就職10年目にして、初めて年末年始の休日窓口当番から解放された町役場の職員富松作兵衛(28)は、
独り暮らしをしている自宅で一緒に年を越した友人達を早朝に一旦返した後。昼前まで気持ち良く
惰眠をむさぼり、起きてから年賀状や年賀メールをチェックし、とりあえず同じ町内にある実家に
顔を出したが、馴染んだ味の雑煮やおせちをつまんでいる最中に、「お前、良い人とか居ないの?」
と見合い写真を押し付けられそうになったため、慌てて
「俺ちょっとこの後用あるから!」
と言い訳をして実家を後にした。
そして、ほんの数時間前まで一緒に居たとはいえ、親や世話になっている人達とも知り合いだしな。
ということで、友人達の実家などに挨拶回りに行くことにし、そうとなると手土産が必要なので、一旦
駅前まで行って、スーパー福富(年中無休)で買い物をすると、まずは店舗の上階に住んでいる数馬と、
すぐ裏のアパートに住んでいる藤内を訊ねてみましたが、2人だけでなく、数馬と同居している義兄の
善法寺伊作も不在のようでした。
続いて、商店街にある自分の店の奥に住んでいる孫兵の所へ足を運びましたが、彼も留守なのか寝ている
のか反応がなかったので、今度は実家の次屋家よりも居る可能性の高そうな七松組を訊ねてみると、
「昨日の夜にお前んち行ってから、帰って来てないって聞いてるぞ。なぁ、滝?」
「ええ。次屋建設の皆さんはお昼前に挨拶に居らっしゃいましたが、三之助は居ませんでしたね」
と、6代目の小平太と家政夫の滝夜叉丸から口々に言われ、神崎家でも
「まだ帰って来てませんよ〜」
と言われてしまいました。
「……。まさかアイツら、俺んちから帰る途中でどっかで迷ってんのか?」
20年強の付き合いで、三之助と左門の方向音痴っぷりは、誰よりも嫌という程知っているのに、酔いと
睡魔に負けてそのまま自力で帰したことを、今更ながら後悔し始めた作兵衛は、駅前交番や初売りで
開けている商店街の面々だけでなく、職場である町役場で今年の当番をしている後輩の下坂部平太にも
訊き回ってみましたが、三之助と左門の目撃情報はありませんでした。
おまけに、残りの不在の友人達にも捜索依頼の連絡をしましたが、3人共電話には出ず、メールの方も、
夕方を過ぎてからようやく
今さっきまで寝ていた。
見つかったか?
という返信が孫兵からあっただけで、その頃には神社の境内で甘酒にありついた後、見知らぬ参拝客と
意気投合し大盛食堂で飲んでいたことが判明していました。
結局、三箇日いっぱい音信不通だった数馬と藤内は、
「お前んちから帰って寝なおそうとした矢先に、所長に『社員旅行に連れて行ってやる』とか言って
拉致られて、フランスでガレットデロア食ってきた」
「僕と義兄さんも同行させてもらったっていうか、義兄さんのついでに僕らも。って感じだったかな」
とのことで、日本にすらいなかったようです。
年末年始企画 おりづる様リク
苦労人友の会の誰かで「何故か、どこも留守」とのことでしたので、カウントダウンと
繋げて「何故か」感を増してみましたv
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