それはまだ、ディノゾールの襲撃を受ける前の、平和なある日の事。
食堂で隊長のセリザワを見つけ、同じテーブルにやってきたのは、入隊当初からセリザワに懐いていた
リュウで、食後の雑談として、先輩女子隊員達および、世の女性達へのグチを話し始めた。
「先月、自分らは『GUYS女性隊員一同』とかいう連名で、お徳用チョコをばら撒いてたくせに、お返しは
アメ玉1つじゃダメとか、暴利だと思わないすか、隊長」
「……何の話だ、リュウ」
鼻息荒くいきり立っている部下が、何の話をしているのか、さっぱりわからなかったセリザワが尋ねると、
リュウは「バレンタインデーと、ホワイトデーの話っすよ」と説明し、尚も女子隊員および実姉がいかに
理不尽で横暴かを語り続けたが、それでもセリザワには、あまりピンとこなかった。
しかし、彼らのやり取りが聞こえていた、食堂のおばちゃんこと日ノ出サユリに、
「その様子だと、お返ししてないどころか、先月チョコを貰ったことさえ気付いてないんじゃないの」
と言われ、とある出来事を思い出した。
一月前。休日を利用し、整備長のアライソと共に自機のメンテナンスというかカスタマイズをしていた所に、
総監代行のミサキ ユキ嬢がやってきて、
「こちら、皆さんにお配りしていますので」
と、アライソ共々小さな箱を手渡された。
「おー、ありがとな。俺にまで」
「大したものではありませんが」
「いやいや。ありがたいよ。折角なんで、これを茶請けに休憩にするか」
アライソは貰った箱の中身が分かっているようで、その口ぶりからすると食べ物なのか? とセリザワが
箱を開けてみると、中には小さなチョコレートが幾つか並んでおり、自身はあまり甘いものは得意では
無いし、これをミサキが配っている理由は分からなかったが、休憩の際の糖分補給には丁度いいと考え、
ありがたく頂戴し、アライソの提案通り、茶休憩にすることにした。
ストーブの上に乗せてあるヤカンで、3人分の茶を淹れ、アライソとミサキに渡し、自分の分を一口
飲んでから、貰ったチョコレートを、一気に流し込むように口に入れ、やはり甘いものはあまり
好きじゃないな。と再確認しながら噛み砕いていると、笑顔がトレードマークのミサキが、何故か
引きつったような顔をしており、アライソにも
「おめー、それはねぇよ」
と言われてしまった。
しかし、一体自分の何が悪かったのか分からず、首を傾げながら、口内の甘さを払拭するように茶で
流し込むと、ミサキは更にショックを受けたような顔で、
「それでは、私はもう戻りますので。お茶、ごちそうさまでした」
と、微かに震える声で言い残し立ち去った。
その後。休憩を切り上げて作業に戻ってからも、アライソの目が妙に冷たく、何か言いたげで居心地が
悪かったので、この日の作業は予定よりも早めに切り上げ、ディレクションルームに顔を出すと、何故か
チョコ菓子がいくつか自席に置かれていた。
それらの謎が、一月経ってようやく解けはしたが、アライソさんにも渡していたんだから、女子隊員達よりは
少々高級なものを用意してくれただけで、「義理チョコ」とか呼ばれる代物だろう? と、あそこまでの反応を
されたことはまだ釈然としなかった。しかし、もらった以上はお返しをしないと後が怖いことは、今のリュウの
話で解ったので、
「……リュウ。金は出してやるから、隊内の売店でも近くの店でも良いから人数分より1つ多く何か買って来て、
俺とお前の連名で渡しておいてくれ」
「わっかりました。けど、1つ多く?」
「ああ。他にも、それらしいものをくれた相手が、思い当たったんだ」
ということで、リュウが休憩時間中に近所のスーパーでひとっ走り買ってきたキャンディーの詰め合わせは、
一応ホワイトデー用の特設ワゴンから選んで来た為、女子隊員達からの及第点がもらえ、ミサキに渡せたのは
翌日になってからだったが、「ありがとう、ございます」と礼を言いながらも、若干面食らったような顔を
していたのは、まさかもらえるとは思っていなかったからだと、後になってから聞いた。
遅刻したけど、以前書いたバレンタインネタのオマケ派生的な
激ニブなセリザワさんオイシイです
2014.2.16
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