〜1年生のバヤイ〜
	
	ハロウィン大会の詳細が告知された日の放課後。誰かの部屋では狭いので、寮の自習室の1つを借りて
	集まった1年は組の面々は、各々何の仮装をするのかと、お菓子を作るか否か及び、審査に参加するか
	どうかを相談していた。

	「みんなてんでバラバラの格好をするより、統一感を持たせて、一緒に回った方が面白いと思うんだけど」

	そう提案した庄左ヱ門に、他の10人も異論は無かった為、とりあえず仮装のテーマを何にするか相談を
	してみたが、あまり良い案が出なかった。そんな話を、翌日の委員会の作業中にしんべヱと喜三太が同じ
	用具委員の平太にしてみた所、

	「だったら、僕らと一緒に百鬼夜行やらない? 怪士丸が妖怪の本を持ってて、そこから選ぼうって話に
	 なってるんだけど、僕らだけじゃ人数が少なくて、迫力が欠けるから」

	との案を持ちかけられ、他のメンツにも快諾されたので、ついでにい組を巻き込んで、1年生全員で妖怪の
	仮装をすることになったが……


	「虎若、『ひょうすべ』やんなよ。絶対似合うって」
	「は? どれ? って、え。コレはちょっと……」
	「どれどれ? あはははは。僕も、似合うと思うよ(笑)」
	「じゃあ虎若はコレで決定ね。……あ。コレ乱太郎に似合いそう!」
	「どれ? 『手の目』かぁ。うん、まぁいいよ」
	「あと、きり丸は『鈴彦姫』ね。うんと綺麗にしてあげるから」
	「はいはい。仰せの通りに」

	などと、兵太夫が本を見ながら勝手に似合いそうなのを決めたり、

	「俺、妖怪じゃないかもしんないけど、コレやろうかな」
	「んー、どれ? 『方相氏』?」
	「ああ。それって確か、節分の起源みたいなののだよね」
	「コレで、『鬼の潮江』に対抗するのかぁ、度胸あるね団蔵」
	「……だったら僕も、毎度泥まみれになる嫌味も込めて『泥田坊』で」
	「多分その嫌味は、七松先輩には通じないと思うよ。……それじゃ僕は久々知先輩の『豆腐小僧』と小僧
	 繋がりで、『雨降小僧』にしようかな」
	「えっと、ぼくはぁ、確か食堂のおばちゃんに修理を頼まれたお釜があったから、それ借りて来て『鳴釜』を
	 やろうかなぁ」
	「じゃあー、ぼくはこの五徳っての見たことあるから、『五徳猫』にする」
	
	などと、委員会絡み―なのかよく解らない―ものを選んでみた者が多かった。そして当日。全員集まって
	先輩達の部屋を回る前には、

	「左吉が天狗で、彦四郎は河童。一平のかわうそに、伝七は般若かぁ。さっすがい組。無難過ぎてつまんないね」
	「そういうお前だって、無難な格好に見えるけど、兵太夫?」
	「ていうか、それ何の格好?」
	「んー。絡新婦じょろうぐも。言っとくけど、この蜘蛛全部動くようにギミック仕込むの、大変だったんだからね」

	そんな小競り合いが起きたり、
	
	「……平太。それ、何の妖怪の格好?」
	「えっと。『琵琶牧々びわぼくぼく』」
	「伏ちゃんは?」
	「百々目鬼どどめきだよ。毛倡妓けじょろうと悩んだんだけど、孫次郎の毛羽毛現けうけげんと被るからこっちにしたんだ」
	「ふぅん。全然違う気がするけど、何でその2つで悩んだの?」
	「それはね、ちょっと頭の辺り叩いてもらえる?」
	「え。あ、うん。……きゃー! 伏ちゃんの頭が落ちた!?」
	「コレがやりたいから、なるべく顔が隠れるのにしたんだ」
	「しかも、落ちた首の方から声がするって、どういうこと!?」
	
	マイナー路線まっしぐらなろ組に呆れたり驚いたが、は組にも

	「ああ。三治郎の飛頭蛮ろくろくびと同じように、頭の方にマイクが仕込んであるんだ」
	「誰? あと、その妖怪は何?」
	「ぬっぺっぽうだよ」
	「その声は、庄左か」

	といった感じで似たようなノリの奴が居た。そして、

	「……似合うね、怪士丸。それは、幽霊か骸骨?」
	「ううん。一応『狂骨』のつもり」
	「そっかぁ。ところであの本、カバー掛かってたけど、もしかして図書室のじゃなくて私物?」
	「うん。水木しげるのと悩んだけど、アレの方がシンプルで判り易いかな。って思って」

	そんな怪士丸が資料として回したのは『図画百鬼夜行全画集』(鳥山石燕)という、江戸の妖怪絵氏の妖怪図を
	集めた本の文庫版だった。


	そしてそんな格好で寮内を巡った結果。

	「クオリティは高いけど、可愛くない」
	「ろ組の子以外も、かなりマニアックな妖怪ばっかり選んだもんだね」

	との、微妙に高評価か判らない反応が多かった。




	〜3年生の選択〜

	ハロウィン大会の覇者達を直属の先輩に持つ3年生達は、端から優勝は諦めていた。しかし

	「どう考えても、食満先輩達には勝てないよな」
	「だけどさぁ、だからといってお茶を濁して無難なことをするのは、何か戦う前から負けた感じがしない?」
	「確かに、たまにはほんの少しで良いから、先輩達の度肝を抜いてみたいよな」
	「そうだな」
	「でも、どうやってだ?」
	「何か策はあんのか?」
	「いや。これから考えるけど……」
	「俺は、無いこともないかな」

	ということで、各々考えたり用意をして迎えた、ハロウィン大会当日。	

	「とりあえず、左門。先輩方の部屋を回る間、コレ食べてろ」

	仮装は、無難に―いつだかの体育祭だか文化祭で使った―アヒルを被っただけの作兵衛が、オーバーオールで
	口の脇に線を書いただけのチャッキー左門に、何か黒っぽいものの大量に入ったビニール袋を手渡した。

	「わかったぞ!」
	「何だソレ。……虫?」

	袋の中身を、狼男三之助が1つつまみ出すと、それは某黒い悪魔の形をしていた。

	「いや、グミだ。見たこと無いか? 最近おもちゃ売り場なんかにある、虫グミのキット。アレで作った」
	「あ、あー、うん。あるね」

	確かにそれをもっちゃもっちゃ食べたり、口の端から足っぽいものが見えたりしたら、ギョッとするだろうが、
	周りの自分達もドン引きする。と思いながら曖昧な相槌を打ったのは、ミイラ男数馬だった。

	「俺は、こんなもの作ってみたけど」
	「骨……ではないな。少し甘い匂いがする」

	作兵衛に続いて、怪しい何かを差し出したのは魔法使い藤内で、それを覗きこんだドラキュラ孫兵の見た感じ
	では、白くて乾燥した細長い物体だった。

	「当たり。メレンゲを焼いたのを、骨壷っぽい陶器の壺に入れてみた」
	「藤内。それちょっと見せて。僕が、もうちょっとリアルに加工してあげる」

	それも、壺を抱えてポリポリと齧っていたら異様だろうが、折角ならもっと骨っぽく見えるようにしたい。
	と言い出したのは数馬で、更に作兵衛も

	「そんじゃ、審査にだすのはそれで良いにして、それ、作るのに時間掛かるか?」
	「いや。メレンゲ泡だてて焼くだけだから、30分もあれば出来る」
	「だったら、それに肉っぽいもの付けたの作るから、三之助はソレかじって回れ」

	そんな提案をし、その結果。予想通り優勝は取れなかったが、通りすがりの生徒及び教職員をギョッとさせる
	ことには、見事成功した。



	〜2年生の底力〜

	3年生と同じく、現6年の実力と、彼らに対抗意識を燃やす5年生をよく解っている2年生は、それなりに
	無難に流そうと考えつつも、今年入学してきた後輩達が色モノ揃いなので、「奴らに引けを取るのは、何か
	ちょっと癪かも」ということで

	「あー、もしもし、母さん? 左近です。ハロウィン向きの、簡単そうなお菓子のレシピをいくつか教えて
	 もらえる?」
	「お父さん、あのね、何かハロウィンの仮装に使えそうなものとか、材料があったら貸して欲しいんだけど、良い?」

	と、母が料理研究家の左近と、おもちゃメーカーの息子の四郎兵衛が、親の協力を仰いだ。
	その結果。仮装の方は結構リアルな仮面や着ぐるみなどを貸してもらえたが、

	「……左近。これは、カボチャの煮付けだよな」
	「まさか、これをお菓子として出すのか?」

	お菓子担当の左近が作ったものは、どう見ても小鉢に入った、単なる食事のおかずだった。

	「それがどうした。お菓子は、僕に一任しただろ。……文句があるなら、味見用の余りあげないぞ」

	思い切り眉をひそめた三郎次と久作に、左近がシレっと返しながらも小鉢を下げようとすると、
	四郎兵衛が「ぼくちょっと味見したいな」と声を上げた。

	「あれ? コレ、見た目は煮付けだけど、全然違うし、カボチャの味がしない」
	「当たり前だろ。カボチャじゃないんだから」

	箸を入れた時点で感触が違い、食べてもみても全く別物だと首を傾げる四郎兵衛に、左近が自慢げな顔を
	しつつも当然のよな口調で返すと、案の定他の2人から「じゃあ何なんだよ」との疑問の声が上がった。

	「練りきりと落雁。……まぁ、要するにカボチャの煮付けっぽい形の和菓子だよ」

	曰く、母親から送られてきたレシピの中に、細工菓子などの作り方もあったそうで、それの応用で作ってみたら
	思いの外良い感じに出来た為、これでいくことにしたらしい。

	そんな訳で、お菓子部門の審査に出してみた所、やはり同じような反応をされ、優勝は逃したがかなりの
	高得点を収めたのだった。




上級生編へ 大川学園ハロウィン大会当日(下級編) 拍手の簡易メッセージの票数は、1年2票、23年1票だったこともあり、 残念ながら優勝は叶いませんでしたが、それなりには頑張ってもらいました。 ちなみに、1年生達の妖怪一覧はこちらに 鳥山石燕の文庫(カノウの私物)をスキャン しただけなので、見難いかもしれませんが 2010.10.25