仙。「わたし」はね、君のこと好きだったよ。
それが「恋」だったのかは解らないけど、優しくされるのは心地好かった。

トロくて、泣き虫で、おっちょこちょいで、甘えん坊で、
お兄ちゃんベッタリ。そんな「わたし」に呆れないで、
いつも優しく手を差し延べてくれてたよね。それが、
すごく嬉しかった。


アノ夏休みの日から、毎日
「これは悪い夢なんだ。目を覚ましたら、いつも通り
お兄ちゃんは元気で、夢の話をしたら、お兄ちゃんも
仙ちゃんも、きっと笑い飛ばしてくれる」
そんな風に考えてた。

でもコレは現実で、「わたし」は「僕」でないといけない。
そのことを、やっと受け入れられるようになって、
どうにか割り切り始めた頃、君と再会した。

嬉しくて、ホッとしたと同時に、すごく辛かった。
ううん。今も、実はちょっと辛いから、過去形ではないね。

君は、相変わらず僕に優しくて、色々と力になろうと
してくれている。それは嬉しいし、感謝もしている。
けど、君の目に映っているのは、「僕」ではなく
「わたし」なんだよね。

必死に「僕」でいようとしてるのに、君の
優しさは「わたし」に向けられている。
…その優しさに、甘えたくなる。
全部投げ出して「わたし」に戻って、
すがりついて泣きじゃくってしまいそう。

そんなこと、する訳にいかないって、解ってるのに。
君と居ると、ドンドン弱い自分が顔を出してくるんだ。

だから、ごめんね。君のことは大好きだけど、「僕」が
「僕」でいるためには、この「線」を越えられない。


それなら、いっそ誰も選ばなきゃ良かったのかもしれない。
だけど、1人で耐えるのも苦しかったんだ。


甘やかしてはくれないけど、突き放しもしない。「僕」は
「僕」として、その中で「わたし」を知ろうとしてくれた。
そのことに安らぎを覚えたから、「彼」の手をとったんだ。

いつか、「彼」とは道を分かつ日が来るかもしれない。
そうなった時に、君を選ぶかは分からない。
それでも、生涯君との繋がりを手放すつもりはない。

これが、今の所の本音。
とても自分勝手で、酷い答えだって解っている。
残酷なまでに優しい君の想いに、付け込んで
甘えてる。ってことも。

愛想を尽かして見放すなら、今だよ。
でないと君の優しさを、逃げ道にしてしまう。

今ならきっと、君に切り捨てられても耐えられる。


だから、「わたし」なんかに囚われていないで、幸せになって?


仙←伊 で一応 文伊 前の『甘塩っぱい思い出』と対のつもりです。 てか、4部作で文伊の方もセットにしようかと 『無月』のいっちゃん(伊作)の根底にある感情は 『落花』よりも『千里同風』に近いようです。 …おかしいなぁ。何でこんなに病むんだろう 2008.12.12