休日に街中をぶらついていたら、私の可愛い姪っ子が、キャッチセールス系の、頭の悪そうな
若い男に声を掛けられてるのを目撃した。
しかし、私が割り込んで行って助け船を出すまでもなく、ガン無視して歩き去って行った様は、
流石アノ義姉君の第一子。普段は好き放題生きている母親と妹達に苦労させられているように
見えていたが、迫力と本質はやはりご同類だったか。
×××
「……という話を、三郎から聞いたんです」
そう話題を振ったのは父長次の後妻雷蔵で、それに対し次男小平太の妻滝夜叉丸が
「確かに、藤内も下の子達も、仙蔵さん似の綺麗な子ですものね。私や喜八郎もですが、
お義姉さん達もアノ手の輩にはウンザリしておいででしょう?」
と賛同したが、
「その手の阿呆に声を掛けられるとは、まだまだだな藤内も」
「まだ中学生なんだから仕方ないと思うけど、仙は昔から、ナンパもキャッチセールスも痴漢も宗教の勧誘も、
ほとんど寄せつけなかったもんねぇ」
「そうそう。逆に伊作姉ちゃんはそういうのホイホイで、待ち合わせる度に何かに捕まってるからって、
わざわざうちまで迎えに来ては、兄ちゃん達と鉢合わせてバトってたよな、文次」
「……隙が多過ぎんだよ、コイツは」
との、意外な証言が返って来た。
「そうなのですか!?」
「ああ。けど、露出系の変態遭遇率は、仙蔵の方が高いよな」
「そういえばそうだねぇ。やっぱり、澄ました美人の顔が歪むのを見たいからかな?」
「だろうな。……ひるむ所か歯牙にも掛けず、鼻で笑って心を折るような奴だから、見当違いだろうけどな」
「あのような害虫共には、反応してやるだけ良い方だろう」
更に続いた兄妹のやり取りに、雷蔵も滝夜叉丸も目を丸くしていたが、
「そういえば、小学校で変質者の情報が回って来た時に、『そういう奴に会った時は、「小さい」って呟くか、
鼻で笑えば良いんだ。って兵太夫達から聞いた』ときり丸が言っていましたけど、アレって……」
「私の教えだな。しかし、基本的には相手にせず、無視するよう教えた筈だ」
「兵ちゃん達の場合、余計なことを言って逆上させたりしそうで危ないよねぇ。まぁ、そういう時は、急所に
物を投げたり、砂とかで目潰しして逃げるんだよ。って教えてはあるけど」
ハタと気付いた雷蔵の呟きに、仙蔵は一言多く調子に乗り易い下の娘達を浮かべ苦い顔をしたが、それよりも
さらっと物騒な撃退法を口にした伊作の方が問題な気がしなくも無かった。
「何にせよ、この女に声を掛けんのなんて、空気が読めねぇか命知らずしか居ねぇってことだ」
「はぁ。そうですか。しかし、何故お義兄さんが……」
「文次のお姉さんの照代ちゃんが、仙の類友な親友だからだよ」
仙蔵とは険悪な、次女伊作の夫文次郎が総評したことに滝夜叉丸は違和感を感じたが、伊作曰く文次郎の姉
照代と仙蔵は、良く似たタイプの友人同士で、実弟より親友の妹兼義妹が可愛いらしく、結託して文次郎を
いびる上、学生時代は「お前んとこの姉ちゃん美人だな」で粉を掛けてこっぴどく振られたクラスメイトに
散々絡まれてきた為、嫌という程姉達のことを解っているのだという。
「藤内ちゃんは仙程じゃないし、双児ちゃんも若干詰めが甘いけど、やっぱり近寄りがたい感じに育つのかなぁ」
そんな伊作の予想の結果が出るのは、少し先の話だが、結果的には義妹に当たるきり丸が一番仙蔵タイプに
育つのではないかと、父であり祖父である長次は予想しつつ、このやり取りを―口を挟まず―眺めていたと
いう。
4周年記念 おりづる様リクエスト1つ目
家族物の作法一家で「あいつらをナンパするなんて、どこの馬鹿者だ(by文次)」とのことでしたが、
こんな感じでよろしいですか?
2012.6.15
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