存在を無視されてきた少女と、何処にも居場所の無い少年と、疎まれることしか知らなかった 少年と、それぞれ家庭に問題を抱えた子供達とが出会って最初の冬。 「なぁ、お前らクリスマスってしたことあるか?」 年嵩の少年2人に、ふいにそう尋ねたのは、黙っていれば上品なお嬢様なのに、皮肉屋で柄が 悪い−ように振舞っている節もある−三夜だった。 「いや。親は生きていた頃からその手の行事には興味の無い人達だったようだし、親戚の家では 学校のクリスマス会のプレゼント代すら出し渋られるのが普通だったな」 「母親の方はその手のことが好きだった気はすっけど、クソ親父と揉めてた覚えしかねぇな」 「だよな。俺も記憶に無い」 早くに親を亡くし親戚をたらい回しにされている閧志と、親が離婚した際に酒乱の父親に 引き取られた一灯に、医者一族の両親の関心は全て双児の弟に集中し書庫の本だけが拠り所 だった三夜では、誰1人として家族団欒もイベント事も経験したことがある筈が無いのは、 聞かずとも解っているだろうし、そもそもお前その手のイベントに興味あんのか? との男子 2人の問いに、三夜は「俺は無い」と言い切ると、ツッコミが入る前に 「俺は興味無ぇけど、チビ共は憧れてるみてぇだから、どうしたもんかと思ってな」 「そういや、買い出しの時なんかに、ケーキやチキンの予約のポスターを羨ましそうに眺めてたな」 「言われてみれば、この間、クリスマスの話をしながら下校している子の近くで、泣きそうな顔を している史塋を見掛けたな」 三夜の理由を聞いて、2人も思い当たる節があったので、納得はしたが、経験も無いし柄でもないから、 確かにどうしたものか。と、一緒になって頭を抱え、とりあえずクラスのクリスマス会のプレゼント代 くらいは持たせてやれるし、12/24は泊まらせてプレゼントをやるのも、ヘソクリに手を付ければ何とか なるか。とだけは決めた数日後。肝心の家でのパーティーに関しても、割とあっさり問題が解決した。 「あのね、三夜。これ行っても良いかなぁ?」 小学校から、自宅ではなく灯野家に帰って来た史塋が、おずおずと差し出したのは、近所の教会の クリスマス会のチラシで、教会だが堅苦しい話も賛美歌もミサ的なものも抜きの、子供向きの内容で 参加費は一切掛からないと書かれていた。 「あー、まぁ良いんじゃねぇの。敦仁と伍葉と3人で行ってくれば。で、帰りに好きなケーキを、 お前らが好きなの買ってきな。で、夕飯はクリスマスっぽいもん作ってやるから、親には 『友達の所に泊まる』っつって、ここに泊まってけ」 一灯と閧志には事後承諾になるけど、夕飯と泊めるとこだけは決めてたし、ケーキも、作るのは 流石に無理だから、コイツらに選ばせてやるのは手だよな。 そんな三夜の判断に、もちろん男子2人が異論を唱える訳も無く、小学生3人も、学校のではない クリスマス会と、みんなで食事にお泊まりまで。というだけで、充分過ぎる程に嬉しかったよう だった。 更に、12/24当日。教会から帰って来た3人は、お菓子の詰め合わせをもらってきており、後日 教会の牧師に聞いた所によると 「気前の良いスポンサーのじいさんが居るんで、信者になれとかミサで献金しろとか言わんから、 気にしなくて構わんよ」 とのことで、10年近く経ってから 「ああ、それうちのじーちゃん。元々ラウグルさんとは仲良かったし、素性不明の母子を 『やったぁ! 娘と孫が出来た』で引き取っちゃう人だったから」 と、スポンサーこと沢老人の孫の羅貫から聞き、祖父の死後は、後見人(?)の千艸が引き続き 出資しているとのことだった。 そして、おそらく全員人生初のクリスマスディナーは、料理は出来るし本の虫だが、何を作るのが 適切なのか解らなかった三夜が、悩んだ挙句に 「とりあえず鶏肉と、赤と緑なら良いだろ」 との結論に達して作った唐揚げとサラダにコーンスープ。というのが、その後も定番となり、 プレゼントも、買い与えた覚えの無い物を持っていると色々疑われて面倒だから。という理由で、 ノートや鉛筆などの消耗品に、新しい靴下と手袋が限界だったが、何しろ人生初のプレゼント なので、もらえただけで嬉しかったようで、成長し、他の子が増え、自分達があげる側に回っても、 人数と予算の関係もあり、手作りの品が少し混ざった以外は、それもそのまま受け継がれていく ことになった。 けれど、実は一番嬉しかったプレゼントは、そもそも自分達の為にクリスマスをやろうとして くれたことなんだよね。 とは、照れ臭いので面と向かっては言わないが、元居候達の共通の想いなのだという。
2013年クリスマス1個目 本編書いてないのに季節ネタだけ書いても……と思わなくもなかったのですが書きたかったので