「ねぇねぇ、綾ちゃん」
	「何ですかタカ丸さん?」
	「……うん。もうそこ(名前)はいっか。えっと、もうじきクリスマスだよね」
	「そうですね。学期末なので、こうして期末テスト対策に勉強を見て差し上げている訳ですが」

	12月も半ば過ぎのある日。同級生だけど諸事情―単に俺が馬鹿で1浪と1留してるからだけど―により
	2歳年下で、実は前世でも2歳下だけど同級生だった平野綾ちゃん―前世名は「綾部喜八郎」で男―は、
	図書館でテスト勉強をしている最中に質問したオレ―斉藤隆(18)―に、とっても冷静な返答を返してきた。
		
	「いや、うん。それは確かにそうで、すごく助かってる。ありがとう。でも、そうじゃなくて……テスト
	 終わった後って、何か用事ある?」
	「滝も金吾も今年も独り身のようですから、例年通りでしょうね」

	綾ちゃんのお母さんは、これまた前世で同級生だった平滝夜叉丸くんの生まれ変わりで、正確には
	叔母さん―実のお母さんの妹―なんだけど綾ちゃんを引き取って育てていて、一緒に暮らしている
	叔父さんは後輩だった皆本金吾くんの生まれ変わりらしい。

	「そっかぁ……」
	「ただ、事前に予定を告げて、帰宅が遅くなりさえしなければ、昼間出掛ける程度は、むしろ歓迎
	 されるかと思います」
	「歓迎? 何で!?」
	「コミュニケーション不全の人嫌いだと思われているようですので、『友人と出掛ける』と言い出す
	 日が来るとは、ほぼ想像していないかと」

	お母さんの滝さんは、前世の記憶は無いらしいけど綾ちゃんがちょっと変わった子な事を「この子は
	そういう子なんだ」と受け容れてくれているみたいだけど、やっぱり母親として色々心配してはいる
	ようだって教えてくれたのは、記憶持ちでずっと綾ちゃんのフォローをしてきたらしい金吾くん。

	「そうなんだ……。ところで、オレ、ただの『友達』?」
	「今の所は。といいますか、そういうことにしておかないと煩そうなのが居ますので」

	オレと綾ちゃんが再会したのは、俺の留年が確定して綾ちゃんが高校見学に来た時で、綾ちゃんが
	うちの高校に入学して以降ずっとつるんでいる。だけど、あまりにもタイプが違い過ぎる上、以前の
	オレは若干グレ気味で近寄り難かったのに綾ちゃんとつるみ始めて以降丸くなった―というよりは
	馬鹿なのが露見した―とか言われているし、綾ちゃんも今さっき自分で言った通り、友達の居ない
	電波ちゃんだと思われているので、接点がよく解らないと言われることが多い。その上、再会して
	しばらく経った頃に、オレが綾ちゃんよりも、綾ちゃんを介して再会した前世の知り合いと仲良く
	してるのが何だか気に入らない。と綾ちゃん言われ、「告白みたいだね」と茶化したら「それでも
	良いですけど」って返されて、その時は「そんな軽々しく言われても嬉しくない」って答えたけど、
	綾ちゃんが他の男子に言い寄られてたりナンパされてるのを見るとイラっと来るんで、それでも
	アリかなぁ。と思い直したのは、夏休みが明けた頃で、綾ちゃんにもその辺の本音は伝えてある。

	「滝ちゃん?」
	「いえ。滝は、おそらく一瞬面食らってから、言いたいこと全部飲み込んで、『……節度は守るように』
	 とか物分かりの良い顔で言うと思います」
	「へぇ、そんな感じなんだ、今の滝ちゃん。でも、じゃあ、誰? 金吾くんではないでしょ」

	滝ちゃんは、記憶はなくても割と昔のままで、だけどちゃんと大人の女性でお母さん。って感じで、
	金吾くんもベースは相変わらずだけど、だいぶ重度のシスコンで綾ちゃんの父親代わりを自称して
	いるらしいけれど、2人共基本的には綾ちゃんの自主性に任せてくれていると、初めの頃に聞いた
	覚えがあった。

	「滝達の従兄で、僕の父親気取りなこともあるツンデレ男です」
	「……えーと、もしかして三木くん?」
	「そうですよ。滝と同い年だから30過ぎてるけど独身で、彼女は居たり居なかったりするので、僕らに
	 かまけてないでさっさと身を固めろと身内には言われている。と金吾から聞きました」

	綾ちゃんが生まれたのは滝ちゃんが中3の時だったので、早生まれなので12月現在では30歳らしい。
	だから春生まれで既に誕生日が来ている三木くんは現在31歳。その年でまだ独身なのは全然珍しく
	ないけど、確かに義理の娘が最優先な従妹にちょっかい出すよりは、前向きに結婚を考えろ。とか
	言われててもおかしくはないか。

	「三木も記憶はなくて、金吾が言うには『アレは絶対に姉さんに気がある』だそうです」

	曰く、クリスマスとか誕生日には「どうせ招いてくれる友達も居ないんだろ」とか言いながら
	プレゼントをくれたり、「おばさん達の代わりに様子を見に来てやった」とか言い訳をして
	訊ねて来ることが珍しくないらしい。

	「それは、確かにツンデレだし、綾ちゃんのご機嫌取りをして滝さんに近付こうとしてる感があるね」
	「そうでしょう? しかも、僕が割と本気で欲しがったプレゼントに散々ケチをつけたり、教育方針にも
	 アレコレ口を出して来ていました」
	「ふぅん。ちなみに、何のプレゼントをリクエストしたの?」
	「シャベル、スコップ、鍬、バケツプリンなどです」

	うーん。それは、綾ちゃんがどんな子か知っているから解るけど、常識で考えたらオレでもちょっと
	反対するかなぁ。

	「でも、滝は赤いシャベルや取っ手がピンクのスコップを買ってくれましたよ。流石に、軍や自衛隊
	 仕様の折り畳み出来るスコップや鍬は却下されましたが」
	「……すごいね滝さん」
	「金吾が説得したらしいですけどね」

	それでも、赤いシャベルはともかくスコップは中々買ってくれないと思う。あと、これは後から
	金吾くんから聞いたんだけど、そのプレゼントで貰ったシャベルやスコップで校庭中を穴だらけに
	したり、落とし穴に落ちた同級生の親御さんや先生から抗議されても、
	「それがうちの子の個性です」
	の一点張りで引かなかったらしいのはすごいけど、やっぱりそれも、口出ししたくはなるかな。


	「という訳で、三木は僕自身とかけ離れた理想を僕に押し付けようとしていて、それは『一般的な
	 女子』像というよりは、『父親の理想の娘』像なので、タカ丸さんを紹介などした日には、まず
	 間違いなく反対されるでしょうね」

	あー、うん。そうだろうね。今のオレは、アシメの金髪に私服もかなり派手で、一時期ちょっと荒れてた頃に
	売られたケンカは全部買って全勝したり、逆ナンして来た相手とかと遊んでたりもするから……。

	「ですので、まずは外堀を埋めて、滝から三木に説明させる。というのが妥当かと」

	外堀っていうのは、つまり今日みたいな図書館での勉強会なんかも含むデートの目撃情報や、学校での
	話題にオレを出すとかして、まずは滝ちゃんに「もしや」って思わせて、その内直接紹介して認めて
	もらう。ってことらしくて、「回りくどいだろうけどそこまでやらないと信憑性が薄い」とアドバイス
	してくれたのは、金吾くんと(元)浦風くんらしい。


	「そっかぁ。じゃあ、余計なことはしないけど実質デート。みたいなプランはアリ?」
	「具体的にはどのような?」
	「んー。イルミネーション見に行ったり、買い物してご飯食べたりとか、2人きりだとデートっぽく
	 見えるようなこととか、あとはプレゼント交換もしたいなー」

	要するに、知り合いに目撃されたり、赤の他人から見たらデートだって誤解されるような感じ。と
	説明したら、「それなら構いません」って返って来たので、今年はまぁそれで良いかな。


	
						☆



	という訳で、どうにか―辛うじて赤点は回避出来た―期末テストを乗り切って、終業式の後一旦
	帰宅して着替えたら、駅前で待ち合わせてお昼を食べに行って、イルミネーションは暗くなって
	からの方が綺麗だろうから、ウインドーショッピングとかカラオケで時間を潰す。っていう位の
	ざっくりとした予定を立てて、12/24当日。早めに家を出ようと思ったんだけど、髪型がイマイチ
	決まらなくて手間取っていたら、綾ちゃんの方が先に来ていた。しかも、制服以外では初めて見る
	スカート姿の上に、薄化粧までしているので訊いたら、

	「折角なので、滝に買ってもらったこのワンピースを着て来ることにしたら、『髪と化粧も
	 ちゃんとして行け』って、滝に塗られました」
	「そうなんだ。すごく可愛くて似合ってるけど、頭だけいつも通りなのが残念だから、ご飯食べた後で
	 良いんでいじらせてもらっても良い?」

	前世からの癖と、今世でも実家が美容院なのと、用意したプレゼントが髪留めなことから、最低限の
	ヘアメイク道具は持って来ていたのでそう提案したら、「相変わらず一番気になるのは髪ですか」と
	返してきた綾ちゃんが、口調は呆れているのに薄っすら微笑んでいてすごく可愛かった。

	父さんのお店のお客さんから聞いた、安くておいしくておしゃれで、だけど混んでないお店でお昼を
	食べた後。髪をいじらせてもらう為にも、個室の方が良いよね。ってことでカラオケボックスに入り、
	だけど結局歌わずに30分で出た後は、滝ちゃん達へのクリスマスプレゼントを買うっていう綾ちゃんの
	リクエストで、あちこちお店を見て回った。


	「タカ丸さん。この紫のバラのポーチとミラー。どっちが良いと思います?」
	「うーん。鏡だったら、さっきのお店で見たデザインの方が、オレは好きかなぁ」
	「前の店にそんなのありましたっけ? どんなやつですか」
	「紫じゃなくて赤のバラだけど、コンパクトタイプでふたが立体的なバラになってたんだ。隅っこの
	 方にあったし、綾ちゃんが見てたのとは別のコーナーだったから気付かなかったかもしれないけど」
	「見に戻っても良いですか?」
	「もちろん」

	そんな感じで散々吟味した滝ちゃんへのプレゼントは、結局4番目のお店で見つけたバラのコサージュで、
	色はもちろん紫。金吾くんへは、初めから決めてあったのか、途中の店で手袋を買っていた。

	そして、夕方になって辺りが暗くなったので移動して、目当てのイルミネーションを一通り見たら、
	駅まで送って行ったら、そこで今日はお開き。ということで、ちょっと名残惜しく思いつつ駅までの
	道を、他愛の無い話をしながら歩いていたら……

	
	「綾!? お前、友達と出掛けたんじゃなかったのか!」
	「おやまぁ。久しぶり、三木。会社の最寄りこの辺だっけ?」

	何かどこかで会ったことのあるような気がしなくもない、高そうなスーツにコート姿の会社員さんに
	呼びとめられたと思ったら、三木くんだった。

	
	「今日は得意先から直帰だったんだよ。それより、大人相手の口の利き方を何遍注意すれば解るんだ
	 お前は。あと、僕は『みき』じゃなくて『三樹(みつき)』だとも再三言っているだろう」
	「はいはい。失礼しました三樹おじさん。……それじゃ、僕らはもう帰るんで。お疲れさまです」

	面倒臭そうな顔で棒読みで謝罪した綾ちゃんは、さっさと駅に向かおうとしたけれど、

	「待て! それよりも、その、隣にいるのは誰だ!? 滝達には『友達と出掛ける』と言っていたって
	 聞いているぞ」
	「だから、友達。同じクラスの斉藤……隆さん」
	
	普段「タカ丸さん」呼びだから、今のオレの下の名前忘れかけてたんだなぁ。と、ぼんやり考えてたら、
	綾ちゃんじゃ話にならないと思ったのか、三木くんは今度はオレに向かって

	「僕は、この子の伯父の田村三樹という。君は、綾の何だ」
	「えっと、高校の友達ですけど」

	それで納得するとは思えなかったけど、一応、今の所はそれ以上でもそれ以下でもないしなぁ。と
	思いながら答えたら、案の定「本当にそれだけか?」と問い詰められた。

	「他の人よりは親しいけど、それだけだよ。……今はまだね」
	「なっ」
	「金吾とも知り合いだから、疑うなら金吾に訊けば?」

	意味深な発言に絶句する三木くんに、そう言い残すと綾ちゃんは、「行きましょう」とオレを促して、
	今度こそさっさとその場を後にした。



	後日。この後の顛末を金吾くんに聞いた所。

	「綾の高校の友人で、最近行きつけの美容院の息子さんだって答えときましたので、安心して下さい」

	という返事が返ってきたけれど、三木くんの話を聞いた滝ちゃんの「本当にそれだけなのだろうか」
	との疑問には、

	「さあ? どうでしょう。気になるなら綾に訊けば、姉さんになら教えてくれるんじゃないですか」

	と返したらしく、それで綾ちゃんは何て答えたのか訊いたら、

	「彼氏だけど、三木にはバレると煩いので黙ってて欲しいと答えましたが、ダメでしたか?」
	「え、いや、うん。オレは別に構わないけど……良いの?」
	「ええ。藤内も『最初はそんなものです』と言っていましたし」

	元・浦風藤内くんこと伊賀崎藤菜さんは、綾ちゃんの小学校の時の先生で、2年位前に結婚して
	今年赤ちゃんを産んだらしいけど、記憶持ちな上に、学生時代から付き合っていた旦那さんは
	前世での友人だった伊賀崎孫兵くんだそうで、割り切り方の相談には打ってつけらしい。
		

	「それでは、勝手に決めてしまい申し訳ありませんが、そういうことで」
	「あ、うん。よろしくね、綾ちゃん」

	正直な所、こんな事務的な交際宣言って無いよね。とは思うけど、ある意味綾ちゃんらしいと
	言えなくもない気がするし、こんなきっかけでも無いと、いつまで経っても様子見のまま何の
	進展も無かったんじゃないかって気もするから、コレで良いのかもね。

	


2012年クリスマス企画3本目 転生4年というかタカ綾で、金吾が出張ったのは、タカ丸と三木を絡ませ難いせいかなぁ…… 2013.1.14