とある夜。片手に酒を持ち、もう片方の手で4年は組の斉藤タカ丸を引き摺って、4年ろ組の田村三木ヱ門が、
	4年い組の平滝夜叉丸と綾部喜八郎の部屋を訪れた。その目は完璧に据わっていて、どうも例によって例の
	如くの酷い有様な会計委員会の活動から解放されたばかりらしく、二徹だか三徹明けの状態だが、呑まなきゃ
	やっていられない精神状態なのだという。

	酒宴が始まって程なくすると、元々さほど強くないことも相まって早々に酔っ払った三木ヱ門が、委員会に
	対する不平不満をこぼし出した。すると、同じくあまり強くない滝夜叉丸も
	「ウチの委員会だって……」
	などとグチり始めた。

	その後も延々と、自分達の委員会の活動が、如何に酷なものか不幸自慢のように言い合い、どちらの委員会が
	まだマシか。などと、酔っているからこそ大真面目に検討し合う2人を、残る2人は、タカ丸は楽しそうに、
	喜八郎は興味なさ気に眺めながら、とりとめもない話をしつつ飲んでいた。


	そして翌日。委員会の作業中に
	「昨日の夜、そんなことがあったんだぁ」
	と楽しげに語ったのは、4人の中で唯一酒に強く、委員会にも何の不満もないタカ丸だった。


	そこから更に、火薬委員からその友人(特に兵助→三郎と伊助→庄左ヱ門)経由で、学園長の耳にもその話が
	入ったらしく、数日後いきなり
	「委員会交流で、4年生を入れ替えじゃ!」
	などと言い出した。


	それに対し、まず火薬委員会が
	「これ以上人数が減るのは困る」
	と抗議し、生物委員会からも
	「ウチは逆に、人数だけは居るんで……」
	という声が挙がった。

	そこで、4年生だけでなく3年生と、ついでに2年生も入れてごちゃ混ぜにして割り振れば丁度良いだろう。
	ということになり、元来の委員会に残っているのは56年生と1年生のみ。全委員会に割り振るので、人数が
	増える委員会もあれば減る委員会もある。何処の委員会に誰が行くかは、くじによる無差別。そんな条件で、
	委員会入れ替えの7日間が始まった。 


入れ替え初日の朝。保健委員長である6年は組の善法寺伊作は、食堂で6年い組の友人達を見つけると、 挨拶をして同じ机に着くと、にっこり笑って2人に話しかけた。 「文次、仙蔵。ウチの子達、君らの所に行くけど、いじめないでね」 「安心しろ、きちんと世話してやるさ。……しかし藤内にも、同じような事を言われたな」 保健委員会の23年生は、それぞれ会計と作法に割り振られており、作法に行くことになった三反田数馬と、 元来の作法委員である浦風藤内が同じ3年は組の友人同士の為、釘を刺されたらしい。 「てめえの場合、自業自得だろうが」 「何を言う。注意すべきは一年共、特に兵太夫の方だ。それから、その藤内もお前の所に割り振られたが、  イビるなよ文次郎」 「俺は、きっちり仕事さえこなすなら、誰だろうが気にしねぇよ」 正直なところ、現作法委員は委員長の立花仙蔵を筆頭に、藤内を除いた委員達は皆嗜虐的な性格の持ち主の ため、伊作や藤内が念の為釘を刺すのは無理もなかったりする。しかし傍から見た普段の活動内容や、予算 会議の所為で悪印象を抱かれている会計委員会は、若干濡れ衣のような気がしなくもなくもないような? 所変わって、一方こちらは、始業前に確認しておきたかったことがあるので、早めに朝食を終えて用具倉庫に 来た用具委員長の6年は組の食満留三郎と、留三郎に用があってやってきた3年ろ組の富松作兵衛で、 「あの、食満先輩。とりあえず三之助は、『待て』って言ったら、その場で30秒は止まるよう躾ましたから」 「ああ。そうなのか」 用具委員会に割り振られた3年生が作兵衛と同じくろ組の、無自覚迷子次屋三之助なため、普段彼の飼い主 扱いを受けておりある程度扱いも心得ている作兵衛は、急な話であまり事前に手は打てなかった上、直前に なってしまったが、ひとまず大慌てで諸注意を伝えに来たのだという。 「で、コレは奴ら用に切れにくいように強化した縄なんで、使って下さい」 「解った」 一見何の変哲もない普通の縄のようで、しかも遣い込まれていて逆に切れやすそうにも見えるその縄は、 三之助と、もう一人の迷子神崎左門を除く3年生4人で試行錯誤をしながら改良したものなのだという。 「他にも、何かあったらすぐ呼んで下さい! どうせ暇してると思いますから」 「……。多分大丈夫だと思うんで、お前もちゃんと、向こうの委員会の仕事をしてこいよ」 「いや、だって、学級ですよ? 俺の行き先」 留三郎は仮にも最上級生なので作兵衛などよりあらゆる面で有能であり、そもそも延々山を登ったり降りたり しまくる体育委員会と違い、基本的に用具委員会は一所で作業をするのだから迷子になる可能性も低い。その ため作兵衛を頼ることはまず無いだろうと留三郎は思ったが、これが性分かつ飼い主認定されている原因なの だろうと考え、とりあえずは聞き入れて、一応とばかりに自分の仕事を蔑ろにしないように釘も刺しておいた。