迷い癖のある雷蔵も、ようやく「フリー」に進路が決まった(というより、
城への就職の募集は締め切られたので、消去法でそれしか無かった)日の夜。

雷蔵が久しぶりにゆっくりと趣味の本を読んでいると、同室の三郎が無言で
背中合わせに体重を掛けてきた。その時には、いつも通り甘えてじゃれて
きただけかと思ったが、しばらくそのまま黙った状態でもたれてからポツリと

「どちらかが女子(おなご)なら良かったのに。そうしたら、
子を生し(なし)、添うて、ずっと共に居られるだろう?」

と呟いた。

「そうだね。でも、もしもどちらかが女子だったら、きっと
出会わなかったと思うよ。僕は村から出ることなく一生を
過ごしていただろうし、三郎だって」

雷蔵は手元の本を閉じ、逆に三郎にもたれかかってから、
そのまま膝の上に転がり顔を見上げて答えた。

「…母上の身代わりか、良くて奴のガキ共のどれかのものにされていた。か」

「だから、こうして出会えただけで良かったんじゃないかな?
互いにそれを望むのなら、傍に居続けることだって出来るんだしさ」

珍しく、一切変装していない三郎の素顔の頬に手を伸ばす。
薄闇の中でも、こんなに無防備にさらされることはまず無い、
亡き父に瓜二つだというその顔に、触れることを許されるのは雷蔵だけ。

賢くそして愚かで、無謀なようで実に臆病な、孤独な彼の傍らに居ること。
それは彼の望みであり、かつ己の特権なのだ。そう、雷蔵は考えている。


若干病み気味の2人。 お互いに、相手への感情が何なのかはあやふや。この時点では鉢→雷気味 無意識スキンシップ率は、現6−は(留さんと伊作親子)並に高いです。 雷蔵は農民の子設定。三郎についてはこちら