12月頭のある日のこと。
	大川学園6年は組の善法寺伊作が、委員会活動を終えて自室に戻ると、何やら甘い香りが漂っていた。

	「ただいまー、留さん。匂いがするってことは、余ったの持って帰って来てるの?」

	同室でクラスも同じで幼馴染な食満留三郎は家庭科部員なので、たまに部活中に作ったお菓子などを持ち帰る
	ことが	ある為、この日も何か余ったのかと思い伊作が訊ねると、

	「お帰り伊作。一切れ位なら良いけど、全部は食べるなよ。月末まで熟成させるんだからな」
	「1ヶ月近くも? って、ああ。もしかして、去年の仙蔵のリクエストのシュトーレン?」
	「ああ。部室に置いとくと、しんべヱ達に嗅ぎつけられて、当日まで残らなそうだから持って帰って来たんだ」

	苦笑交じりの返答に、伊作は納得した。去年のクリスマスにケーキのリクエストを尋ねられた際、彼らの友人の
	立花仙蔵が挙げたのがドイツの伝統的なクリスマスケーキ―というよりはパンに近い―シュトーレンで、
	「3日前に言うな。アレは、作ってからしばらく寝かせて味を落ち着かせるもんなんだからな」
	と、珍しくキッパリと留三郎に断られていた代物だった。

	「確かにねぇ。でも、この部屋に置いといても、こへに嗅ぎつけられる可能性が無くない?」
	「そうなんだよな。あと、長次がクリスマスプディングも作る予定なんだけど、そっちもタネの段階で
	 しばらく寝かせなきゃいけないから、俺が預かることにしたんだが……」

	留三郎と同じく家庭科部員の中在家長次の同室の七松小平太は、仲間内で一番の欠食児童で、一応部屋の主の
	許可は取るとはいえ、他人の部屋の引き出しや戸棚を漁って食料を見つけると食べ尽くすような奴である。
	そんな訳で、部室にはもっと強力な食欲魔人の後輩―1年は組の福富しんべヱ―が居る為、ひとまず自室に
	持ち帰って来たとはいえ、小平太にばれないように数週間熟成させるのは結構な至難の技なのは事実だった。


	「いっそ、山田先生に預かってもらうか。元々1つは渡す予定だったわけだし」	
	「え。何で、山田先生? 顧問とかじゃないよね」
	「ドライフルーツの漬け込みに使う洋酒が、俺らじゃ買えないんでどうするか話してたのが、通りすがりに偶々
	 聞こえたらしくて、完成したシュトーレンを1つ差し上げる代わりに、買って来てもらうのお願いしたんだ」

	常々「学生には見えない」と言われている長次だが、流石に6年間通い詰めている駅前商店街の人達には学生だと
	知られている為、お菓子作りの材料とはいえお酒を売ってもらうのは難しいので、余所まで買いに行くか、顧問の
	日向に頼むか。との相談をしていた所、山田の方から申し出てくれたそうで、どうも冬休みの半分近くが補習で
	潰れる分の、謝罪というかご機嫌とりの為の妻への土産にするようだったらしい。



	そんなこんなで、どうにか守り抜いたシュトーレン及びクリスマスプディングは、元々予備知識はあったからこそ
	リクエストした仙蔵や伊作にはそれなりに好評で、食べ応えもあることから小平太の反応も意外と悪く無かったが、
	甘いものが嫌いで、仲間内のクリスマスパーティーも自主的と言うよりは伊作達に責められるので渋々参加している
	潮江文次郎には、散々っぱら地味だの何だのと言われ、

	「てめぇは、毎年食わないんだから関係ないだろう!」
	「別にケチつけた訳じゃねぇよ。単に、地味でパンにしか見えねぇからそう言っただけだろうが」

	等々毎度の如くケンカになりかけたが、伊作に
	「も〜。毎回そうやってケンカするのやめてよ。折角高校最後なんだから、楽しもうよ」
	と膨れられ、
	「今すぐその下らん言い合いを止めんと、お前らへのプレゼントは私の新作にするぞ」
	と、改造スタンガン(自作)を構えた仙蔵に脅され、すごすご引き下がった。


	「よし! お約束のケンカも済んだし、さっき長次が鶏焼けたって言ってたから、食おうぜ」
	「そうだね。じゃあ、切り分けるのは僕がやろうか。……モモは、欲しい人でじゃんけんしてね」

	ケンカが終わるのと、家庭科室のオーブンから鶏の丸焼きを出してきた長次が戻って来たのがほぼ同時というより、
	鶏が来るのでケンカを止めた感が否めなくもないが、そんなことより鶏争奪じゃんけんの方がよっぽど大事なのが、
	所詮は男子高校生というものだったりする。


	「私は、モモで無くて構わんから、先に選ぶぞ。良いな」
	「えぇー。仙ちゃん、それはずるいから、みんなでじゃんけんして、順番に選ぼうよ」
	「そうだぞ。お前、去年もそう言って、一番肉多いの取っただろ」
	「ごめんねー、均等に切り分けられなくて」
	「……いや。伊作は悪くない。お前の解体が、一番上手いしな」
	「解体……いや、まぁ、確かに解体か」

	そんな感じである程度飲み食いした後のプレゼント交換も、事前に予算や選ぶ品のセンスなどのことで多少
	揉めはしたが、結局「1000円前後の実用品」で折り合いがついていた。が、


	「えっと、コレ誰から? それと、何に使う物なの??」
	「あ。それ俺! バナナハンガー」
	「ほぉ。多少は進歩したな小平太。……この湯たんぽは、伊作か?」
	「いや、俺だ。伊作は、確かエコカイロだったよな」
	「……コレのことか?」
	「ううん。僕が買ったのは、それとは別の」
	「それは私だ。被ったが、伊作とならまぁ良いだろう」
	「このマフラーは、長次が部屋で編んでたのだよな」
	「てことは、俺のが潮江のか。……しかも、電卓かよ」

	等々、やっぱり個性と趣味が出過ぎていて相容れない所があるような品が、いくつかあった。
	それでも、

	「みんな、らしくて良いね。ホント、今年もみんなでパーティー出来て楽しかった」

	との伊作の感想に、他の5人も―口に出さなかった者も居るが―皆同感だったという。



クリスマスリク第一段 カテゴリー指定なしの6年だったので、現パラの中ではセットにし易い無月にしてみました。 「食満がすきなので食満が活躍するような話がいいです」 とのご希望だったので、留さん多めでお送りしましたがいかがだったでしょうか?