とある三人の女の話をしよう。
一人は、とても美しく、それ故に酷い不幸に見舞われた女。
一人は、目的の為ならば手段を選ばぬ、強かな女。
一人は、道具として産み落とされたが、それを享受し楽しんですらいる変わり者。
美しく不幸な女の名は「風花」。彼女の幸福は、好き合って添うた男が討ち死にした所で終わった。
それでも、初めの内は愛しい夫の遺した児が胎に宿っていることを支えに、その児と二人で生きて行ければ
充分だと考えていた。けれど夫の上役だった男に、母子共々庇護することを条件に、半ば無理やり側室とされ、
その美しさと主人の寵愛を妬んだ他の側室から、夫が主人に謀殺されたことを聞かされた。
美しき己に横恋慕した主人は、夫に差し出すよう命じたが、それを拒んだため、戦場で孤立させ見殺しにした。
その真相を知った風花は、児を産み落として直ぐ、自ら命を絶った。――産んだばかりの我が子と、その子を
託した乳母の目の前で、火に焼かれ、二目と見られぬ姿となるという、主人への意趣返しの如き術でもって。
風花より児を託された強かな女の名は「ヨリ」。彼女は風花の夫の妹であり、兄の死の真相と、義姉の覚悟を
聞き、己が全てを持って主人へ復讐することを決め、夫と離縁してまで側室として懐に入り込み、娘も産んだ。
そして他の妻子を、時には陥れ、時には取り込み、勢力を拡げていった。
ヨリの産んだ娘は、母親と実によく似た気質を持ち、名は亡き伯母と同じ音で「楓香」。母の手足となり、
父を貶める為の情報収集から、真偽を織り交ぜた中傷の流布や工作、その他諸々、くのいち並の強かさと
手管を身に着けており、並大抵のことでは動じない。
その風花の息子として生を受け、ヨリによって実の父と同じ名を与えられ、養父を苦しめることだけを
教えられて育ち、年を追うごとに父の面影が増し、楓香を仲介し養父を陥れる為に動く。
それが私「鉢屋三郎」で、何一つ「私」としての真実など持たなかった。……十の歳までは。
十の時に、君と―ついでに他の連中とも―出会い、君は父も養父もヨリ殿達も無関係に接してくれ、父と同じ
顔を厭う私に、顔を貸してくれた。事情を話しても
「それでも、君は君だろ?」
そう言ってくれた。その言葉に何物にも代え難い安らぎと喜びを覚え、いつしか君を手に入れたいと欲する
ようになった。
ひとまず君と共に生きていく約定を交わせただけでも、充分だった。それなのに、私が君に執心しているのと
同じ位、君も私に執着しているのだと知った時。夢かと思い、夢だとしても喜びで気が狂いそうだった。
それほどまでに、私にとって君は、神聖なる至上の存在なんだ。
――という訳でな、雷蔵。風早の名は、母上の字であり君の名とも対になると思って付けただけで、楓香とは
無関係というか、由来が半分同じだけだし、他の義兄弟ってことになってる連中と折り合いが悪いのは事実で、
楓香は乳母子で従妹という意味で、「親しい妹」なんだ。
だから、その、今まで詳しく話したことが無かったのは謝るから、機嫌を直してくれないか?
久方ぶりに「水中花」ネタでも書こうかと思い、繋ぎというか説明を兼ねて書いたんですが、オチが若干ギャグっぽく……
しかもオチ以外の内容は、離の『歪』とほぼ同じですし
ついでに対になる楓香の独白っぽい話も書いてみましたが、内容はほぼありません。
2010.1.9
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