雛祭り大会当日の、支度中。
「きり丸。着物はどれにする?」
「任す。けど、どれも売ったら良い値段になりそうだけど、売っちゃダメなのは辛いし、
汚したら弁償。とか無いよな?」
「大丈夫。きり丸がそういうこと言うだろうと思ったから、今回のは全部古着で揃えたし、
終わったら売っちゃっても構わないってさ」
色取り取りの着物を前に気後れするきり丸に、ニコリと笑って答えたのは、自分も一応
お雛様役の筈なのに、衣装担当をしている伊助で、古着の提供者は仙蔵、伊作、三郎、
喜八郎、滝夜叉丸、髪結床斉藤の女性客、山本シナ先生、伝子さん辺りらしい(笑)
「……先輩達や先生達はともかく、タカ丸さんの実家のお客さんって」
作法委員や、女装が似合いそうだったり、私服がアレだったり、変装道具を山のように持って
いそうな先輩や、顔立ちは強烈だが化粧や着物の色などの趣味は実は結構良い某教員は置いて
おきながらも、残るツッコミ所に引っ掛かったのは、もう1人のお雛様左近だった。
「ん〜。こないだ家に帰った時に何人かに頼んでみて、父さんにも頼んでみてくれるように、
お願いしといたら、結構沢山の人が譲ってくれたんだ〜」
化粧担当の作法委員や三郎と打ち合わせをしながら、ニコニコと答えたタカ丸に、
「確かにこの親子に頼まれたら、喜んで着物を提供する女性はたっぷり居るな」
と、その場に居た全員が思った。
「そういうわけで、全部売っちゃっても良いみたいだけど、折角だから作法委員会や授業用の
備品にも回したいそうなんで、売るのは残りだけで、半分は予算に回す。ってことになった
けど、構わないよね?」
曰く、「そういう形で還元するから」と、会計委員会にねじ込んで、今回の企画の予算を
もぎ取って来たらしい。
「これだけあって、しかもどれも物が良さそうだから、充分良い金になるだろうな。ってことで、
贅沢は言わないっていうか、ありがた過ぎる位だし」
「それは良かった。……ってことで、どれが良い? 僕的には、コレとかお薦めなんだけど」
笑顔で答えたきり丸に、お薦めらしき着物を手に駆け寄って来たのは、お雛様役では無い筈の
兵太夫だったが、そこを突っ込まれる前に
「今回は、伊助もお雛様な分、作法委員会全員が衣装とお化粧担当なんだ。ってことで、伊助も
そろそろ着物選んで、髪をやってもらっちゃいなよ」
「え。いや、僕は別に最後で良いし、そんなに凝った子としても似合わないだろうから……」
「そんなこと言わないのー、伊助ちゃん。おれも兵助くんも三郎次くんも、伊助ちゃんの
お雛様楽しみにしてるんだからー」
「……って、池田先輩は川西先輩のお内裏様でしょう!?」
所詮はオマケだし。と消極的な伊助に、同じ火薬委員会の皆が期待している。と告げたタカ丸に
ツッコミを入れたのは、仙蔵の指導の下、左近に化粧を施していた伝七だった。
「別に良いよ。アイツ、自分が僕の相手なことは『引っ張り出されただけだ』とか言ってるし」
「むしろ、時友先輩辺りの方が、純粋に『可愛いだろうなぁ』とか楽しみにしてるっぽいって、
うちの先輩達から聞いた気もするんスけど」
どうでもよさげな左近の答えに、図書委員会の先輩経由の情報を付け加えたのは、兵太夫と
一緒に着物を選んでいたきり丸だった。
「ちなみにうちの1年生達は、庄左ヱ門は『どっちも違う雰囲気だけど似合いそうですよね』
とか余裕で笑ってて、彦四郎は何も言ってなかったけど、多分楽しみにしているだろうから、
後で通りすがりにでも笑いかけてやると良いかもな」
「はぁ、そうですか」
ぶっちゃけ伊助的にはいらない情報を、自慢げに教えてくれたのは三郎だった。
「ところで、『作法委員全員』と言いつつ、綾部先輩と浦風先輩の姿が見当たりませんが?」
元の顔立ちと年齢から、あまり派手な格好は似合わない為、薄化粧なこともあり、早々に
支度が済んで手持無沙汰になっていた左近が、周りの準備担当者を見回して訊ねると
「ああ。藤内は男雛の方に行っている。……伝七、斉藤、鉢屋。お前らも、今やっている
作業が終わったら、向こうを手伝いに行け」
お雛様の方が準備が大変な上、「男はしょせん添え物」という理屈で、お内裏様は髪だけは
タカ丸が整えるが、それ以外は藤内が指示を出しつつ自分で着替え、細かい調整は作法委員。
という扱いになっているのだという。
「……綾部先輩は?」
「虎子阻止」
数人の脳裏に一瞬よぎったが否定した答えを、あっさり口にしたのは兵太夫で、万一
「折角なら……」
とほざいた場合は、落とした後吊るす。という抑止力として、罠を作成しつつ待機して
いるのだという。
そんなこんなで支度を終え、「お雛様を囲む会」的なノリで、内裏雛役の子達を愛でつつ、
ひなあられや菱餅、白酒などを飲み食いしている最中。「可愛い」「綺麗」「似合っている」
等の賛辞を頂戴したのは、もちろんほとんどお雛様達だったが
「黙って、動かなければ、意外にマトモな格好似合わなくもなくもない?」
「そうだね。腕まくりさえしなきゃ」
等の、褒めているのか貶しているのかよく解らない声が、きり丸の相手役の団蔵に、
「……ああ、そっか。一応鉄砲隊の若太夫だから、育ちは悪くないんだっけ」
「伊助もちょっと武家風の衣装だから、ああいう武士の夫婦いそうだよねぇ。見た目なら」
「まぁ、何にしろ虎子で無いだけいいんじゃないの?」
のような、こちらも褒めているのか貶しているのか解らない声が、伊助の相手役の虎若に、
「地味で愛想ないな、2人共」
「でも、2人共似合っているね」
との声が2年生の2人に対して囁かれていたりもした。
ちなみに、お雛様達に対する一番の賛辞は
「きり丸、そういうお姫様みたいな格好も似合うねぇ。特に、その紅の色が、とっても
合ってると思うよ」
と、素で言い放ち思い切り照れさせたしんべヱのものだったりする(笑)
「〜結局コラボにならなかったけど〜第2回☆雛祭り大会」
当日編でした
……スイマセン。石は投げないでください!
全体的にCP路線にしないでまとめたら、
何となくこんな感じがしっくりきたんです。
2011.3.3
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