小さい頃から、母さんの新しい恋人に引き合わされるのが嫌いだった。
	といっても、母さんを取られたく無かった。とか、母さんの「女」な面を見たく無かった。とか、そういう訳
	では無い。 

	嫌だったのは、母さんや妹の兵太夫、伝七と比べられることや、「似ていない」と言われること。というか、
	そういうことを口や態度に出して、母さんの逆鱗に触れる相手を見ることや、逆に気遣って触れないように
	されることが、嫌で堪らなかった。

	ちなみに余談になるが、今までその手のことを言って許されたのは、身内や
	「女の子はみんな可愛いよね」
	が信条のタカ丸さん以外では、

	「先生のとこって、お嬢さん達もお孫さんも、みんな系統違うけど美人さんや美少女揃いでいいですねぇ。
	 藤内ちゃんは赤ちゃんの時から可愛かったけど、仙蔵さんとは別路線の美人さんに育ちそうで、お年頃
	 だから心配じゃないですか?」

	とか(多分)本気で言った、じい様の元教え子兼雷蔵さんの友達―で、ついでに三郎兄さんの高校の先生―な
	尾浜さん位のもので、何故赤ん坊の頃の俺を知っているのか母さんに訊いてみたら、

	「不破の大学受験の為に、父さんや留三郎が勉強を見てやっていた時期には、私はまだお前を連れて実家に
	 居たからな。よく子守りを引き受けていた尾浜も、ちょくちょく顔を出していたので面識があるんだ」

	とのことで、その後就職してからは赴任先が遠かったりしたので、最近こっちに帰ってくるまで顔を出すことが
	無かったので、俺の方は良く覚えていないらしい。


	本音を言えば、俺は自分が母さんや滝夜叉丸叔母さんや妹達みたいな、目立つ美人じゃないのは解っているし、
	今ひとつ性格にも可愛げがないことも重々承知していて、そのことを卑下したりしていない。だけど母さんも
	妹達も―時々従弟の数馬辺りまで―、俺の代わりに怒ってくれる。それが、多分一番嫌なんだ。
	傷付いていないのに、庇われ守られるのは、逆に傷付けられている気がしてならない。それでも、善意だって
	ことも、愛されている証拠だってことも解っているから、文句は言えない。……その辺りがジレンマになって
	いるんだろうな。


							◇


	雑談中に
	「妹達と似ていないよな」
	と言われたので、
	「それ、ウチの家族の前で言うなよ」
	と苦笑してから、説明も兼ねてそんな心情を話した数日後。
	「お前に似合うことわざを見付けた」
	と木下(孫兵)が挙げたことわざは『瑠璃も玻璃も照らせば光る』で、
	「照らす光が今まで無かっただけだと、僕は思うが?」
	と付け加えられたが、何が言いたいのか解らずにいたら、思わせぶりな笑顔で

	「ことわざの意味と、『玻璃』とは何のことか、お祖父さんに聞いてみるといい。国語の先生なんだよな?」

	そんな風に言われたけど、『玻璃』はガラスのことで、ことわざの意味は「似ているけど、光に照らせば解る」
	とか、そんな感じだろ? とは思ったが、一応じい様に訊いてみた。すると

	「確かに『玻璃』はガラスの別名だが、水晶のことでもあり、青色の宝玉である瑠璃と共に、七宝の1つだ。
	 ことわざの意味は、『物は違っても、優れたものは光を当てると同じように輝く』『才能や素質は活用の仕方
	 次第で、その真価を存分に発揮するということ』で、似たことわざに『瑠璃も玻璃も照らせば分かる』という
	 ものがあり、それは『よく似ている物でも、方法次第によってその違いが解る』という意味だ」

	という答えが返ってきた。……じい様が、どこまで俺の意図を読んでいたかは解らないけど、つまり木下が
	言いたかったのは、母さん達とは似て無いけど、「俺には俺の魅力がある」とか、そう言う意味か? いや、
	でも、多分アイツにそんな他意は無い……よな? アイツの弟で兵太夫の彼氏(?)の三治郎曰く、
	「無自覚なタラシ気質」
	らしいし……




五万打記念企画 さやはる様リクエスト 「転生モノ又は家族モノ/藤内メイン/瑠璃も玻璃も照らせば光る」 みんなに一目おかれている藤内が読みたいです。 孫兵落ちだとさらに嬉しかったりします。 とのことでしたが、何か違う代物になりましたスイマセン。 とりあえず、一家の姫様要素と、孫兵オチだけは頑張って入れてみましたが…… こんな代物でもよろしいでしょうか、さやはる様? 2010.4.12