その家を初めて訪れた人間の大半は、寮か合宿所や保養所でもやっているのかと思う。
	それほどまでに、中在家(小平太)宅は広い古民家で、玄関には野菜の段ボールが積まれ、一合炊きの
	炊飯器や炊き出しにも使えそうな大鍋が台所に並んでいる。

	だがしかし、妻滝夜叉丸の祖父斉藤幸丸が購入する以前は知らないが、幸丸の生前は来客や下宿人
	というか居候が大勢居て騒がしがったこともあるようだが、その頃から幸丸の息子で滝夜叉丸達の
	父親である幸隆は不在がちで、幸丸の死んだ数年後に幸隆が離婚して以降は、だだっ広い家に兄妹
	4人だけで過ごしていた時期もあり、滝夜叉丸の結婚を期に
	「ここなら家賃も要らないから」
	と譲られ、現在は家族5人に時々親戚や子供達の友人達が泊りに来ることもある程度で、大量の
	食材や調理道具は、家長の小平太を筆頭に息子3人も食事の量が多い為だが、年に数回小平太の
	叔父新野洋一の保育園や、町内会の行事に貸し出されることも無くは無い。

	そしてその無駄に広い家の隣には、それに見合う広さの庭があり、滝夜叉丸が丹精しているその庭には、
	春になると色取り取りの花が咲き誇っているが、その殆どが野菜の花や食べられるハーブだったりする。
	それは、勿論前述の通り食費が掛かるのを、少しでも抑えるためであり、同時に本当は「素敵な奥さん」
	的なものに憧れていた滝夜叉丸が、「野菜の花だって案外綺麗だし、収穫時期以外はガーデニングと似た
	ようなものではないか」と自己暗示をかけつつ、半ば自己満足の為に育てていると言えなくもない。

	
	滝夜叉丸の、自己満足兼家計の足しにしている行為には、その他に布を1反単位で買ってきて、息子3人に
	同じものを2〜3セットずつ縫い、余り布で袋物やクッションなどを作り、保育所のバザーやネット通販で
	販売したり、近所の主婦相手に趣味の教室的なものを開いて料理や裁縫を教えているのも、実は当てはまる。

	というのも、家族はどれだけ時間と手間を掛けて料理を作った所で、一瞬で食べ尽くされる上、味も一応
	重要ではあるようだが、とにかく量が無いといけない為、普段の食事は手の込んだものは作れず、子供は
	小5の三之助、小3の四郎兵衛、小1の金吾。と息子ばかりで、しかも全員(+小平太も)が活発ですぐに
	服は汚したり破くので、既製品を買うより上記のような方法の方が安くつき、シンプルなものに限るのは
	言うまでもがなだが、その全てが滝夜叉丸にとっては本当はストレスになっている為、どうにか小出しに
	ストレスを発散する方法を考えてみた結果。一挙両得が一番性に合ったらしい。


	そんな日常以外にも、付き合いの浅い人には驚かれることが多いのは、月に1〜2度食卓に混じっている
	イケメンだとか、週に1度は我が家のようにくつろいでいる美少女、1〜2ヵ月おきに庭に新聞紙を引き
	家族の髪を切っている長身金髪の男などの存在で、3人共滝夜叉丸の兄妹なのだが、実は全員滝夜叉丸とは
	母親が違う。しかし、その辺りのややこしい家庭事情を説明するのは面倒な上、そんな義理は無いので、
	見た目も言動も日本人離れした長兄タカ丸だけは
	「父が海外に留学していた頃に出来た子で、中学までは向こうのお母さんの元で育ったんです」
	と異母兄なのだと紹介するが、弟の三木ヱ門と妹の喜八郎は「私の弟(妹)です」で済ませている。
	だとか、ハイハイ期〜歩けるようになった頃の息子達(特に三之助)が犬用のハーネスで柱にくくられて
	いるのを見とがめがれ、虐待を疑われた際、

	「でしたら、外しても構いませんがその場合は、あなたが責任を取って下さい」

	と答える滝夜叉丸に訝しがりながらハーネスを外してやったら、猛スピードハイハイやよちよち歩きで、
	あさってな方向に走り去ったり、壁や柱に激突するのを目の当たりにして、その理由を悟った近隣住民が
	結構居り、実はその方法は、小平太が赤ん坊の時期に、5歳上の姉仙蔵がキレて編み出したものだったり
	することや、未だにしょっちゅう迷子になる三之助に一切動じないことも、結構異様に思われているが、
	滝夜叉丸は一向に気にしていない。何故なら、

	「些細なことで動じていたら、この家の主婦は務まらん!」

	とのことで、小平太と滝夜叉丸双方の兄妹一同から、

	「何というか、開き直ったというか逞しくなったよねぇ」

	と、苦笑交じりに感心されているとかいないとか……


	
	

3周年記念11個目&おりづる様2個目 迷走感と脱線感は認めますが、一応「一見異様な日常」ということで…… 2011.7.24 以下日記もどきに挙げたオマケ 「滝ちゃんてさぁ、昔っから、オレとかきぃちゃんの面倒ばっかりみてて、  今も色々大変そうじゃない。だから、『幸せ?』って訊いてみたら、 『当たり前じゃないですか』って言われたんだけど、三木くんはどう思う?」 「大丈夫です。アイツは、『健気な自分』『頑張っている自分』に酔いしれることは  好きですけど、自己犠牲するような性質じゃないんで、本気で嫌になったら  キレて抗議行動おこしたり、それこそお義姉さん(伊作)みたいに家出の1つや  2つしてる筈なんで、逃避やストレス発散でやってるようなことも、あれで案外  楽しんでいるでしょうから、問題ありません」 「そっかぁ。三木くんがそう言うなら、ホントに幸せなんだろうね」 「ええ。ですから、たまに僕らやお義姉さん方に語ってるグチも、結局のところは  惚気に過ぎないんで、聞き流して良いですから」 byタカ丸兄さんと弟の三木くんでした