僕の親戚は、みんな仲が悪い。だけど、お祖父ちゃんのご機嫌取りの為に、行事毎に一堂に会する。
	中でも僕の母さんと三郎のお母さんは、同い年なこともあって一番険悪だったけど、子供同士が勝手に
	仲良くなるのは、お祖父ちゃんウケが良いからか、小さい頃は特に止められなかった。
	そうやって僕と三郎は親しくなり、結果として恋人同士にまでなった。その頃には、流石に嫌な顔をさせて
	反対されたけど、三郎は
	「ロミオとジュリエットみたいだな」
	と笑うだけだった。……そう言えば、ロミオとジュリエットの年齢って、アノ頃の僕らと殆ど変わらない位だった
	って、知ってた三郎?

	三郎は、子供の頃から群を抜いて優秀で、大人を小馬鹿にしているけど、そんな所がお祖父ちゃんの一番の
	お気に入りの理由でもあった。一方の僕は、優柔不断で愚図な味噌っかすの割に、何故かお祖父ちゃんに
	結構可愛がってもらえていたからか、ますます母さん達の仲は険悪になっていった。だけど、そんなことは
	どこ吹く風で、一切気にせず好き勝手振舞っていたのが三郎らしい所だった。


	そんな三郎に、丸め込まれたとかそそのかされた感は、無いこともないし、小さい頃から
	「迷ったら、三郎の言う通りにしておけば良いんだ」
	と―半ば刷り込みのように―思っていたことも、否定は出来ない。
	だけど、最終的に選んだり受け容れたのは、僕自身の意思で、僕は三郎の事が本当に好きで、ちゃんと愛していた。
	だから息子の方の三郎を産んで同じ名前を付けたし、年々似て来ることも、呆れはしているけど嬉しかったりもする。
	
	あの頃の三郎が、いかがわしい仲間―いわゆる暴走族だけじゃなくて、そのバックについていた暴力団の人とも―
	付き合いがあったことも、僕とお腹の児の為にその人達とケリをつけに行って、足を洗うための「落とし前」の
	リンチで命を落としたことも知っているのは、僕と…多分勘ちゃんだけ。
	三郎に対する周りの大人の評価は、概ね「成績優秀、しかし言動に問題あり」みたいな感じで、素行にまで実は
	問題があったことには、きっと家族ですら気付いていなかった。
	だから、三郎が死んで、僕の妊娠が発覚した時。向こうのお母さんには
	「お前が誑かして殺したんだ」
	と詰られ、他の殆どの人にも散々責め立てられた。アノ当時、僕達を庇って力になってくれたのは、3人だけ。
	後から聞いた所によると、先生のご家族も「いっそ家で匿っても構わない」と言って下さっていたそうだけど、
	担任の中在家長次先生と大川平次お祖父ちゃん。それから、僕らの親友の勘ちゃんこと尾浜勘右衛門くん。その
	3人以外は、みんな僕達の敵だった。

	その中で、平次お祖父ちゃんは、身内だし三郎を可愛がっていたし、既に堕ろせる月齢じゃなかったから、味方に
	ついてくれたのは、解らなくもない。それから、勘ちゃんもどうも三郎から直接
	「雷蔵を頼む」
	と言われたらしいし、性格的にも、まぁ解る。

	残る1人の中在家先生に、
	「どうして庇って下さったんですか?」
	そう訊けたのは、息子の三郎を産んでから、改めて大学を受験する為の勉強を、先生のお宅で先生やご長男の
	留三郎さんなどに教わっていた頃。


	「……迷わなかったからだ」
	「え?」
	「迷い癖のあるお前が、何の躊躇いも無く、産むと言い切った。だから、味方につくことにした」

	そう言われた時、何て返したのか、正確には覚えていない。だけど、多分
	「三郎の子ですから」
	とか
	「三郎に『産んでくれ』って言われましたから」
	みたいに返した気がする。何しろ『堕ろせなくなるまで気付かなかったことにして隠しておけ』って三郎に言われて
	黙っていたけど、4ヶ月位の頃にはもう妊娠してるの判っていたから、その頃には覚悟は半分以上決まっていたし。


	

	僕の最愛の人は、今でも亡くなった三郎で、その次は息子の三郎。先生は、一番尊敬していて、信頼できる人。
	でも、先生の一番も、きっと生涯亡くなった奥さんで、僕とお子さんたちは僅差。だからちょうど良いですね。
	大学卒業目前に、「家族に」ってプロポーズしていただいた時、そう返して、今がある。

	久作もきり丸も怪士丸も、年上だけど義理の子に当たる皆さんも、孫に当たる子達も、みんな愛おしくて可愛い。
	だけど、多分お互いの一番は変わっていない。そのことに関してだけは、僕は迷わない。




どーしても鉢雷でないと気が済まない結果&前から決めてあった設定を合わせると、こんな感じになります。 な、妊娠発覚風景雷蔵編。……って、発覚時の話じゃないですけどね 2010.9.7