並行世界での地球人生活に、若干慣れてしまってきた12月下旬のある日。
		1人だけ2歳児のジャンナインこと立花直也を、義兄というよりは若い父親に見えるジャンボットこと
		立花直人が、ナイスこと夢星銀河の保育園に迎えに行くと、帰り際に保育士のアマガイ コノミ先生
		から、小さな包みを渡された。

		「これは?」
		「直也くんから、お兄さんにです。今日のオヤツのクッキーなんですけど、残していたので
		 食べないのかな。って思っていたら『お兄ちゃんにあげる』って」
		「そうなのですか。……ありがとう、直也」

		見た目は2歳児だが中身はそのままなナインは、パソコンやタブレットなどを使えば、順序立てた
		長文を打つことも出来るが、発声は外見相応にしか出来ないし、不審がられない為にも、仲間内
		以外の前では年相応に振る舞うよう言われている。
		そのためか、舌足らずに「あい」とクッキーを手渡す様は、幼児がオヤツを分けてくれたレア度も
		あいまって実に愛らしく、
		「ジャンが地球人生活で覚えた感情は、『ブラコン』と『兄馬鹿』だろ(笑)」
		と仲間達にからかわれている直人は、感極まって直也にハグしながら礼を述べたが、帰宅してから、
		クッキーは他の3人の分あることが判明したり、ハグした際に潰れて割れるかと思ったと直也から
		言われてしまったり、その辺ひっくるめてからかわれまくったりと、散々だった。
		その上、何故今日に限って直也がオヤツを分けてくれたかというと、今日は保育園の少し早めの
		クリスマス会で、赤ちゃん組はツリーのオーナメントは口に入れるしサンタさんのヒゲはむしるし。
		ということで、とりあえずオヤツがクリスマス仕様で、お歌や紙芝居などがクリスマス系だった
		程度だが、それなりに楽しんでいて、サンタさんのプレゼントのお話を聞いて、お兄さんにオヤツの
		クッキーをあげることにしたみたいなんですよー。とコノミ先生から聞いた時は、やはり私の弟は
		可愛い。とご満悦だったが、夕食後にクッキーと一緒に渡された写真を見て、直人は微妙な気分に
		なった。というのも……

		「どの写真も、一条寺くんと一緒に居ますね」
		「てぇか、友也の膝の上が定位置になってんな」

		写真を撮った渡会健太を含む、高校生5人組が今日もまたボランティアで保育園に来ていたらしく、
		誰がどう見ても一番子守りに向いておらず、そもそも何故僕を巻き込むんですか。礼堂くん達なら、
		他に幾らでも誘えば乗ってくる友人が居るでしょう。な一条寺友也に、何故か懐いている直也を、
		友人達も銀河園長をはじめとする保育士達も面白がっている節があり、後で聞いたところに依れば、
		絵本を持って来た直也に
		「僕よりも、久野さんや礼堂くんの方がキチンと、上手に読んでくれると思いますが」
		などと言いつつーしかも感情を込めないにも程がある棒読みでー、お膝の上に座らせて読んで
		くれたり、オヤツのクッキーを、別に欲しい訳ではないけれどジッと見たら分けてくれたり 、
		「何故僕なんですか」とボヤきながらも割としっかり構ってくれたのだという。
		その様が珍しかったので、健太も激写しまくったらしいが、それにしたって、私にはこんなに
		べったり甘えてきたことは無いのに。と拗ねる直人に、下宿先の息子のタロウこと東光太郎は
		「ようこそ兄馬鹿の世界へ!」と腕を差し伸べたくなったが、すぐに自分が一人っ子なことを
		思い出し、密かに首を傾げていたが、
		「最近は、お昼寝の時間の間に現像出来てしまうのね」
		と、一緒に写真を見ながら感心している母のマリさんから
		「私達も、いい加減この子達みたいな、可愛らしい孫の顔を見たいものね」
		系の言葉が出る前に、用事を思い出した体でそそくさと退散した。
		そんな息子に、もちろんマリ母さんは気付いていたが、
		「この家で暮らした皆さんも、私達にとっては大切な家族ですからね。光太郎以外にも、子供や
		 孫は沢山居るんですよ」
		ニコリと微笑んでそう教えてくれる様は、流石は聖母と名高い銀隊長殿。と、一同大いに納得した
		所で、タイガ ノゾムことゼロが、ふと思い出した。

		「大隊長……じゃなくて、東の親父さんて、もしかして毎年サンタやってたりするんすか?」
		「ええ。今でもやっているわ。アスカくんから聞いたのかしら」
		「あー、ええ、まぁ、そんなことっす」

		こんだけ無駄にリンクしてんだから、やっぱそう来るよな。とのゼロの読みは当たっており、
		元下宿人のアスカ シンことダイナは、そういうの好きそうだもんな。と、他のメンツも
		情報源かと挙げられた名前に納得した。

		「今年は、小さい子が居るからいつも以上に張り切っているんですよ」
		「え。直也に、何かくれるんすか?」
		「お父さんがやりたくてやることですし、大したものではないから、気にしなくて大丈夫ですよ」

		アスカなどの元下宿人が、結婚相手や子供を連れて顔を出すことはあれど、子連れの下宿人が
		居たことは無いので、趣味で毎年サンタをしており、良い年した一人息子にはいい加減
		うっとうしがられており孫も居ないケン氏としては、それはもう全力でサンタ役をする気で
		いるのだという。それを聞いて、
		「もしや、俺らも直也にプレゼントやるべきなのか?」
		と気付いた(一応)大人4人は、バイト先の先輩などに相談して各自用意することにし、ついでに
		ケーキは運送屋でバイト中の岬大地ことグレンファイヤーが
		「うちの事務所にカタログあった気がすんぜ」
		というので一任したが、
		「レアチーズ系が良かったです」
		「俺はチョコのが」
		「ここはベタにいちごショートだろう」
		等々、彼が選んだ真っ赤なベリータルトに対し、寄ってたかってケチをつけたが、結果的には、
		タルトの上のアメ掛けの果物に、直也が「きらきら」とー分かり辛くー目を輝かせたので、
		なし崩しに仕方ないから認めてやんぜ。な空気になった。

		そして、各自が少ない予算で用意したプレゼントは、グレンはケーキと同じカタログから
		選んだというお取り寄せな珍味セットで、
		「それは貴方が食べたいもので、小さな子には向かないでしょう」
		と鏡京児ことミラーナイトに眉をしかめられたが、そういう京児も、手伝っているガイアこと
		高山我夢とアグルこと藤宮博也の研究室の女性陣のオススメの「自分へのご褒美v」の洋酒
		たっぷりのサバランも、幼児に食べさせられる筈がなく、別に自分の手柄でもないけど
		「うちの動物園には、ほんもんのトナカイも、他にも色んな動物が居んぜ」
		とドヤ顔で自分のバイト先の動物園の入園券を取り出したタイガが、色んな意味で一番良いとこ
		ついた気がしなくもなかったが、それ自分で買ったんじゃなくて先輩のコスモスこと春野ムサシに
		もらったんだろ。と、負け惜しみも合わせて大地も京児も評価が辛かった。
		そんな中、直人が「拙い出来だが」と差し出したのは、どこかの戦隊やアニメなどのものでも、
		自分達でもないロボットだった。


		「何だぁ。その、ロボっつーよりボロ。って感じのもんは」
		「工場長に工具をお借りして、休憩時間にクズ鉄で私が作った」
		『兄さんが作ったの?』
		「ああ。ナオへのプレゼントを作るランと共にな」

		ということで、ジャックこと郷秀樹の紹介で、知人というか師匠のアライソ氏の工場で働いている
		直人の一人勝ちなようで、やはり長年サンタをしているケン氏が
		「今年はこれが人気なようだな」
		と買ってくれたガンパットに、全部もっていかれたという(笑)
 


今年のクリスマスのラス1は8兄弟ネタでナインくんを愛でてみました