣きそうになりながら仕切る数馬に、思い出したように予定を告げ、藤内にプレゼントを渡して帰ろうと
	したのは孫兵だった。

	「孫兵! 抜け駆けしないでよ。ということで、プレゼント交換!」

	藤内第一な数馬にも、孫兵のマイペースさにも慣れている他の面々は、特にそれで異論は無く、プレゼントと
	言っても、良い年こいた男同士なので、藤内の誕生日プレゼントにそれなりにちゃんとした値段のものを用意
	してきている以外は、

	「ビールの6缶セットか。僕は飲まないが、初島くん辺りにあげても大丈夫か?」
	「だったら、俺のお米券と交換しねぇ? 良いよな、藤内?」
	「お米券は僕だけどね。……義兄さんに欲しい物聞いたら、『お米がそろそろ切れそう』って言ってたから」
	「じゃあそっちにやれよ。……俺のコレは、ただの不用品だろ左門!」
	「おお、作。良く解ったな」
	「お前の部屋で見たことあるんだよ。誰かの土産の、木彫りの熊なんか要るかっ」
	「……彼女に贈ろうとしていた、女物の香水よりはマシだと思うけどな。ちなみにビールが俺で、交換
	 しても構わない」
	「先月別れたのに、その前から用意してあったの!?」
	「ちげぇ! 俺じゃない!」
	「あ、それ俺が間違えた。ホントはこっちのコップ。……コレももらいもんだけど」

	等々、消耗品やら不用品ばかりの、しょうもない感じだったが、作兵衛に当たった左門の熊の置物以外は、
	作兵衛からはツボ押しが数馬に。孫兵から左門にはもらいもののお菓子の詰め合わせだったので、外れは
	作兵衛だけだと言えなくも無かった。


	そんなこんなで、孫兵のみ早退したが、その後も散々5人で飲みながら騒ぎ、結果的につぶれた藤内と
	数馬を作兵衛と三之助で背負って、とりあえず作兵衛の部屋に連れ帰って全員そこで雑魚寝をしたが、
	酔っていてもいなくても、三之助も左門も方向音痴な為、まともに動けるのが自分1人な作兵衛の
	苦労は相当なものだったようである。



	
2010年クリスマス企画第6弾 さやはる様リクエスト2個目 「『七松組で三年全員集合話』6人揃った話はなかった気がしたので、わいわい騒いでほしいです。」 とのことで、確かに七松組でコイツらの勢ぞろいは初かもしれません。 にしても、クリスマス感が乏しすぎですね 2010.12.21