1.
毎度熾烈を究める予算会議だが、今年は例年と様相がだいぶ違っていた。
会計委員会の「燃えよ会計委員会!(以下略)」の掛け声はいつも通りだったが、
1番手に名乗りをあげたのが、6年の委員長は居ないわ委員長代理の5年ろ組の
八左ヱ門以外は下級生だわ度々脱走騒ぎは起こすわで、色々不利な筈の生物委員会で、
おまけに、1年生4人と先輩2人で2列に並び、何かを取り出して同じポーズを
決めたかと思うと、声を揃えて
「行け! ゴモラ!」
と叫んだ。
すると、周囲が「何やってんだコイツら」と思うよりも早く、体長7尺(約2.1m)程の
茶色い獣が現れ、会計委員長が突っ込みを入れる前に、再度ポーズを決めて
「ゴモラ! 超振動波だ!」
と叫ぶと、その獣が放ったとおぼしき衝撃波が、会計委員長の潮江文次郎を襲った。

「何だその獣は!? 生物委員会!」
「ゴモラです!」

ちょっぴりダメージ喰らってるけど怒鳴り返す体力あるって、アノ人ホントに人間?
と思いつつも、とりあえず虎若が代表して明後日な答えを返すと、
「名称を訊いてるんじゃねぇ! どこで拾って来やがった」
「三治郎がこの子を拾って、竹谷先輩と木下先生に飼っても良いですかって訊いたら、
『飼い主か親が見つかるまでな』って言われたんです」
「で、次の日に孫次郎が、そのゴモラを見つけたんですけど、ゴモラと一緒にこのお兄さんが
 居て、2匹共お兄さんの怪獣だけど、ここがどこかも帰り方もわかんないって言うので、
 お迎えが来てくれるまで、僕らがお世話する代わりに、手伝ってもらうことになったんです」

と、丸っこくて刺股のような角があってちょっとぬめっとした感じの薄黄色の生物を抱っこした
一平と、3寸位の青年を手の平に乗せた三治郎が説明した。

「ちなみに、一平が抱っこしているのは『リムエレキング』で、こちらの方はレイさんとおっしゃるそうです」
「リムは、電撃が撃てます……」

そんな補足を入れたのは孫兵と孫次郎で、

「……ソイツらの餌を、予算から出すことは認めねぇからな!」
「そこは、俺らの自腹とカンパで賄うから平気っすよ。その代わり、他の予算は認めて下さい」

ひとまず突っ込みを入れた文次郎に、「その言葉を待ってました」とばかりにすかさず答えた八左ヱ門の顔には
「認めてくれないなら、超振動波とリムの電撃もいっぺん喰らわしますよ」
と書いてあるのが、1年生達の目にすらはっきりと見てとれた。



2.
一番手で見事予算交渉に成功しそうな生物委員達の手にしていた、木彫りらしき物が何なのかと尋ねた団蔵に、

「レイさんが持ってる『バトルナイザー』ってのを模して、俺が彫った」
「その『ばとるないざー』っていうので、ゴモラを動かしてるんだってぇ」

との説明を返したのは、用具委員長の食満留三郎と用具1年のしんべヱで、

「喜三太がそのリムって獣を気に入って入り浸ってて、生物の1年坊主共から色々聞いてきて
『(レイが)かっこよくて、僕らもゴモラを操ってみたいなぁ』とか言ってた。って聞いた
 食満先輩が、動きだけでも真似てみたらどうだ。って作ってやったんす」
「最初は1年生のだけだったんですけど、『先輩達も一緒に』って、全員分作ったんですよねぇ」
「いや、ほら、俺らは良いって言ったら、『先輩達も一緒が良いです〜』とかアノ目で頼まれたら……」

作兵衛、平太の補足に弁解する八左ヱ門に、
(保父さんと兄馬鹿だもんなぁ、コイツら)
と、下級生に甘い上級生達の性質から、周囲は経緯を大いに納得した。


「あの、ところで、用具委員会の後ろにも、何か居るように見えるのは、僕の気の所為でしょうか……?」
「ううん。『れぎおのいど』のぉ、どっちが『あるふぁ』でどっちが『べぇた』でしたっけぇ?」
「えっと〜」
「たしか、穿孔機(ドリル)の方がαじゃ無かったかなぁ」

恐る恐る尋ねた左吉の指摘通り、用具委員会の後ろにも何かカラクリ仕掛けっぽいのが数体控えており、
良く見ると手足の作りが違う2種類がいた。

「俺が、馬鹿共捜してる最中に見つけて、先輩に修理してもらったら『仲間も直してくれ』みたいに次々来たんすよ」
「言っとくが、工具類以外は一切委員会の備品使ってねぇからな」
訊かれる前に、拾った経緯と修理にかかった経費は計上していないことを説明した
作兵衛と留三郎の顔には、やはり「予算認めないならコイツらけしかけるぞ」と書いてあったが、
そんなものに怯む会計委員会ではない。が、

「かかって来るってんなら、迎え撃つまでに決まってんだろうが。やれ、田村!」
「……」
「おい! どうした」
「魅入ってますね。アノ、手が円筒砲になってるやつに」

応戦を命じられた火器馬鹿の田村三木ヱ門は、レギオノイドの片方が気になって仕方ない様子だった。




3.
三木ヱ門が使えず、3年以下も端から戦力としてはイマイチ使えないし、アレを相手に接近戦挑むほど
馬鹿じゃねぇが、だからといって予算は認めねぇ。と徹底抗戦の構えを取る文次郎と、レギオノイド達を
従える留三郎とのにらみ合いに、水を差すならぬ岩を叩き込んだのは……

「体育委員会! せめてバレーボールにしとけ!」

てぇか、よくこんな大岩アタック出来たな。トス上げたの誰だ。と、半ば感心しつつ下手人とおぼしき
体育委員長に目を向けると、迷子の片割れである3年の次屋三之助の手綱を握りしめ「私は一応止めました」
と言いたげな滝夜叉丸と「僕達も頑張ったんです」と顔に書いてある12年生、次のアタックをかます気
満々の委員長七松小平太の横で、何気に小顔でつぶらな瞳のゴツい怪獣が、次の岩を掲げているのが目に入った。

「……この生き物は『レッドキング』というそうで、マラソン中に遭遇し、委員長と意気投合なさいました」

用具委員会と同じく、訊かれる前にため息混じりに答えた滝夜叉の顔には、
「私達に止められるとお思いで?」
と、くっきりはっきり書いてあった。


「あんな大きな岩を軽々と持ち上げて投げるなんて、すごい力ですね!」
「感心するなよ。これだからアホのは組は……」
「内輪揉めしてねぇで、盾になるような板でも持ってこい!」

レッドキングの怪力に目を輝かした団蔵を、左吉が心底呆れた目で馬鹿にしたが、2人まとめて文次郎に
怒鳴り飛ばされ、慌ててその指示に従った。しかし、くそ力でアタックされた大岩はあっさりと板を
叩き割った上に、間髪入れずに火炎放射が会計委員会を襲った。



4.

「てめぇらのは何だ、火薬委員会!」
「バードンですが何か」

流石に4組目ともなると突っ込むのも馬鹿馬鹿しくなってきていたが、一応とばかりに怒鳴ると、
シレッと返して来た火薬委員会の委員長代理久々知兵助は、バードンを拾った経緯を、

「学園の裏で、『拾って下さい』と書かれた箱に入っていた雛を伊助が拾い、しばらくは
 隠れて飼っていたけれど、土井先生に見つかり、元居た場所に返してくるように言われる前に、
『知っていて黙っていた自分も同罪だ』と三郎次が庇い……」

等々、拾った経緯を、淡々と、しかしお涙頂戴的なノリで語りだした。が、

「……。拾った時点で、既に成鳥だった気がするのは、私の気のせいかね、土井先生?」
「いえ。成鳥でしたし、拾って来たのはタカ丸ですよ、木下先生」
「だよなぁ」
「拾って来て、他の委員に見せようとしたところ『煙硝蔵は火気厳禁だと言っているだろうが!』と、
 首刈り(ラリアット)を食らった後で、腕十字固めを決められていましたね」
「そうか。しかし飼うことにして、生物委員の連中に餌や飼い方の助言を訊きに来たんだよな」
「ええ、そうです」

と、小声で火薬委員会の顧問の土井半助と、兵助の担任で生物委員会の顧問の木下鉄丸が囁きあっていた。

その間も、会計委員会と怪獣を伴った他の委員会の攻防は続いていた。



5.

「……何だそのふざけた鳴き声の生き物は」
「失礼な。最後で最強の宇宙恐竜だぞ、こやつは」

満を持して。と言わんばかりに悠々と歩を進めた作法委員会が連れていたのは、重低音の鳴き声と
ピロロロ音を響かせた黒い生き物と、半透明な黒ずくめの美女だった。

「ちなみに、ゼットンとケイトさんっていうそうです」
「ケイトさんは、生物委員の所のレイさんのお姉さんらしいです」

仙蔵の両脇からそう解説を加えたのは1年生の笹山兵太夫と黒門伝七で、残る34年生の作法委員達は、
4年の綾部喜八郎は普段通りあらぬ方向を見ており、3年で作法委員会最後の良心と密かに呼ばれている
浦風藤内は、ニコリともせずに「今回はツッコミを放棄しましたので」と、後方で情勢を眺めていた。

「こやつの特技は一兆度の火球とのことだが、食らってみるか?」

満面の笑みなのが逆に怖い仙蔵の言葉に、文次郎は「やってみろ」と返しかけたが、とばっちりを
くいたくない後輩達に依って止められた。




6.
生物も用具も体育も火薬も作法も怪獣を連れていたということは、図書と保健もか? と、会計委員達が
委員長をひとまず抑えつつ、身構えながら残る2委員会の方を見やると、確かに両委員会共謎の生き物は
居たが、どう見ても戦力とは思えない感じに見えた。

何しろ、何故か余裕を見せて和気あいあいとござを拡げて他の委員会と会計委員会の攻防を眺めている
図書委員会の委員長中在家長次の膝の上で大人しくしているのは、体長一尺(30.3cm)強の愛敬のある
黄色い生物で、
「出遅れちゃったけど、この子じゃ戦えないしねぇ」
となどと困った顔をしている保健委員会の1年生猪名寺乱太郎に抱っこされていたのは、たらこ唇の
可愛らしい赤い友好珍獣だったのだ。

しかし、図書委員会は守銭奴でバイトの鬼のきり丸曰く

「コイツ、ハネジローっていうらしいんスけど、頭良いしこの通り可愛いんで、売り子のバイトに
 連れてったらいつもの倍以上売れたしおひねりなんかももらえたんすよ。で、ここんとこずっと
 そうだし、コイツが居る間は、同じ手とか、いっそ見世物小屋とかやって稼げるとすると、俺と
 委員会で折半にしても、最低限の額さえ認めてもらえれば、予算足りそうな感じなんすよねぇ」

とのことで、保健委員会は困り顔の委員達とプルプル震えながら乱太郎の腕の中から見上げてくる
赤い生き物―ピグモン―との相乗効果で、
(どうせ弱気な案だし、認めてやっても良いかもな)
と―一瞬とはいえ―思いかけてしまう、哀れさと可愛らしさを醸していた。

とはいえ、図書委員会はともかく保健委員会の予算だけ無条件に認めるような真似は出来る訳が無い。
とすぐさま思い直しはしたが、他の委員会の連中が連れている怪獣に対抗出来る気もしねぇし、
どうしたもんか。と文次郎が間合いを取りつつ考えていると、後輩達も同じようなことを思ったのか、
「うちには力貸してくれる怪獣とか居ないんですかぁ」
とぼやいた。すると、「居ますよ」との返答が、顧問の安藤から、それはもう拍子抜けするほど
あっさりと帰って来た。

「どんな怪獣なんですか、安藤先生!」
「もちろん……モチロンです」

親父ギャグと共に安藤が紹介した怪獣は、手足と顔のついた臼にしか見えず、「戦力になるのか、コイツ?」と、
会計委員のみならず、その場に居たほぼ全員が思った。
そして、案の定あっさりとバードンの火炎放射でこんがり香ばしく焼けてしまった。



7.
香ばしく焼けたモチロンの中のモチは、すかさずきり丸が「俺コレ売って来ても良いすか」と許可をとり、
何かもううんざりしていた文次郎から「好きにしろ」との返事が返ってくるなり、用具委員会から台車を
借り、食堂のおばちゃんに頼んであんこや大根おろしなどを揃えると、ハネジローを連れて図書委員全員で
町に売りに行った。

そんな訳で、図書委員会は戦線離脱したし、保健委員会も敵ではないが、その他の委員会には全敗せざるを
得ないのか。と会計委員達が諦めた矢先。気色悪い笑い声に共に、管状の口や角が気持ち悪い青い生き物が現れた。

「真の助っ人は、この私。ヒッポリト星人 地獄のジャタールです。私は触れたもの全てを、ブロンズ像に
 変えることが出来るのだ」

自信満々なジャタールに、他の委員会だけでなく、助っ人される立場の会計委員達ですら「ウザい」とか
「キモい」と感じたが、触れるだけで動きを封じられる能力は、確かに厄介に思えた。
しかし、次の瞬間。

「てめぇは、また瞬殺されてぇようだな」

と、どこからともかく声が聞こえた。



8.
「うちのレイとピグモンと、ついでにハネジローに手ぇ出すやつは、この俺が許さねぇ!」
「誰!?」
「来ました! 親父だけでなく最近は義弟にもデレまくりで、ピグモンがヒロインで可愛モノ好きの、
 中二病で主人公補正掛かりまくりのチート野郎ゼロ! ちなみに、ピグモンはジャタールじゃなくて
 レッドキングに怯えてると思うけどな」
「えっと、あなたも誰ですか??」

いきなり現れ、ビシィとヒッポリト星人ジャタールを指差しポーズを決める、上級生と同じ位の年の
銀髪の少年と、同じくいつから居たのか謎のサーベル暴君(サーベル無)に、下級生達は大いに困惑したが、
当人達は割とお構いなしに会話を続けていた。

「……何でいんだよ、マグマ星人」
「ナイスの前座程定番じゃないけど、司会とかステージの進行の常連だよー、俺。なー、レイ。
 しょっちゅうナイスと一緒に、ステージショーなんかで会ってるよな?」
「うん。マグマ星人はよく居る」
「ああそうかよ。んじゃ、今回は敵はアイツだけで良いんだな」
「そうそう。レギちゃん達も怪獣達も、今回はお前サイド」

レイの言葉なら信じるんだ。とニヤニヤ笑うマグマをどついたゼロは、再度ジャタールの方を向き直りかけたが、
マグマの言葉に怪訝そうな顔で後ろを見た。

「はぁ!? ゴモラとか他の怪獣はともかく、レギオノイドが味方?」
「なおしてもらった。みかたする」
「へいか、おんはかえせといった」
「ベリアルが!?」
「お前みたいな一匹狼気取りの小僧と違って、極道の方が人情に厚くて義理堅いし、ベリアル陛下の人望と
 懐の深さはパないからあれだけ慕われてんだよ。知らなかったのかー、小僧(笑)」

いちいちイラっとくるが、コレ以上コイツにかまけてても仕方ねぇんで、後で師匠にチクる。と決めたゼロが、
腕を回しつつジャタールに三度向き直った時には、忍術学園の委員長―代理含む―達も、「要は触れなきゃ
良いんだろ」と判断を下し、各自連れている怪獣達に必殺技の構えを取らせていた。

更には、いつの間にかゼロ達にとっては馴染み深い、白を基調にした格好の女性に変装した学級委員5年の
鉢屋三郎が

「お友達のみんなー。ゼロ達に、『頑張れー』のエネルギーを送ろう! せーのっ、頑張れー。あれー?
 声が小さいな。もう一度。頑張れー」

と、ステージショーの司会のお姉さんを演じており、ノリの良い下級生達も、初めは面食らっていたが、
すぐに元気一杯「頑張れ」の声をゼロに送り始めた。

そんな訳で、ゼロ+怪獣達の総攻撃を受けたジャタールは瞬殺され、どうも本来の目的は異世界に迷い込んだ
レイと怪獣達を迎えに来させられたらしきゼロが、
「……『帰りはコマの端めくれば帰って来れるよ☆』とか言ってたけど、どういう意味だよ」
などとブツブツ言っているのが聞こえたので、落乱のお約束を教えてやって無事に全員―縛り上げたジャタール
含む―を元の世界に帰すことが出来た。

そして、「あんな無茶苦茶なのを認められっか」ということで、予算会議は後日仕切り直しとなったが、
怪獣騒ぎの後始末をした後だった為、大半の生徒―主に上級生達―が疲れ果てていたことにより、例年
より若干穏やかなようで、やっぱりそうでもないものになったのだった。




・生物 ゴモラ&リム
・体育 レッドキング
・用具 レギオノイドαβ
・図書 ハネジロー
・保健 ピグモン
・火薬 バードン
・作法 ゼットン
vs
会計 モチロン→ヒッポリト



僕と姉さんだけが楽しい、元拍手御礼でした。