元数字の子のちサノメの皇子の警備隊こと沢一族の実家前に置き去りにされていた双児の乳児─「ひとみ」と
「あかり」─は、首は座っていて1人でお座りも出来、ひとみの方はつかまり立ちも出来るがあかりの方は
出来ない辺りから、推定8ヶ月程度と判断され、多少人見知りはするが、とりあえず主匪の三つ目もクロも
怖がりはしなかった。そのため、念のため三重にしばらく泊まってもらったり、他数人の所帯持ちの妻達にも
通ってもらうことにはしたが、拾った翌日の夜に所帯を持ち独立した者達も招集し、全員で相談した結果。

「俺らを棄てた連中みたいな実の親に育てられるより、歌支村の人達みたいな人に引き取ってもらえた方が、
 この子達にとって幸せだよな」

との結論で満場一致したので、基本的には沢の男達で面倒をみながら、里親を探すことになった。

しかし、以前に比べれば格段に暮らし向きは良くなったと言っても、最も手の掛かる乳児期─しかも片方は
少々病弱─の子供を2人まとめて引き取れるような余裕のある者は、中々見つからなかった。

そんなこんなで里親探しが難航していたある日。珍しく、あかりではなくひとみが熱を出した。乳児にありがちな
突発的な発熱で、さほど高熱でも無かったが、一晩様子を見ても熱が下がらなかったため、念の為に夜明に診て
もらうか。と宮が2人を連れて夜橋の屋敷を訪れると、開口一番

「お前、その子供、いつの間に産んだんだ」
「……よし。歯ぁ食い縛れ夜明」
「何するんだよ!」
「双児の片割れ、しかも薬師のだ。が、何ふざけたこと抜かしてんだよ!」

あまりのすっとんきょうであり得ない反応に、宮が─双児で両腕が塞がっているので─膝蹴りをかますと、夜明は
憮然とした顔で抗議したが、んな表情してぇのはこっちだよ。「どこの女に生ませた」とか「誰の隠し子だ」なら
まだしも、俺が男なことも、男にガキが産めねぇことも、誰よりもよく知ってんだろうが。と宮が怒鳴り返すと、
夜明は

「……。口が滑っただけだろ」

と、不貞腐た顔をしたが、だからんな顔してぇのはこっちだっての。との文句は、水掛け論になるだけなので
飲み込み、

「ああそうかよ。とりあえず、俺は間違いなくお前と同じ男で、コイツらはうちの誰のガキでもねぇよ。うちの前に
 置き去りにされてて、今引き取り先探してんだ」

だから、お前も何か伝手があったら協力しろ。と宮が説明すると、夜明は「実の親は」と尋ねた。

「旦那が死んで、コイツらを持て余した母親が棄てたみてぇでな。んなろくでもねぇ親の元に返すよか、大切に
 育ててくれそうな人達を見つけた方が、よっぽどコイツらのためになるだろ」
「……そうか。それじゃ、一応俺の方でも探してはみる」

もう何年も前に、可岸葎可の治療の手伝いのために度々夜橋の屋敷を訪れていた宮に「帰って来ないのか」と
尋ねた際、「俺の帰る場所はこの家じゃねぇよ」との返答と共に、「宮」の意味と、一生その恨みを忘れる気は
ないことを聞かされていた夜明には、そう答えることしか出来なかった。





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