「えーと。孫兵は生物で四郎兵衛は体育だから、ひとまず今日は、山中なんかで蛇や毒虫に咬まれた際の、
	 正しい対応をやろうか」

	保健委員会に割り振られた生物委員の3年い組伊賀崎孫兵と体育委員の2年は組時友四郎兵衛が医務室を
	訪れると、委員長の伊作はヒマつぶしに作っていたらしい薬を片付けながらこう言った。

	「どういうことですか?」
	「保健委員会の一番の仕事は、勿論医務室に来たりした生徒の手当てなんだけど、絶え間無くひっきりなしに
	 患者が来るってわけでもないから、暇な待機時間は、薬の調合や備品の手入れとか以外に、簡単な勉強会
	 みたいなものもしているんだ」
	「わぁ、そうなんですか」

	伊作の言葉に、四郎兵衛は目を丸くして感心し、孫兵は「そう言えば、数馬からそんな話を聞いたことあるな」
	などと思った。

	「うん。簡単でも少しでも、とりあえず覚えておけば、もしもの時なんかも、咄嗟に適切な処置が出来るかも
	 しれないしね」
	「凄いですねぇ」

	素直に感心する四郎兵衛に、元々保健委員である1年生の2人は
	(確かに、役には立ってますけど)
	(僕ら不運委員会だから、「もしも」の時が多いんだよね)
	などとひっそり考えていたのは秘密である。

	「というわけで、今日は毒のある生き物に咬まれた時の処置。明日は、毒の種類についてでもやろうか。
	 それで、明後日は……何か知りたいことある?」
	「いえ」
	「僕らは別に」

	いきなりそう訊かれても、特には思い付かないものだが、
	「そっかぁ。じゃあ、乱太郎と伏木蔵は何かある?」
	と伊作が1年生にも訪ねると、彼らは2人が各自の委員会に戻った時向けの、適切な案をそれぞれ挙げた。

	「簡単な傷薬の作り方はどうですか?」
	「あとは、野生の薬草の解説とか」
	「ああ。いいね、2人共。それじゃ明後日と4日目はそれにしよう。孫兵と四郎兵衛も、何か訊きたいこと
	 出来たら、遠慮なく訊いてね」

	
	こうして―通常通りの不運に驚いたり巻き込まれることは多少あれど―保健委員会に来た2人は、とても
	有意義で身のある7日間を過ごしたのだった。


保健:伊賀崎孫兵・時友四郎兵衛


「食満せんぱーい。今日はまず、何をするんですかぁ?」 「まずは、次屋三之助の捜索をして、その後体育委員の壊した物の修理だな」 作兵衛の居ない用具委員会は、それでも割と通常通りに始まったが、代わりに来る筈の次屋三之助は、集合 時間になっても現れず、「迎えに行くべきだったか」と、留三郎はまずちょっと後悔していた。 「はぁーい」 「次屋を見つけた奴は、どれを直すか好きなのを選ばせてやるから、頑張って探せよ」 「えっと、じゃあ、見つけられなかった子や、先輩が一番に見つけたらどうするんですか?」 褒賞めかして言った留三郎の言葉に、手を挙げて問うたのは1年ろ組の下坂部平太だった。 「いつも通り、俺が割り振った物の修理だ」 「解りました」 結局の所全員で分担して全て直す上、1年生に任せられる物は限られているので、誰が見つけようとさして 変わらなかったりする。そんなこんなで方角を決めて三之助を捜索しに行き、発見して留三郎に報告に来た 平太は、作兵衛が不在の分頑張るから。と、あえて少し大変な物を選んで留三郎を大いに喜ばせた。 発見後は、とりあえず何なら出来るか三之助本人に確認し、様子を見ながら直させていたが、うっかり 木材の追加を取りに行かせて再び迷子になられて探す羽目になったので、留三郎は2度目の後悔をしながら 作兵衛から預かった縄を腰に結んで、ひとまずその端を自分で持って作業をしていた。しかし、「紙が風で 飛んだ」だの「別の工具の方がいい気がする」だの「やり方が分からない」だのと、何かにつけてその場から 動こうとするため、途中から近場の木に結びつけることにした。 そして1日目が終わった時点で、 「もうちょっとまともに、作の話を聞いておけばよかったか」 などと思いはしたが、日に日に留三郎も後輩達も対処に慣れていき、時には1年生が三之助に作業の説明を する姿なども見られたため、最終的には「それなりに巧くいったのではないか」という感想になったという。 用具:次屋三之助


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