詳しいことは覚えてないし知らないけど、物心付いた時にはもう母親はいなくって、父さんも
	あんまり家にいなかった。
	だから、僕を育てたのは10歳上の滝。タカ兄もよく遊んでくれたし、三木もそれなりに面倒を
	看てくれたけど、小さい頃の僕は、滝が居ないとダメな子だった。

	だから、滝が学校の友達や、出来たばっかの彼氏と出掛けようとするたび、駄々をこねては
	引き留めたり、ついて行きたがった。
	そうすると滝は、相手に「妹がぐずるから行けなくなった」とか「妹も連れて行っていいか」みたいな
	連絡をして、大抵次からは誘われなくなったりフラれたりする。

	そんな事を何度繰り返しても、何故か滝は友達や彼氏よりも僕を優先してくれて、
	「こんなに妹想いで、よく出来た私の良さが解らんやつなど、こちらから願い下げだ」
	なんて強がるようになった。
	だから、今の滝のあの性格は、半分くらいは僕の所為かもね。残り半分は元からだと思うけど。

	駄々をこねて引き止めるのをやめたのは、滝が高1で僕が小学校に上がるちょっと前。
	いつも通り、出来たての彼氏と出掛けようとしたんで、「行っちゃヤダ」って駄々をこねた。
	そしたら、家まで迎えに来てたその彼氏は、当然のように

	「一緒に来るか、妹?」

	って。その日はついて行ったけど、その後も毎回
	「連れてくればいいじゃん」
	「下の姉ちゃん保育士だから、頼めば多分預かってくれるぞ」
	みたいに、どれだけ僕が駄々をこねて邪魔しても一向に気にしなかったから、次第について行くのも、
	駄々をこねるのもやめた。だって、子供心にすごいムカついたんだもん。あの人の、僕のことなんか
	全然気にしてない態度は、僕じゃ絶対に敵わないのを、ハッキリ見せつけるようなものだったから。

	その彼氏が、今の滝の旦那で、僕の永遠の敵。

	タカ兄なんかは呑気に
	「きぃちゃんって、ちっちゃい頃はすっごい駄々っ子で滝ちゃんっ子だったのに、最近は淡白な
	 感じだよねぇ」
	とか言うけど、単に表に出さなくなっただけ。無表情でも滝は解ってくれるし、下手に駄々をこねる
	よりも、こっちの方が意外と構ってもらえるから。あと、基本的に昔から、滝にしか興味無いし。





あんまり喜八郎っぽくない気もしますが、幼少期だし、こういう経緯で今の感じに行き着いた。 ということで…… そもそも 「家族モノの斉藤兄妹は、末っ子だけ歳離れてるんだよなぁ」 程度の発想からの派生ですし 2009.6.21