最年少の秋市達も成人し、三重を娶った閧志以外にも、所帯を持ち子供も生まれた者が半数近くなってきても、
三十路越えの最年長者2人が未だ嫁を貰う気がなさげな事に関して、「何で?」と無邪気に訊ねた怖いもの
知らずもいれば、我が子を見せびらかして「子供可愛いぜ?」と勧めてきた者も居た。
それに対し、主匪は

「三つ目に引かねぇ女なんてそうそう居ねぇし、頭として、お前ら全員の行く末を見届けなきゃなんねぇ
 ような気がすんだよ」

と、もっともらしい言い訳をしており、宮も「夜明の奴が嫁さん貰ってガキが生まれたら考える」とのこと
だったが、主匪の三つ目はともかく、夜明はあんまり関係無いんじゃ……と、首を傾げると

「もし万一、夜明の奴にガキが居なくて、俺の方には居てみろ。『双児なのだから直系に等しい』とか何とか
 いって、夜橋に取り上げられる可能性が無ぇとは言えねぇだろ。んな状況、想像しただけで虫唾が走んだよ」

吐き捨てるようにそう言われてしまったら、「名のある一族に連なってるって大変なんだな」とか「ホント、
夜明以外の一族の連中嫌いなんだな」「あー、コイツ、12ん時から綺麗な面して性格ねじれてっから」とか
そんな感じに引き下がるしかなかった。


そんなある日。畑仕事に出ていた秋市、夕吾、深鳴の3人が、何かを抱えて「主匪ー。どうしよう」と
言いながら帰って来た。
ここ数年は、大抵のことは自分達で判断し、滅多なことでは端っから頼って来ることはないのに何が
あったのかと家に居た全員が見に行くと、深鳴と夕吾が1人ずつ赤ん坊を抱いており、やけに大きな
籠を持った秋市が、「この中に入れられて、家の前に置き去りにされてたんだけど……」と説明した。

「マジかよ。誰の子だ?」
「何か手掛かりになりそうなもんがその籠の中にねぇか、調べてみろ」
「あと、誰でも良いから、閧志んとこ行って三重連れて来い」

パッと見からすると、首は座っているがまだ1歳には満たない程度っぽいってことは、残っている連中か、
ここ1年半前後の間に嫁を貰って出て行った奴だとすると……。と父親捜しをしつつ、父親が判明するに
しても置き去りにした母親が連れ戻しに来るにしても、ひとまずそれまではここで面倒を見ることになる
訳だが、こんなに小さい子供は、自分達だけでは手に負えないだろう。ということで、1歳半になる娘の
居る三重に協力を求めることにした。


しかし、夕吾が三重を連れて来るまでの間に、籠の中から見つかった手紙から、子供達の名前―双児で、
「ひとみ」と「あかり」とあった―と、警備隊の誰かの子供では無いことが判明した。
その手紙に依れば―村の名は故意に伏せてあったが―、母親は以前警備隊の者達が何度か訪れたことのある
近隣の村の住人ではあるが、その村で生まれ育った訳ではなく、故郷の村で結婚を反対され、駆け落ちした
相手と共に2人で移住してきて子供も生まれたが、その夫がつい先日事故で亡くなったのだという。そして、
村の人達は自分に冷たい訳ではないが、まだそこまでは打ち解けておらず、実家に帰る訳にもいかないため
途方に暮れている時に、以前村に来た警備隊のことを思い出し、藁にも縋る思いで子供達を託しに来た。
と書かれていた。

手紙を読み終えた面々は、そのあまりに身勝手な理屈と、今でも子供を捨てる親が居ることに憤ったが、
後から羅貫に「哀しいことではあるけど、こっちの世界にもそういう親は居るから……」と言われたり、
母となった三重の、「周りに誰も頼れる方が居ないと行き詰ってしまう気持ちは、少しだけ解らなくも
ないです」との証言から、「この子らに罪は無いし、そんな親に育てられなくって、逆に良かったんだ」
と結論付けて、責任を持って里親を探すことに決めた。

更に、三重や独立した面々の妻達や近所の女性達に手助けしてもらいながら面倒を見る内に解って来たのは、
あかりの方は少々身体が弱く、すぐに熱を出したり食べた物を吐いたりと手が掛かることや、片方が泣いて
いるともう片方も泣きだすこと。2人一緒にしておかないと手がつけられない程にぐずり出すことなどで、
「確かにコレは、音を上げたくなるかもしんねぇな」
と、ほんの僅かながら、子供達を手放した母親の苦労が解らないでも無い気がしたが、それでもやっぱり
赦せない行為であることは間違いなかった。






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