4ヶ月前に、人外の居候とクラスメートと、ついでに近所の住民が増えることになった。
とはいえ、そいつらは前からうちに入り浸っていた知り合いだし、室町の世から生きてるとかいう元上司な
親父を筆頭に、俺の周囲の殆どは、妖怪・化物・宇宙人・変態のどれかに分類されるんで、今更何が変わる
訳でもないだろうと思っていた。
その読みは、大きく外れてはいなかったが、少し甘かったかもしれない。そう思い始めたのは、1週間経つか
経たないかの頃だった。
俺─諸星尊(高2)─と同じクラスに「鏡(ナイト)京介」とかいう名前でクォーターの帰国子女設定で入れられた
ミラーナイトは、元から丁寧口調で物腰も柔らかな紳士タイプで、ついでに人間態の見た目もその設定にそぐう
ような涼しげで清潔感のあるイケメン(しかも眼鏡)だったもんだから、転入初日から女子の絶大な人気を集めた
上に、謙虚な態度や嫌味のないモテ要素は男子受けも悪く無かったんで、すぐに奴はクラス中どころか学年中の
注目の的になった。しかし本人は、他人の干渉に慣れてない元引き籠りなもんだから、そんな扱いに戸惑っていた。
そこまでは、素性も属性も知っている俺からすれば、当たり前の展開で、そうなると顔見知りで、表向きも一応
知人てことになっている俺に多少助けを求めてくるのも、まぁ予想の範疇ではあったんだが、問題は……
「ねぇねぇ、みこっちゃん」
「その呼び名はヤメロって、散々言ってるよな」
「鏡くんの家って、尊の家と近いんだって?」
「そうだけど……」
「それだけ?」
「どういう意味だよ」
「えー。ただのご近所さんにしては、懐かれてるっていうか、心許されてるなぁ。って思って」
いつの時代も、女ってのは群れんのと噂話が好きで、忍び顔負けの情報網を持っていて、ついでに想像力というか
妄想力豊かな生き物だってことは解っていた。そしてそういう奴らから見れば、俺らは格好のネタだってことも、
少し考えりゃ容易に想像はつくか。
何しろ、元々クラスの誰とでも程々には親しくて、女子も性別お構い話し掛けては来るけれどそんなに面倒見が
良い性質ではない―むしろ「めんどくせぇ」を前面に出しているつもりだ―俺が、質問責めにあったり数人に
囲まれて話し掛けられてテンパる度に、目で助けを求めてきたり背に逃げ込んで来る転校生のフォローや仲介を
当たり前のようにしてやってるし、奴が俺を「尊」と呼ぶのは帰国子女設定なんでまぁ良いとしても、俺も奴の
ことを「ナイト」と呼んでんだから、勘ぐられても当然だよな。
「……。コイツらが引っ越してきたばっかの頃に、言葉通じなくて困ってた所を、通りすがりにうちの親父が
助けてやったとかで、それ以降たまにうちに遊びに来てたりするし、『同じ学校だから頼って良いよ』とか
親父に言われたらしいんだよ。んで、呼び名に関しては、『鏡』も『京介』も呼ばれ慣れてないから自分の
ことだって解り難いみたいだし、他の連中にも『ナイト』って呼ばれてっからうつったんだ」
前半は「そういう設定にしてある」だけだが、後半は嘘じゃない。特に呼び名に関しては、親父が勝手に付けた
偽名が元の名前とかけ離れているから、結びつかなくても仕方ないと思うしな。まぁ、同じくかけ離れた名前を
付けられたゼロは、その名前で呼んでも自分のことだと認識出来るらしいが、アイツは
「親父や、他の連中……メビウスまで出来たことが、オレに出来ない訳ないだろ」
とか言ってるしな。
とまぁ、そんな言い訳をしてみた所で、火のない所に煙を立てんのが好きな連中には何の効果も無い訳で、
うるさくて鬱陶しい以外に実害が無い内―文芸部と美術部の奴ら他数人には「新刊ネタにしたら締める」と
言っておいた―は、放っておくことにした。
ナイトを含む4人がこっちに来たのは7月頭のことなんで、半月もすりゃ夏休みに入るから、その間に色々と
慣れさせたり覚えさせりゃ、多少マシになるだろう。とも思ってたしな。
結果的にはその考えも甘かったことを痛感したのは、この数日後。
夏休み目前だがまだ授業があった日の昼休みに、窓の外を見ていた女子が「校門の所に中学生が居る」と
言い出し、まさかと思って見てると
「ゼ……じゃなくて、ラン! 何でアイツが」
予想通り、クソ親父が勤めている中学の制服姿の、ゼロ―こと諸星 ラン―だった。
出来ることなら放っておきたかったが、そうもいかないのですぐに校門に向かおうとしたら、案の定知り合い
なのかと訊かれたんで「遠縁のガキ!」とだけ答えて、ナイトも連れて駆け出していった俺は、不本意ながら
相当目立っていたらしい。
「何しに来たんだよ、お前。学校はどうした」
「『しゅうぎょうしき』とかいうので、昼前に終わった。けど、オッサンはまだ仕事あるらしくて、帰っても
することねぇと思ってたら、ここへの地図と金もらったんだよ」
……チッ。中学と高校は終業式の日が違ったか。でもって、余計なことしてくれやがったなクソ親父。確かに、
グレンもジャンも日中は一応働いてるようで、他に知り合いは居ねぇから、家に1人で居てもヒマだってのは
解らないでもないが、ぜってぇ面白がってそそのかしただけに決まってやがる。
「尊……」
んな目で見んなナイト。さっきからずっと窓越しに注目されてんだから、コレ以上騒ぐネタを与えんなよ。
「……解ったよ。んじゃ、午後はふけるか、6限が終わるまでコイツを図書館か何かで待たせるか選べ」
どうせあのクソ親父のことだから、電車賃は片道分しか持たせず、最寄駅から家への道も教えてないだろうから、
俺らと一緒じゃないと帰れねぇんだろ。
結局、ナイトに諭される形で図書館―もちろん高校のじゃなく、市立のだ―で大人しくしていることを飲んだ
ゼロを拾って帰ることになったが、だったら最初っから中学か家の近所の図書館辺りで時間潰してろってんだ。
ってことで、俺らが夏休みに入るまでは家か図書館で宿題してるよう言い聞かせたら、渋々ながら従ったのは、
成長したと言えなくもないのか?
ついでに、帰りの道でド派手なファイヤーパターンとドクロの描かれたデコトラの運ちゃんに声を掛けられたと
思ったら……
「グレン?」
「おう。今帰りか?」
「お前、地球の車の免許持ってたのかよ。あと、そのトラックは何処から……」
体育会系ノリで赤毛のリーゼントのトラック野郎は、何の違和感もないんだが、デコトラって確か個人のだった
ようなきがするんだが。
「あー。アノ、アマノ? とかいう奴に、何時間か講習受けさせられて、『この車をやるから、指定した場所へ
荷物を運べ』って」
……仮にも正義の味方に、何やらせてんだ悪の組織の親玉。そう突っ込んだら、ターバンには
「安心しろ。今の所検問に掛かるような物は運ばせていない。表向きの方で雇っているからな」
平然と返してきたその口ぶりはムカついたが、確かに表向きの顔は大企業のトップだから、トラック野郎の
1人や2人、個人的にも公的にも容易く雇えるんだよな。
そして、グレン本人も
「俺、別に正義の味方なつもりはないぞ?」
と言っていた。……そういや、コイツ元々「炎の海賊の用心棒」だし、ステージショーで敵側にスカウトされて
ついてってたことあるから、仲間になったゼロが一応正義の味方なだけで、コイツ自身は違うのかもな。
オマケに、ジャンの仕事も確認してみたらやっぱりターバン絡みで、同じツッコミを入れたら、
『私は、エメラナ様及びエスメラルダ星の護衛艦であり、姫様方に害を為さぬ限り、正義も悪も関係ない』
と言い切りやがった。
……正直もう、突っ込み疲れた。だから、「俺に実害さえなきゃ知らん」という、親父やターバンに対するのと
同じスタンスで行くことにしたが、別に良いよな。
むしろ、文句があるんなら代わってくれ。俺の人生の目標は「目指せ一般人」なんだからな。
お姉ちゃんへの貢物の続き的な
ここまで行くと、もう何のネタだか訳わかんないですよねぇ……
2011.11.6
戻