1.吉野家の
	吉野作造さんには、3人の子供が居ました。

	長男の優作さんは、子供の頃からとても出来も性格も面倒見も良い自慢の息子で、数年前に「小松田屋」さん
	という呉服屋に婿入りしました。人当たりが良くて説明もうまく、商売っ気もしっかりある優作さんは、売上
	だけでなく、若い人に和物に興味を持ってもらうことにも大いに貢献し、今は扇子などの小物を扱う支店を
	任されています。

	2番目の良子さんは、しっかりしているようで少し抜けている可愛い一人娘で、最初の結婚相手は、建設会社に
	勤めていた富松さんという人でした。富松さんは、長男の作兵衛くんがまだ小さい頃に事故で亡くなり、数年後に
	再婚したのが、小学校で図工の先生をしている中在家さんちの留三郎さんで、平太・しんべヱ・喜三太の3人の
	子供にも恵まれましたが、末の喜三太を産んですぐに、良子さんは病気で亡くなってしまいました。
	それでも、近所に住んでいる孫達は可愛いですし、4人共お祖父ちゃんが大好きで、留三郎さんも実に良い
	お父さんかつ好青年な婿殿なので、今も円満な付き合いが続いています。

	そんな訳で、作造さんにとって頭痛の種は、末の秀作くんだけなのです。
	秀作くんは、しっかり者でちょっと甘いお兄ちゃんと、優しいけど厳しめのお姉ちゃんに、アメ7:ムチ3位の割合で
	可愛いがられて育った為、性格は「おっとり系で、頑張り屋の優しい」ですが、いつまで経っても
	「良い子ではあるんだけどねぇ……」
	から抜け出せない、努力が空回るダメなドジっ子フリーターになってしまいました。
	子供の頃は、そんなへっぽこぶりも可愛い末っ子要素でしたが、高校生頃から、社会勉強の為に始めたバイトは、
	ことごとく半年以内に何かしらのポカをやらかしてクビになり、それでもどうにか就職出来た時には、胸を撫で
	下ろし
	「無理にでも大学に叩き込んで良かった」
	と思いました。けれども、案の定1年足らずで、取り返しのつかないミスをやらかしてクビになり、その後も
	正社員だろうが派遣だろうが臨時職だろうがアルバイトだろうが、ことごとくポカをやらかすか、別の誰かの
	ミスや不正を押し付けられてクビになり、そろそろ作造さんが持っているコネも伝ても使い果たしそうな勢いです。

	ちなみに、秀作くんとは言っていますが、既に30過ぎなのに彼女1人居ないっぽい実家暮らしなのも、頭が
	痛い理由の一つだったりするようです。



2.初恋の……
	常々叔母から「たまには顔を出して頂戴ね」と言われているので、久々に兄弟そろって山田家に遊びに来たある日。
	長兄半助は、叔父の伝蔵と何やら―どうも弟達の教育方針についてっぽかった―話しており、次兄の兵助は叔母に

	「折角ですもの、一緒に夕食を作りましょう?」

	と誘われ、買い物に行ったり料理をしており、従兄の利吉は外出中だったため、ちょっぴり退屈していた下の
	2人―三郎次と伊助―は、叔父達の許可をとって本棚の本やアルバムなどを眺めていた。

	その中の、自分達どころか兵助すら生まれていない、利吉が赤ん坊の頃のアルバムを見ていた時。今の伊助(小2)
	位の年頃の、着物姿の可愛らしい少女の写真を見つけ、「誰だろう?」と2人で首を傾げていると、ちょうど利吉が
	帰宅したので訊いてみた。すると、
	「5分で破れた、私の初恋の相手」
	との返事が返ってきた。その答えに、より一層謎が深まった2人が詳しく訊こうとした矢先

	「何引っ張り出しているんだお前達!?」

	という半助の叫び声と、

	「あら懐かしい。この頃の半助さんは、姉さん似で可愛らしかったのよねぇ」

	との、暢気な叔母の声が同時に聞こえた。

	「え? これ、半助兄さん??」
	「何で、女の子の着物着てるの?」
	「七五三のお写真を、男の子と女の子の両方の格好で撮ったからよ」

	目を丸くする甥っ子達に、叔母はニッコリと笑って当然のように返した。

	「……普段からスカートを穿いていたりしたのは兵助くんぐらいだけど、少なくとも七五三の時なんかは、君達
	 2人以外は女物を着せられていたんだ」

	げんなりとそう付け加えた利吉の言葉と、

	「わしらは、止めなかったわけではなく、止められなかったんだ」
	「だって、私も姉さんも、娘が欲しかったんですもの。それに、私達のお着物が残っていましたし」

	そんな山田夫妻の主張で、三郎次も伊助も何かを納得し、兄達の為にもそれ以上は何も突っ込まないことにした。

	そんな中半助と兵助は、
	「流石に成人式の振り袖は回避して、利吉くんも断固拒否しているらしいんだが、お前もまさか着ないよな?」
	「別に、それで叔母さんの気が済むなら、写真だけなら構わないけど……」
	「頼むから止めてくれ。そんな弟は、出来れば見たくない」
	「解った」
	などというやりとりを、ひっそり交わしていたとか。








3.実際の関係
	とある学活の時間に、調査書を書かせていた時のこと。4年1組の担任の野村雄三先生は、2人の生徒から、
	ほぼ同じ奇妙な質問を受けました。
	その質問というのは

	「叔父(姪)とかいとこは、友達の欄に書いちゃっていいんですか」

	というもので、質問者は中在家久作くんと潮江左近ちゃんの二人でした。どうも彼らは、「家族」と「校内で
	親しい相手(友達)」のどちらの欄に、親戚を書くべきか悩んだようです。

	野村先生は、2人の兄弟妹やいとこが同じ学校内に結構居るのは知って居ましたが、「叔父や姪とはどういう
	ことか……」と困惑しかけていると

	「久作は、うちの母さんの弟なんです」
	「僕の父さんと、左近のお母さん達は親子だから」

	と、2人から説明がありました。
	そんなわけで、とりあえず兄弟姉妹以外の親戚は、全て「親しい相手」の欄に書くよう指示しましたが、後で
	職員室でその話を他の先生にしてみた所、左近ちゃんの一番上のお兄さん(数馬くん/現在中2)の担任だった
	先生も、同じようなことを訊かれた。と話してくれましたが、左近ちゃんの2番目のお兄ちゃんな左門くんや、
	その従兄弟2人―三之助&作兵衛―が居る5年2組の担任の先生は
	「うちの連中は、3人共そんなことは訊いてこなかった」
	と、頭を抱えていましたとさ。

3-2(補足的オマケ)

	現5年2組トリオが、初めて調査書を書かされた時のこと。

	「作、作、ウチの父ちゃん何歳だっけ」
	「文次叔父さんは、ウチの父さんの3つ下だっけか? そうすると……」

	「作ー、俺の父ちゃんの仕事って、何て書けば良いんだ?」
	「あーっと、『ジムインストラクター』?」

	「左近って何組だっけ?」
	「ついでに、しろのも覚えてるか?」

	「お前ら、どうせ家から学校の地図かけないだろ? 貸せ。ついでに住所も俺が書く」

	等々、同じクラスに居る従弟達―左門&三之助―の質問責めにあっていた作兵衛は、時間内に自分の分が書き
	終らなかったので、先生の許可を取って持ち帰り、父・留三郎に訊きながら完璧に書き、左近達が引っ掛かった
	「親族は友達欄に書いてもいいものか」
	については、留三郎には「良いんじゃないか?」と言われはしたものの、念の為従兄の数馬に電話で訊いてみた所

	「アノ欄、名前とクラス以外に詳しいこと書かなくて良いから、好きにすれば? ていうか、欄の数そんなに無い
	 から、多分他の友達書くだけで埋まるし」

	との返答があり、確かに同級生の友達を書いていっただけで埋まった所か足りなくなりかけたので、年下の叔父叔母
	だけで無く、真っ先に書いた左門と三之助以外のいとこ達の名前も書けなかった。

	そしてそれ以降は、前年と同じように書いたため、先生に訊くことは特に無かった。というのが、方向音痴達だけ
	でなく、作兵衛も何も訊かなかった真相である。



4.実際の関係2(久ときり/未来)
	「兄ちゃん」
	「何だよ」
	「左近姉、ついに結婚するらしいな」
	「そうらしいな」
	「……兄ちゃんさ、いつ左近姉のこと諦めたんだ?」
	「…………。戸籍とか、親戚関係について習った時」
	「そりゃまたハッキリ特定出来てるけど、何でその時に」
	「僕らは従兄妹じゃない。それを改めて見せつけられて、『諦めるしかないんだ』って思ったんだ」
	「……。あー、そっか。三親等」
	「そういうことだ。だから、お前も怪も、絶対に好きになってはいけない相手が居る。……特に制限が多いのは、
	 お前だな、きり丸」
	「左近姉と仙さんとこの3姉妹以外は、男ばっかだもんな。けど、アイツらをそういう目で見たことはないから、
	 大丈夫」
	「そうか。……まぁ、どんな奴にしろ、相手が出来たら会わせろよ。父さんや三郎兄さんの前に、僕が吟味して
	 やる」
	「兄ちゃん、顔怖い」
	「お前は、僕の大事なたった1人の妹なんだからな。それは覚えておけ」


4-2(オマケ/きりと伊)
	「前々から気になってたんですけど、ウチの兄妹にシスコンやブラコンが多いのって、誰に似たんすかね?
	 両方に居るってことは、父ちゃんの可能性が高い気がするんですけど、何か違う感じがして……」
	「ああ。えっとね、留兄や仙というか僕ら4人は、母さんと洋伯父さんがお互い結構なブラコンとシスコンだった
	 らしいから、完璧に母さん側だね」
	「じゃあ、俺らは?」
	「雷蔵さんというか、鉢屋? 従兄妹だったらしいし、三郎も庄左ヱ門達や君らに甘いじゃないか」
	「あー、はい。何か納得出来ました」




5.理由(勘と三郎)
	「勘。前々から訊きたかったんだが、お前雷蔵とどういう関係なんだ?」

	「中学の同級生だけど?」

	「お前の言動は、ただの元同級生のものとは思えないから、訊いているんだ」

	「んーと、じゃあ、……お前の父親の親友で、雷蔵には言えないような奴らとつるんでたのも知ってて、
	 ソイツらと手を切りに行く時に
	『もしも何かあった時には、雷蔵を任せた』
	 って言われたから、その言葉通り、味方して守ってる。なら納得する?」

	「本当に、それだけなのか?」

	「うん。鉢屋が死んで、雷蔵のお腹にお前が居るのが判明した後、学校側には中在家先生が、身内側には大川の
	 じっちゃんが居たけど、あくまでも2人共他の大人や世間を説得する役だったから、もしもどうしても認めて
	 もらえそうに無かったら、俺が連れて逃げてあげる。位の覚悟はしたから、その名残でお前の父親になる
	 つもりはあったけど」

	「何でそこまで……」

	「ん〜、大事な親友達だからかな。お前だって、木下(八)や土井(兵助)に何かあったら、それ位するだろ?」

	「……。する、かもしれないな」

	「な、そうだろ? それだけかけがえのない、大事な親友と、その忘れ形見だから、こんなに肩入れしてる。
	 ってことで」

	「ということは、雷蔵に対して、恋愛感情は一欠片も無い。ってことか?」

	「それは内緒(笑)」





旧拍手御礼+オマケ 設定披露も兼ねたようなネタでした 2010.5.13