「おいでませ、作法委員会へ☆」
	「うわぁ」

	火薬委員会から作法委員会へやってきたタカ丸が作法室に入るなり、目の前に首実検用の生首フィギュアが
	降ってきた。

	「ああ、もう。だから止めろって、僕は言ったのに」
	「すごーい。良くできてるねぇ。コレ、髪の材質何？」

	作法委員会内では、藤内に次いで真っ当な部類に入る１年い組の黒門伝七が、やり過ぎなカラクリ小僧
	１年は組の笹山兵太夫の所業に眉をしかめると、予想外にタカ丸は目を輝かせていた。

	「え？　そこですか？」
	「流石タカ丸さん」

	よく考えてみると、タカ丸は以前も目の前に首フィギュアが飛んできても、動じていなかった覚えがある。
	更に、続いて訪れた３年は組の三反田数馬も全く驚かなかったことに、１年生達は逆に驚いた。

	「……。僕が、本来何委員だと思ってるの？」
	「ふう……じゃなくて、保健委員、ですよね。でも、それで何故？」
	「そう。だから、この程度の物、ウチの委員長の解剖図と比べたら、何てことないんだよ」

	うっかり「不運委員」と言い掛けたことは気にせず、数馬は少し遠い目をして答えた。

	「伊作の解剖図は、我らでも引く程だからな」

	曰く、伊作が図解をする際は、まず通常の人体図を描き、次いで皮膚を消した筋肉の図、内臓、骨格と順に
	描いたものを並べて説明するのだそうだが、実にその絵が写実的で、時には病気や怪我の状態の図解なども、
	終始ニコニコ笑いながらするのが、逆に怖ろしいという。


作法：斉藤タカ丸・三反田数馬





	普段は委員長や上級生の怒号が飛び交う会計室が、この日は妙に静かだった。
	その原因の一つは、小競り合いを繰り広げてばかりの仲の悪い３４年生が両方居ないからで、もう一つは
	代わりに会計委員会に出向してきている２人が、２人共無駄話などせずに真面目に作業に取り組んでいた
	からだった。

	「計算終わりました。次はどれを？」
	「あ、ああ。んじゃ、一応確かめるんで、その間にコレを頼む」

	下手すると３年の神崎左門よりも、早くかつ正確に帳簿を仕上げて委員長の文次郎に差し出したのは、
	２年い組の川西左近だった。

	「……合っているな」
	「当たり前です。保健委員に、数値間違いは許されませんから」

	帳簿を確認した文次郎の呟きに、算盤をはじきながら心外そうに答えた左近曰く、調薬で薬種の分量を
	間違えると大変なことになるので数字には強く、かつ面倒な生薬や薬の名前も読み間違いがないよう、
	きちんと書くように言い含められているので、字が読みやすいのも当然のことなのだという。

	「団蔵、ここまた間違っているぞ。ちゃんと書けよ」
	「うっさいな、今直そうとしてたしー」
	「なんだよその開き直りは。アホのは組のくせに！」
	「……左吉」

	今日も今日とて悪筆の１年は組の加藤団蔵に、１年い組の任暁左吉がケチをつけ、いつも通りのケンカを
	繰り広げそうになった２人に、やんわりと藤内が声を掛けた。

	「はい」
	「俺もは組だけど？」
	「は、はい。すみません浦風先輩」

	藤内までけなす気は無かった左吉が慌てて頭を下げると、藤内は「まぁ、別に良いんだけどな」などと
	言いながら、団蔵の帳簿と手元を覗き込んだ。

	「団蔵は、ひとまず正しい姿勢でちゃんと筆を持て。それだけで字はだいぶ改善される筈だし、きちんと書いた
	　方が間違うことも減って、直す手間はなくなるから」
	「あ、はい」

	団蔵の悪筆は、その程度ですぐに改善されるような簡単な問題ではないが、それでも指摘されたことに気を
	つけると、若干マシにはなったように見えなくもなかった。そのことに感心した左吉が、ひとまず作業に
	戻った手を止めずに藤内に話しかけると、

	「左門も三之助も、別に字が下手なわけではないが、集中力があまり無く、すぐに飽きてやっつけで宿題を
	　終わらせようと殴り書きになったりするからな。この手の指導は慣れているんだ」

	団蔵の指導をしながら自分の分の帳簿の計算をしている藤内は、苦笑交じりにこう答えた。根気強い指導や
	作業の同時進行は、同期の友人達や他の作法委員会のへのツッコミで慣れているらしい。
　


	「何だろうな。学年は一つずつ下がったのに、本来の先輩方より、早くて仕事が正確な気がする」
	「だな。この調子だと、入れ替え期間中は、徹夜無しっぽいな」

	思いの外順調に作業が進んだためにもらえた休憩中。左近が淹れたお茶を飲みながら、１年生達は
	委員長や先輩達本人に聞こえないように囁き合っていた。

	「あとさぁ、何か川西先輩も浦風先輩も『綺麗な姉ちゃん』って感じがするのは、俺だけかな」
	「いや。僕もちょっとそう思う。アタリなんだろうけど、何だか落ち着かないよな」

	藤内も左近も、仕事がそこそこ出来て面倒見もよく、ついでに若干女顔な為、普段の先輩達とあまりに
	違いすぎて落ち着かないのは、実は委員長の文次郎も同じだったという。



会計：浦風藤内・川西左近