私―大川三郎―の母親は、未婚の母かつ15歳の母で、私が生まれる前に亡くなった父親は、親同士が
骨肉の争いを今でも繰り広げている従兄妹で、死因は表向き事故だが実際は限りなく事件のような
ものらしく、優等生の皮を被った問題児だったという。
そして私自身、そんな父親と同じ名―父は鉢屋三郎という―をつけられ、性格や言動も「クローン」と
言われる程にそっくりらしく、母である雷蔵を名前呼びしていることもあり、親戚には陰でも面と
向かっても、散々色んなことを言われた。
けれど、たとえば父の生前の悪行に関しては、噂の域を出ない親戚の話よりも詳しい内容を、雷蔵や
大川の爺様や雷蔵達の友人の尾浜勘右衛門から聞いていて、特に勘右衛門は
「雷蔵も知らないかもしれない鉢屋の武勇伝☆」
とか称して、かなりヤバい話までケラケラ笑いながらしてくれたし、「私にもそういった裏の顔が
あるんじゃないか」との疑惑も、ひとまず私自身としては雷蔵を困らせる気はないので、裏表なく
大人を舐めた態度を取っている程度で、そのことを雷蔵達が解っていれば、周囲にはどう思われて
いようと構わないと思っている。
それから、まだ父に生き写しに育つ前の幼児期には「本当に父親は鉢屋三郎なのか」的なことも散々
言われたそうだが、勘右衛門曰く
「アノ鉢屋が、雷蔵に他の男近付ける訳無いじゃん(笑)」
とのことで、「じゃあお前は何なんだ」と返したら「俺、男としてカウントされてないもん」と言われた。
けれど、周囲はそうは思っていないようで、妊娠が発覚した際に学校側で唯一味方についてくれた当時の
担任である中在家長次との結婚が決まった時など、かなり下世話なことを言われたらしく、それにキレた
雷蔵が自腹でDNA鑑定をしてその結果を叩きつけて以降、そこだけは証明されたので言われなくなった
らしいが、未だに中在家の義父に対して下世話な噂を立てたり、中傷するような輩も居るという。
しかし、当の義父本人は
「言わせたい者には言わせておけば良い」
と全く気にしていないとかで、その話を聞いた時。改めて、悔しいが格好良くて、誰よりも尊敬に値する
人だと思った。
そう、はとこに当たる庄左ヱ門達に話した所、ひどく驚かれたが、私はアノ義父に関しては、「雷蔵の
夫である」という一点を除けば、数少ない「信頼や尊敬の出来る大人」の中でも、最も優れた人物だと
認めている。
そう。そこも誤解されがちだが、私は義父もその子供である義理の兄姉も、父親が違う弟妹達も、皆
好ましく思っている。ただ、結婚が決まった当時の私にとっては、雷蔵が全てで、私から雷蔵を奪う
者はすべからく敵だった。だから中在家の家に引き取られることを拒み爺様の元に残ったが、義父も
義兄姉もそれを認めてくれ、「家族と思いたくないなら思わなくて良いよ」とすら言ってくれた。
後になって聞いた話によれば、中学を卒業後も勉強を見てもらったり私を預けたりで、雷蔵は度々
中在家の家に出入りしていたらしく、その時にあの家族への憧れを口にした所、「嫁」と「娘」の
好きな方を選んでいい。と言われ、散々悩んだ挙句
「養子縁組は親戚に色々ごちゃごちゃ言われそうだし、お前にお父さんとお兄さんお姉さんが出来て、
しかもあの人達っていうのは、すごく良いなぁ。って思ったんだ」
という理由で「嫁」の方を採ったらしく、弟妹については、まだ兄弟のできる仕組みの解っていなかった
私に「弟や妹欲しい?」と訊いてみたら「欲しい」と返って来たので産んだ。と言われた。
その他では、爺様が古希(70歳)を期に財産を妻2人>娘3人>孫達の順に均等に生前分与し、残りは
全て慈善団体に寄付すると決めるまで、「死んだ三郎の分の遺産を狙っているのか」と言われ続けて
いたらしいが、実は父が生前株や証券で相当稼いでいた隠し口座があるので、全く金に困っていない
こともあり遺産は全て断ったし、私が雷蔵を名前で呼び、タメ口を利くことに嫌味を言われたことも
あるが、ソレ以降、盆暮れ正月や爺様の誕生日などで親戚が集う場に同席しなければならない時には、
雷蔵を「母さん」と呼び、どの孫やひ孫よりも丁寧で正しい言葉遣い―国語教師の義父監修―をして
いるので、逆に反感は買っているが表立って文句はつけられていない。
等々、ほとんどの嫌味は「気にしない」「洟も引っかけない」「笑い飛ばす」のどれかで、そのことが
また嫌味に繋がっているのは解っているが、あんな低俗な連中にどう思われ、何を言われようと、別に
痛くも痒くもないと思っている。
「そういうとこも、鉢屋そっくりだよねぇ」
との勘右衛門の感想すら、褒め言葉として受け取ることにしているが、何か問題があるとでも?
3週年記念7つめ
大川家+雷蔵で「なんかの用事で大川じいさんに会いに来た親戚に、三郎が傷つくようなことを言われる。
それに対する周囲の反応や対応」
とのリクエストでしたが、幼少期に「こんなの耳に入れたくない」と雷蔵が逃げていた以外は、
特に気にしないのが三郎じゃないかと思った結果こんな感じに……
2011.7.3
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