ある日、ちゃらんぽらんでストーカーな叔父の元で暮らしている諸泉尊奈門(9)は、ふと
「俺って、伊作先生んちの人達にどう思われてんだろ」
と気になった。
というのも、叔父である雑渡昆奈門が執着している相手―潮江伊作―は、自分が通っていた保育所の
保育士で、同じクラスの友人中在家四郎兵衛の伯母で、学年は違うが彼女の子供達の半分以上は同じ
小学校に通っている。
その内、四郎兵衛が伊作の甥であることだけは、尊奈門自身に関しては生活態度も交友関係もあまり
興味を持たれていないのでバレていないが、「友達んちに遊びor泊りに行ってくる」が、四郎兵衛の
家ではなく伊作の家だったり、伊作からおかずのお裾分けやおやつをもらったり、四郎兵衛の家で
伊作と顔を合わせることなども多い。
その一方で、元園児や同じ小学校なことをフル活用して、お使いや伝言をさせられることも頻繁に
ある為、―良く思われている可能性は有り得ないが―総合的にどう思われているのかが、何となく
気になったのだった。
そんな話を、まずは四郎兵衛に相談してみた所。実にあっさりと
「じゃあ訊いてみようよ」
と返され、折角なので子供達だけでなく伊作の夫である文次郎も休みで居る日曜に、潮江家を訪れる
ことになった。
「ということで、みんなは尊ちゃんをどう思ってますか?」
「しろの友達」
「いや、左門。そういうこと訊いてるんじゃないから。……僕は、どちらかと言えば嫌い。だけど、
母さんが『元園児はみんな可愛いし、尊奈門くんは良い子だよ』って言ってるから……」
「うん。あと、さも兄の言う通り、確かにしろにとって良い友達みたいだしね」
尊奈門自身ではなく、一欠片も悪気のない調子でニコニコ問い掛けた四郎兵衛と、ズバッと簡潔に
答えた兄弟一単純馬鹿な次男左門(11)に、潮江家の面々は呆気にとられたというか毒気を抜かれた。
しかし、とりあえず弟にツッコミを入れてから、率直ながら苦虫を噛み潰したような顔で答えたのは、
マザコン傾向のある長男数馬(14)で、兄2人に同意するように付け加えたのは長女の左近(10)だった。
「ぼくキライ。お母さんこまってるもん」
「んー。おれは、雑渡のおっちゃんはこまるけど、尊兄は嫌いじゃない」
兄姉に続いて答えたのは、数馬に並んで「お母さん第一」な左吉(7)と、兄弟で2番目に単純な思考
回路を持つ団蔵(7)の双児で、上の双児と年子な下の双児達は、2人共イマイチ良く解っていない
ような顔をしていたが、
「尊兄ちゃん、きらいじゃないよ」
な乱太郎はともかく、
「ざっとさんも尊にーちゃんもすきー」
と常日頃から言っている伏木蔵は、それはそれで問題だろう。と、尊奈門は思った。
そんな訳で、子供達は基本的に容認もしくは黙認であることが確認出来た後。
それらのコメントを聞いていた文次郎に、恐る恐る目を向けると、彼は―少なくとも尊奈門が知る限り
では―いつも通りの仏頂面で、まず
「正直、『お前さえ居なけりゃ』と思ったことはある」
と告げてから、根拠を話しはじめた。
「この際だからハッキリ言っておくが、お前の叔父に当たるあの男が伊作に付き纏っていることを知った
時、俺は通報すべきだと思ったんだが、伊作がお前から保護者を奪う訳にはいかないからと、それを
止めたんだ。んで、確かにろくに世話はしていないようだが、育児放棄とまでは行っていねぇし虐待に
当たるような真似もしていないようだってんで、未だに野放しにせざるを得ねぇ状況だし、そもそも
アイツが伊作と知り合ったのは、お前を預けたことでだろ」
文次郎がそこまで話した所で、解ってはいたが改めて付きつけられると罪悪感を覚える事実に、少々
凹んだ尊奈門が
「……確かに、俺居なかったら叔父さんと保育園の先生が知り合うこと無いし、この辺りに引っ越しても
来なかったですよね。てことは、俺居ない方が良かったですか?」
と問うと、文次郎は「そこまでは言ってねぇよ」と返してから
「お前はまだガキだから保護者が必要で、あの男と施設なんかとどっちがマシかは、お前が決めて良い。
あとは、実の親兄弟だろうが親戚だろうが、反りがあわねぇんなら縁切っても構わねえと、俺も伊作も
思ってっから」
と付け加えた。
その言葉が、尊奈門には意外だったが、彼が知らないだけで文次郎は実父夏之丞と折り合いが悪く、
更に伊作の父長次の後妻雷蔵は、祖父以外との親戚と縁を切って久しく、
「あの人(達)と一緒にしないで欲しい」
と文次郎も雷蔵も思っている節がある為、そういった発想が出ても何の不思議も無かったりする。
そんなこんなを踏まえ、尊奈門は
「もしも俺が18になっても叔父さんがあのままだったら、俺が通報しようかな」
と思わなくも無かったという。
3周年記念10個目
「潮江家の人たちは尊ちゃんのことをどう思っているのか」の答えを、そのまま書いてみました。
伊作自身の見解は、数馬と文次の答えの中に挙げられてる通り。ということで
2011.7.24
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