中在家さんちの長女仙蔵様は、3人の娘を持つシングルマザーですが、一度も結婚していたことはありません。
そして、今でこそ家族はそれを当然のこととして認識していますが、最初の妊娠が発覚した際に、いきなり
「別れた相手との子供が出来ていたことが発覚したので、1人で産む」
と宣言された時には、結構な騒動になりました。
その当時、家族全員が素姓を知っていたのは、短大生の次女伊作の幼馴染兼彼氏の潮江文次郎だけで、共に20歳を
超えていた仙蔵と年子の兄留三郎の双方に関しては、「多分付き合っている相手は居るだろうな」程度の認識しか
無かったので、まず留三郎に
「相手は何者で、何で別れた!?」
と詰め寄られ、次いで父長次に
「1人で産んで、育てるのも、1人でのつもりか」
と静かに問われました。
「向こうの都合と、それに対する私の我儘で別れたようなもので、人の道に逸れるような相手ではない。……育児
などにしては、申し訳ないが、力を貸してくれると助かる」
転勤の決まった恋人に、「一緒に来てくれ」と言われたけれども、仙蔵は地元を離れる気は一切無かった為、
結果的に別れることになったのだそうです。なので、不倫や犯罪者などではなく、単に今更よりを戻す気も
本人に告げる気もないけれど、転勤さえなければ結婚までいった可能性も無くは無い相手なので、産むことを
決めた。それが理由で、1人で育てるのは、あらゆる意味で自信がないとのことでした。
「……良いだろう。お前は、小さい頃から、一度決めたことを曲げる性質では無かったからな」
「ああ。ありがとう、父さん」
家長が認めた以上は反対する訳にいかないからか、それとも「普段思い切り甘やかしている伊作よりも、実は仙蔵に
甘い」という説が正しいからか、長次の許可に続いて留三郎も
「仕方ない。それじゃ、俺が父親代わりになってやるよ」
と、仙蔵がシングルマザーになる事を認め、結果的に、本当の事を知らない周囲の誰もが父親だと錯覚する程の、
見事な父親(代わり)っぷりを発揮してくれました。
例えば、生まれる前は検診には可能な限り付き添い、父親学級に参加し、あれこれ調べたり買ってきたり、オムツ
まで縫ってくれ、出産にも立ち会い、生まれてからは実母の仙蔵よりも長い時間一緒に過ごしていたのではないか
とすら言われる程に、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていました。おまけに、兄妹なので苗字は同じ「中在家」で、
年子+元の性格からお互いを名前で呼び捨てにしていたことや、シスコンと隠れブラコン―もしくはツンデレの
デレ―が共に発揮されていたので、弟妹の目から見ても「アレは夫婦で親子に見えても仕方ない」といった感じ
だったとか。
そしてそうやって育てられた仙蔵の長女藤内は、妹達が生まれる少し前まで、留三郎を父親だと半ば本気で信じて
いて、初めてしゃべったのも「とた」という、「お父さん」と「留さん」のどちらの意味にも取れそうな物だった
そうです。
その後。下の双児の娘達―伝七と兵太夫―の父親とはケンカ別れしたものの、「藤内に弟妹を産んでやるのもいい
かもしれない」との理由から産むことに決め、2度目のシングルマザー宣言と今回の理由を聞いて呆れた留三郎に
「私には、お前が居れば充分だ。今度も、父親役をしてくれるだろう?」
という、デレたのか甘えたのか手玉に取ろうとしたのかよく解らない返し方をしましたが、その時には留三郎には
結婚を前提に付き合っている、前夫を事故で亡くした子持ちの恋人が居ました。それでも留三郎は、可能な限りは
仙蔵母子の力になってやったのでした。
更に、最近ちょっとマセ気味の双児(小2)が叔母の伊作に、仙蔵が結婚しない理由を訊いてみた所
「仙が結婚相手に求める条件は、実はたった1つだけなんだよ」
との、意外な答えが返って来ました。
「条件は、『留三郎兄さんよりも良い男であること』それだけ」
「それ、もの凄く厳しい条件ですよね?」
ニッコリと笑った伊作が告げた条件は、確かに1つではありますが、この上なく高い理想だと、周りに居て、その
会話が聞こえていた身内全員が思いました。
何しろ留三郎は、上記の通り育児をキッチリ手伝ってくれ、家事スキルも高く、面倒見も良くて顔も良いので、
そんな男は、そうそう居るものではありません。
「そうだね。僕が知る限りでは、その条件をクリアしてる人は、2人だけかな」
「え。居るんですか、そんな人?」
目を丸くした姪っ子達―他―に、伊作は
「居るよ。……父さんと洋おじさんだけど」
との答えを返しましたが、その2人はある意味留三郎のルーツなので、やはり無理な条件だと周り中は思いました。
「仙はね、一応隠してはいるけど、ああ見えてかなりのブラコンなんだよ。何しろ、留兄に一番近くて、可愛がって
もらってたからね。……というか、未だに弟妹の中で、留兄が実は一番可愛がってるのは、仙なんじゃないかって
思うことがあるんだよね。表向き一番大事にされてるのは僕っぽいけど、仙がべたべた甘やかされるのや、人前で
構われるのが好きじゃないから、あんまり表立って甘やかしてないだけで」
伊作の推測が合っているのかについては、周り中半信半疑でしたが、
(一番身近な男性像が、留伯父さんや祖父さま達だとしたら、無理もないか)
と、別に新しい父親などこれっぽちも望んではいないものの、母親の結婚を絶望視したのは、年の割に何かを諦めた
感じに育った藤内(中2)でした。
そんな藤内は、今の所特に付き合っている相手などは居ませんが、中学に挙がった頃に、一応「お年頃」だからか、
母仙蔵から
「犯罪と既婚者と彼女持ちにさえ手を出さなければ、どのような男を選ぶのでも、好きにしろ」
と言われており、シングルマザーで未だに好き勝手にしている身としては、それ以上の偉そうなことは言えないし、
性格上言う気も無いんだろうな。と解釈していますが、何故か
「ただし、留三郎の所の長男だけは、絶対に駄目だ」
との釘も差されています。その理由については、大よその予想は付いていますが、今はまだ謎のままにしており、
そもそも作兵衛に限らず従弟達を、恋愛対象に見る気は無かったりするようです。
中在家兄妹+αの、妊娠発覚時の風景第1弾の仙蔵様編でした。
本当は文伊とセットにしようかと思ってたんですが、ブラコンネタを入れたらコレだけの方が良い気がしたので、
ちょっと方向転換。最後の部分の真相については、その内明かす予定です
2010.9.3
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