※斑雪(女体化)仕様です
とある休日。墨などの日用品を買いに町に出掛けた竹谷八左ヱ門が、委員会の後輩達や友人達への 土産を買おうと、後輩達から聞いた評判の団子屋に立ち寄ると、「長蛇の列」とまではいかないが そこそこ人が並んでおり、その列に加わって順番を待っている間に聞こえた他の客の噂話によると、 最近新しく勤め始めた店員の娘が、少々愛想は足りないが働き者で可愛い。とのことらしかった。 確かに、列が進むにつれて見えて来た店内で働く娘は、テキパキと手際良く仕事こなしており、華やかな 着物が良く似合う綺麗な娘だったが、八左ヱ門は何かどこかで見たことあるような気がしたので、順番が 回って来て席に案内される時に顔をよく見ようとしたが、その前に娘の方に「ハチ?」と名を呼ばれた。 「え。……あ! 兵助!?」 「そうだけど……まぁ、とりあえずお席にどうぞ。それとも、お持ち帰りで?」 「えーと、じゃあ、ひとまず団子1皿」 一瞬面喰ってから、改めて娘を良く見れば、普段よりも華やかな着物を着て化粧もしているが、同期の くのいちの久々知兵助だった。 「お待たせしました」 「どうも。って、俺頼んだの団子1皿なのに、何で白玉までついてんだ?」 「ああ。お前のこと知り合いかって訊かれたんで、そうだって答えたら、店のおばちゃんがオマケしてくれた」 「そっか。……で、何でお前こんな所で働いてるんだ?」 「委員会の予算足りないから、きり丸にバイト紹介してもらった」 詳しく訊いた所、本来の店員が病気でしばらく休むことになった為、代わりの人間を探していたそうで、 その店員が復帰するまでの期間限定で、委員会のない日だけ放課後に働いている。という、よく考えると かなり予想の範疇の理由で、勤め始めて5日目になるが、先程並んでいる時に聞こえた噂の通り、中々 評判は良いらしい。 そして、普段よりも華やかな格好なのは、 「髪は斉藤、化粧は立花先輩にいじられて、着物は伝子さんのを借りた」 とのことだった。 そんな訳で、多少驚きはしたがすぐさま納得出来たので、働いている兵助を眺めつつ、頼んだ物を食べ 終えた八左ヱ門が、予定通り土産の分の団子を買って帰ろうとすると、 「あなた、兵助ちゃんの知り合いなんですってね」 と、店の女店主に声を掛けられた。 「はぁ、まぁそうですけど……」 「それじゃ、ちょっとお願いがあるんだけどね」 そういって店主は、他のお客の相手をしている兵助に聞こえないように小声で、兵助がしつこい客に 言い寄られていることを話し、 「本人は『大丈夫』って言ってるんだけど、ホントしつこくて迷惑してるのは明らかなのよ。でね、  お客として来てる分には、多少長く居座ってるとはいえ、他のお客さんの迷惑になるようなことも  してないし、お代もちゃんと払ってくれるんで無下にする訳にも行かないんだけど、兵助ちゃんの  上がりを待って、帰りにも付き纏ってるみたいなんで、良ければ帰りは迎えに来てあげてくれない  かしらね。あと、ほら、そのお客のことが無くても、暗くなって来ると若い女の子の一人歩きは  危険じゃないか」 と頼まれたが、八左ヱ門は兵助の素姓がくのいちであることを知っている為、尾行をまくのことも、 仮に襲われた所で返り討ちにすることも容易い筈だから、何の心配もないだろうと思った。けれど、 妙な行動をとって、目立ったり素姓を知られる訳にはいかないので、上手く立ち回れない可能性も 考えて、その頼みを引き受けてみた。 そして案の定、兵助当人には 「心配してくれるのはありがたいし、ただの村娘だと思われているから仕方ないけど、必要ないんだけどな」 と苦笑され、仕事中は下手に抵抗する訳にはいかないが、帰路は何にも問題がないことも聞いた。 それでも、 「おばちゃんの好意を無駄にするのは悪いし、変に断っても疑われそうだから、大人しく迎えに来られとけ」 ということで、連日迎えに行き、他愛もない話をしながら帰って来ている内に、言い寄ってきていた客は 諦めたようだったが、その一方で 「竹谷せんぱーい。最近、町の団子屋の娘さんに入れ込んでるって噂は、本当ですか?」 「誰だよ、そんな噂流した奴」 「さぁ? でも、最近放課後よく出掛けてますし、お団子とか大福を差し入れにくれますよね?」 そんな質問が、生物委員会の作業中に、後輩達から挙がった。 「……。兵助が、きり丸の紹介で団子屋でバイトしてて、たまたま団子買いに行った時に、そこの  おばちゃんに頼まれて、迎えに行ってんだよ。で、団子とかはそのお駄賃だ」 下手に誤魔化すよりは、ありのままを話してしまった方が良いと思って、簡潔に事情を説明すると、 「え。竹谷先輩、久々知先輩と付き合ってるんですか!?」 という反応が返って来たので、慌てて否定したが、 「違っ。そうじゃない。ホントに、偶々なんだって!」 「そうやって、むきになって否定する時って、大抵図星突かれた時だって、兵ちゃんが立花先輩から  聞いたって言ってました」 「確かに、作が何かをむきになって否定している時は、図星を突かれたことが多いな」 「ああ、うん。田村先輩を見てると良く解る。って、左吉も言ってた気がします」 などと、勝手に納得されてしまった。 更には、そんな生物委員会でのやり取りをどこで聞きつけたのか、数日後。 「何だ。この私がここまでお膳立てしてやったのに、まだ自覚すらしていないのか」 と、級友の鉢屋三郎に思い切り呆れられ、とりあえず噂の大本は発覚した。 「お前か、三郎! 無責任な噂流したのは!?」 「何を言う。良い機会なので、ヘタレな友人の背中を押してやったんだから、感謝しろ」 「余計なお世話だ。放っとけ!」 そんな、常に唯我独尊な愉快犯の三郎と、何を言っても無駄だと解りつつも抗議をする八左ヱ門の口論を、 眺めながら 「兵助は、『まぁ別に良いけど』って言ってたけどね」 と、爆弾発言をしたのは、自称「兵助の保護者」な尾浜勘右衛門だった。 「え」 「んー。だから、俺は一応ホントのこと知ってるから、兵助に噂のこと話して、訂正した方が良いのか  訊いてみたんだ。そしたら、『別に良い』って言ってたよ」 真意までは訊いても答えなかったが、兵助的には噂を否定しなくても良いみたい。と、茶をすすりながら 話す勘右衛門に、 「相変わらず、何考えてんだか読めないなアイツは」 と呟いた三郎は、火薬委員会の後輩達や、兵助と同じくのいちで親友同士の雷蔵にも探りを入れてみたが、 結局誰にも兵助の真意は解らず、意を決して八左ヱ門が本人に訊いてみても 「特に深い意味はないけど、何となく否定しなくても良いかと思った」 という、より一層困惑しか出来ないような答えが返って来た。 そして、八左ヱ門がグルグルと悩んでいる間にバイト期間が終わり、その後も兵助の態度は何ら変わることが 無かった為、未だに真相は闇の中だという。
3周年記念5本目兼竹久々1つ目 他の設定等は指定なしで「竹久々」とのリクエストが2本あったので、 こちらは室町女体化、もう1本は家族モノにしてみました 2011.6.25