ある日のこと。同い年だけど編入生で後輩な斉藤タカ丸くんに、
		「いさちゃんって、潮江くんと付き合ってるんだよね?」
		と訊かれた。

		「うん。まぁね。それがどうかしたの?」

		付き合い始めた当初から「信じられない」「冗談だろ」なんてことは散々言われてきたけど、
		タカ丸くんは他の誰かから聞いた時、割とあっさり
		「そうなんだぁ。案外お似合いだと思うよ〜」
		みたいな反応だったらしいし、こないだ彼自身の恋の橋渡しのお手伝い的なことをした時、
		それなりに色々語ったんだけどなぁ。
		なんて思っていたら、

		「えっと、参考までに訊きたいだけなんだけど、卒業したらどうするのかなぁ。って思って……」

		ああ、そういうことか。確かに僕らはもうじき卒業だし、僕の親友で、タカ丸くんがようやく
		口説き落とした恋人の喜八郎の先輩な仙蔵は、
		「卒業までの期間限定は嫌だから」
		って言って、想い人がいるのに意地張ってるもんねぇ。

		「とりあえず、別れる気は無いよ。かといって、すぐに所帯を持つ気もない」

		そう答えると、タカ丸くんは首を傾げた。

		「幸いにも、僕らは2人共武家の出じゃないから、許婚も居ないし、家の為に嫁いだり嫁を
		 貰う必要もないんだ。だから、『僕は村に帰って薬師をしているから、文次は忍びとして
		 ある程度やっていけるようになったら、迎えに来てね』って」

		ちなみにこの提案は、他愛のない雑談中に、ふと「卒業したらどうしようか?」と訊いてみたら、
		妙な所が真面目な文次郎が、何かグルグル悩み出したんで、試しに思い付いたことを言ってみたら
		通ったものなんで、僕的には通い婚状態でも何でも、別にいいんだけどね。


		「そっかぁ。何か、いさちゃん達らしくって良いねぇ」
		「そう?」
		「うん。いさちゃんが待っててくれるって思ったら、潮江くんは何があっても頑張れそうだし」
		「だと良いなぁ」

		普段は、こういう話をしようとしても、留さんや仙や5年の子達には「勝手にやってろ」とか
		「惚気は結構です」とか言われるし、こへも「ごちそーさま」とか言って逃げちゃうし、長次も
		一応相槌は打ってくれる位だから、マトモに聞いてくれて、素直な感想や賛同を得られるのは、
		嬉しいけどちょっぴり恥ずかしいかも。

		「……オレも、そんな感じになれたら良いなぁ。あーでも、綾ちゃんの進路とか、お家の話は
		 まだ聞いてないしなぁ」
		「大丈夫だよ、きっと。仙も、『喜八郎があそこまで斉藤にオチるとは思わなかった』って
		 言ってたし」

		元々髪結いの家に生まれ、色々あって忍術学園に編入してきたけど、今の所卒業後は家業を
		継ぐつもりらしいタカ丸くんと、喜八郎が卒業後くのいちになったら、僕達とは逆の感じに
		なるけど、この2人なら上手くいくと思う。……けど、そもそも喜八郎は、忍びの道を選ぶ
		つもりでいるのかな? いや、でも、どんな進路を選んでも、どうにかなりそう。
		それが、僕の彼らに対する率直な認識なんだけど、間違ってないよね。

		
		「うん。ありがとうね〜、話聞かせてもらって」
		「この程度で良いなら、お安い御用だよ」
		
		気が済んだらしく、笑って帰っていくタカ丸くんに、笑顔で手を振りながら、彼に貰った肯定の
		言葉を、そっと噛み締めた。

		「……僕の存在が、文次が生き急がない為の、歯止めになってくれるといいんだけどね」

		文次郎は、今の段階で既にあんな忍者馬鹿だから、きっと卒業して本職になったら、己が身より
		忍務を優先するようになる。それでも、無用な傷を作ること嫌がり、「自分の身体を大事にして」
		と口煩く言う僕を想って、ほんの少しでも己が身を顧みたり、僕や、いずれ生まれて来るかも
		しれない子供の為に、生きて帰って来てくれるようになってくれたらと、心から願う。

		……本当は、待つしか出来ないことは、ちょっとだけ嫌なんだ。




『斑雪』版の文伊の未来は、こんな感じがらしいかなぁ……と。 2011.1.30