1.
私立大川学園は、むやみやたらと行事が多い。
内訳としては、
大抵の学校にもある行事(体育祭、文化祭等):1割
学園長の思い付きの、突発企画:7〜8割
1度きりの筈が、いつの間にか伝統化した企画(合唱祭、文化祭のミスコン等):1〜2割
といった感じで、いつの間にか伝統化した行事の中には、年々エスカレートしていったものもある。
そんな中の1つハロウィン大会は、仮装と創作お菓子の2つの部門が競われる。その両部門で毎年勝利を収め、
もはやハロウィンは彼の独壇場と化していると言っても過言ではない生徒がいるが、それは現生徒会長である
5年ろ組の鉢屋三郎ではない。
2.
「え? そうなんですか!?」
「そうなんだよ。不本意ながら、私達では太刀打ち出来ない、不動の王者が居るんだ」
ハロウィン大会の告示の、前日の放課後の生徒会室。何の気なしに
「やっぱり先輩は、優勝の常連だったりするんですか?」
と話題を振った1年は組の黒木庄左ヱ門(書記)に、三郎はとても悔しそうな顔で説明を始めた。
「詳しい決まりはこのプリントに書いてあるが、ざっと説明すると、ハロウィン大会の日は、生徒だけで
なく教職員も何かしらの仮装をすることと、中等部生は寮巡り。高等部生と教職員はそれを迎えること
だけは強制になっている。
そして、仮装とお菓子の審査は、希望者というか志願者だけが対象で、仮装はインパクト賞と技術賞。
お菓子はデザイン賞と味覚賞のそれぞれ2つの賞があり、それらの総合点で優勝者なり優勝チームが決まる」
つまり、三郎を始めとした現5年生は、獲れても仮装のインパクト賞だけで、その他が適わないのだという。
3.
「何しろ、元祖カラクリ小僧で家庭科部の主。おまけにその両方の相方だけでなく、
人体マニアの同室者までいるんだぞ」
その三郎の表現で庄左ヱ門─と、その場で一緒に作業をしていて、話を聞いていた1年い組の今福
彦四郎(書記)─は、その生徒の見当がつくと同時に、大いに納得した。
用具委員会委員長にして家庭科部部長で、どちらも半ば趣味でやっているのにプロの域。
そんな6年は組の食満留三郎と、前生徒会長かつ、茶道部と化学部の部長を兼任し、「爆弾魔」の異名も
持つ6年い組の立花仙蔵様に、図書室の主であり、ゴツい見た目に反してお菓子作りや可愛らしいものを
好む6年ろ組の中在家長次。
この3人に、医者の息子で寮の部屋に自前の骨格標本のコーちゃんが居る6年は組の善法寺伊作まで
加わった日には、並大抵の相手では勝てる訳がない。
4.
「あの人達は、毎年この行事だけは無駄に気合いを入れまくって、歌って踊る骨格標本だの、仮面を外した
下にリアルな筋肉標本の目出し帽だの、頭叩いたら目玉が落ちるだの、私達だってその気になればそれ位
出来るが、毎年トンでもないハイクオリティーなものを作るだけでなく、前の年に私達がやった仮装を
改良して来たりするし、あり得ないグロさなのにめちゃめちゃ美味い菓子は作るし、とにかく嫌味で私達の
敵なんだ!」
「はぁ、そうですか」
珍しく熱くなる三郎に、1年生2人が返せた反応は、その程度だった。
「それでも、有終の美を飾らせるのは癪だから、今年こそは私達が勝つつもりで挑むけどな。
……君らは、勝負には参加するつもりなのか?」
やる気満々の三郎に訊かれた1年生2人は、少し考え
「うちのクラスは、無難に仮装して、穏便にお菓子をもらって回る位で済ませたいです」
「そうですねぇ。審査に参加するかはわかりませんが、目一杯楽しもうとは思います」
との答えをそれぞれ返した。
そして、ハロウィン大会当日……
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